『公爵令嬢には、見えざるものが見える。話せる。殴れる。 話が通じないなら、へなへなぱーんち!』

しおしお

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第42話 呪われた屋敷

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第42話 呪われた屋敷

門の前で、
アヴァンシアは足を止めた。

――元婚約者の屋敷。

かつて、
自分が「気味が悪い」と
追い出された場所。

だが今。

そこに立つ彼女の胸に、
感傷はなかった。

「……重いですわね」

空気が、
沈んでいる。

霧のように
まとわりつく感覚。

『……うわ』

『これは、
ちゃんと
“呪い”だ』

「……ええ」

悪魔祓い詐欺で
どうにかなる類ではない。

門番が、
青い顔で頭を下げる。

「……お待ちしておりました」

門は、
軋む音を立てて開く。

中に一歩踏み込んだ瞬間――
視界が、
わずかに歪んだ。

「……境界が、
閉じています」

『……外に
出られないタイプ』

「……厄介ですわね」

屋敷の中。

廊下は暗く、
灯りは点いているのに
届いていない。

壁に、
黒い染み。

天井から、
低い囁き声。

「……教会の方々は、
ここで祈りを?」

案内役の使用人が、
震えながら頷く。

「はい……」

「ですが、
途中で……」

「……ええ」

続きを
聞く必要はなかった。

『……笑われてた』

「……ええ」

見えない存在が、
あからさまに
人を“見下している”。

祈りを、
戯れにする種類だ。

(……これは)

(力の有無ではなく)

(相性ですわね)

応接間。

元婚約者が、
憔悴した顔で待っていた。

「……どうだ」

問いは、
必死だった。

アヴァンシアは、
一度、
周囲を見渡してから答える。

「……強い呪いです」

即答。

誤魔化さない。

元婚約者は、
肩を落とす。

「……やはり」

「教会では……」

「無理ですわ」

静かに、
断じる。

「祈りを
嘲笑う性質のものです」

「信仰が強いほど、
逆効果になります」

『……嫌な性格』

「……ええ」

アヴァンシアは、
床に手袋越しで触れた。

冷たい。

だが――
生きている。

「……原因は」

視線を上げる。

「“家”ではありません」

「人です」

元婚約者の指が、
ぴくりと動いた。

「……心当たりが、
おありでしょう」

沈黙。

長い沈黙の末、
彼は口を開いた。

「……ある」

それだけで、
十分だった。

アヴァンシアは、
立ち上がる。

「祓えます」

元婚約者が、
顔を上げる。

希望と、
恐怖が混じった目。

「……本当か」

「ただし」

言葉を区切る。

「痛みます」

「物理的にも、
精神的にも」

『……殴るよ』

「……ええ」

元婚約者は、
一瞬迷い――
それから、
深く頷いた。

「……構わない」

アヴァンシアは、
拳を握らなかった。

まだだ。

今は――
確認の段階。

「では」

静かに告げる。

「本日は、
ここまでに
いたしましょう」

「次に来る時は――」

視線を、
屋敷全体に向ける。

「終わらせます」

その言葉に、
屋敷が
低く、
軋んだ。

呪いが――
彼女を
認識した証だ。

『……目、
付けられたね』

「……光栄ですわ」

アヴァンシアは、
踵を返す。

この屋敷は、
逃げ場がない。

逃げ場がないからこそ――
終わらせられる。

元婚約者の家は、
今、
彼女の手の中にあった。


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