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第46話 条件
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第46話 条件
契約書は、
想像以上に分厚かった。
白い紙の束を前に、
元婚約者――
いや、もはや
「交渉相手」は
静かに目を通している。
条件は、
すでに口頭で
伝えてある。
それでも――
書面に落とすと、
重みが違う。
「……改めて、
確認する」
彼は、
慎重に言った。
「これは、
夫婦というより――」
「同居契約です」
アヴァンシアは、
即答する。
「名前だけ
必要なのです」
『……バッサリ』
「……ええ」
契約書の一項目。
第一条
互いの私生活に干渉しない。
「……これは、
当然として」
彼は、
視線を下に移す。
第二条
アヴァンシアの
執事・使用人は、
全員、
元婚約者家に所属するが
指揮系統は
アヴァンシアに属する。
「……完全に、
君の城だな」
「ええ」
否定しない。
「私は、
守るものを
自分で決めます」
さらに。
第三条
屋敷内に居住する
“見えざる者たち”の存在を
妨害・排除しない。
ここで、
彼の指が止まった。
「……確認したい」
「その、“見えざる家族”とは」
「何人だ?」
アヴァンシアは、
少し考え――
正直に答えた。
「把握しておりません」
沈黙。
「……増える
可能性は?」
「あります」
即答。
『……増えるよ』
「……ええ」
彼は、
額を押さえた。
「……屋敷は、
どうなる?」
アヴァンシアは、
穏やかに微笑む。
「お化け屋敷に
なりますわ」
冗談ではない。
「ただし」
一拍。
「悪意ある存在は
置きません」
「人も、
見えざる者も」
「害をなす者は、
私が――」
『……殴る』
「……ええ」
「排除します」
彼は、
ゆっくりと
息を吐いた。
「……恐ろしい
公爵夫人だな」
「恐ろしいのは、
害意ですわ」
アヴァンシアは、
淡々と返す。
「それを
許さないだけです」
最後の項目。
第四条
この婚姻は、
“白い結婚”とする。
継承者については、
別途協議。
「……ここまで
割り切られると」
彼は、
苦笑した。
「未練も
挟む余地がない」
「未練は、
必要ありません」
アヴァンシアは、
ペンを取る。
「これは、
私が選んだ
居場所です」
「愛情でも、
義務でもない」
「契約です」
署名。
彼も、
署名する。
インクが、
紙に染みる。
その瞬間――
応接間の空気が、
わずかに揺れた。
『……決まった』
『……新しい巣』
見えざる者たちが、
ざわめく。
彼は、
気づかない。
だが――
感じ取ったらしい。
「……寒気が
するな」
「気のせいですわ」
にっこり。
「歓迎の準備が
始まっただけです」
契約は、
成立した。
それは、
婚約でも
和解でもない。
アヴァンシアが
主となるための
宣言だ。
彼女は、
立ち上がり、
静かに告げた。
「では」
「引っ越しの
準備を
始めましょう」
『……忙しくなるね』
「……ええ」
次は――
完全なる
“お化け屋敷”の
完成だ。
だがそこは、
恐怖の家ではない。
追い出されない者だけが
住める家。
彼女が、
ようやく手に入れた
居場所だった。
---
契約書は、
想像以上に分厚かった。
白い紙の束を前に、
元婚約者――
いや、もはや
「交渉相手」は
静かに目を通している。
条件は、
すでに口頭で
伝えてある。
それでも――
書面に落とすと、
重みが違う。
「……改めて、
確認する」
彼は、
慎重に言った。
「これは、
夫婦というより――」
「同居契約です」
アヴァンシアは、
即答する。
「名前だけ
必要なのです」
『……バッサリ』
「……ええ」
契約書の一項目。
第一条
互いの私生活に干渉しない。
「……これは、
当然として」
彼は、
視線を下に移す。
第二条
アヴァンシアの
執事・使用人は、
全員、
元婚約者家に所属するが
指揮系統は
アヴァンシアに属する。
「……完全に、
君の城だな」
「ええ」
否定しない。
「私は、
守るものを
自分で決めます」
さらに。
第三条
屋敷内に居住する
“見えざる者たち”の存在を
妨害・排除しない。
ここで、
彼の指が止まった。
「……確認したい」
「その、“見えざる家族”とは」
「何人だ?」
アヴァンシアは、
少し考え――
正直に答えた。
「把握しておりません」
沈黙。
「……増える
可能性は?」
「あります」
即答。
『……増えるよ』
「……ええ」
彼は、
額を押さえた。
「……屋敷は、
どうなる?」
アヴァンシアは、
穏やかに微笑む。
「お化け屋敷に
なりますわ」
冗談ではない。
「ただし」
一拍。
「悪意ある存在は
置きません」
「人も、
見えざる者も」
「害をなす者は、
私が――」
『……殴る』
「……ええ」
「排除します」
彼は、
ゆっくりと
息を吐いた。
「……恐ろしい
公爵夫人だな」
「恐ろしいのは、
害意ですわ」
アヴァンシアは、
淡々と返す。
「それを
許さないだけです」
最後の項目。
第四条
この婚姻は、
“白い結婚”とする。
継承者については、
別途協議。
「……ここまで
割り切られると」
彼は、
苦笑した。
「未練も
挟む余地がない」
「未練は、
必要ありません」
アヴァンシアは、
ペンを取る。
「これは、
私が選んだ
居場所です」
「愛情でも、
義務でもない」
「契約です」
署名。
彼も、
署名する。
インクが、
紙に染みる。
その瞬間――
応接間の空気が、
わずかに揺れた。
『……決まった』
『……新しい巣』
見えざる者たちが、
ざわめく。
彼は、
気づかない。
だが――
感じ取ったらしい。
「……寒気が
するな」
「気のせいですわ」
にっこり。
「歓迎の準備が
始まっただけです」
契約は、
成立した。
それは、
婚約でも
和解でもない。
アヴァンシアが
主となるための
宣言だ。
彼女は、
立ち上がり、
静かに告げた。
「では」
「引っ越しの
準備を
始めましょう」
『……忙しくなるね』
「……ええ」
次は――
完全なる
“お化け屋敷”の
完成だ。
だがそこは、
恐怖の家ではない。
追い出されない者だけが
住める家。
彼女が、
ようやく手に入れた
居場所だった。
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