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第3章
13話寝てる店主と、怒れる忍
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寝てる店主と、怒れる忍
店内には、穏やかな光が差し込んでいた。
白いカーテン越しの陽射しは柔らかく、外の喧騒を切り取ったかのように静かだ。
だがその静けさは、優雅な時間の演出ではない。
単純に――店主が、まだ起きていないだけである。
「お嬢様。そろそろ“お昼”です。起きてください」
カウンターの内側で仕込みをしていた忍が、抑えた声で呼びかける。
丁寧に切り揃えた食材を置き、雪乃の肩にそっと手を伸ばした。
雪乃は椅子の背にもたれたまま、ぴくりとも反応しない。
完全に、眠っている。
「……お嬢様?」
もう一度、少し強めに肩を揺する。
ようやく、雪乃の手がふわりと動いた。
「ん……」
目は開かない。
代わりに、力の抜けた声だけが返ってくる。
「……あと五分……」
「五分じゃありません」
忍は即座に切り返す。
「もう五時間寝てます。正午です」
「えぇ……?」
雪乃は眉をひそめ、信じられないというように目を細めた。
「でも……朝は、寝る時間でしょ……?」
「午前中全部を“朝扱い”するの、やめてください!!」
忍の叫びが、店内に響いた。
普段は抑制の効いた彼女が、ここまで声を荒げるのは珍しい。
その声に反応して、厨房からひょっこりと弥生が顔を出す。
「どうしました?」
状況を一目見て、すぐに理解したようだった。
「新作スイーツ、『あずきと緑茶のジパング風ミルクプリン』、完璧に冷えてますよ」
その瞬間だった。
雪乃の目が、ぱちりと開いた。
「弥生!」
がばっと身体を起こし、先ほどまでの眠気はどこへやら。
「ありがとう!
冷やす時間こそがスイーツの要なのよ……!」
両手を胸の前で組み、うっとりとした表情を浮かべる。
「尊いわ……!」
「……」
忍は言葉を失った。
怒りを通り越して、もはや呆然としている。
(お嬢様……扱いづらい……)
忍は、口だけを動かして弥生に視線を送る。
はっきりと形作られたその言葉は、「助けて」だった。
弥生は一瞬だけ困ったように笑い、小さく肩をすくめる。
雪乃はそんな二人の様子にはまったく気づかず、すでに頭の中はスイーツでいっぱいだった。
「プリンの層は?
緑茶はどのくらい抽出したの?」
「少し長めにしました。小豆の甘さと釣り合うように」
「さすがね。わかってるわ……!」
雪乃は満足そうに頷く。
忍は、静かに深呼吸をした。
ここで怒っても、無意味だ。
雪乃はこういう人物なのだから。
「……お嬢様」
忍は、なるべく冷静な声を作る。
「今日は、店を開けるんですよね?」
雪乃はきょとんとした顔で首を傾げた。
「ええ。気が向いたら」
「もう正午です」
「そうね」
「気は、向いてますか?」
しばしの沈黙。
雪乃は少し考える素振りを見せ、にっこりと笑った。
「……プリンが完璧なら、向いてるわ」
忍は天を仰いだ。
(基準がスイーツ……)
だが、それでも。
それが、この店の“開店条件”なのだ。
こうして、「雪の庭」は、今日もまた――
寝坊から始まる一日を迎えるのであった。
店内には、穏やかな光が差し込んでいた。
白いカーテン越しの陽射しは柔らかく、外の喧騒を切り取ったかのように静かだ。
だがその静けさは、優雅な時間の演出ではない。
単純に――店主が、まだ起きていないだけである。
「お嬢様。そろそろ“お昼”です。起きてください」
カウンターの内側で仕込みをしていた忍が、抑えた声で呼びかける。
丁寧に切り揃えた食材を置き、雪乃の肩にそっと手を伸ばした。
雪乃は椅子の背にもたれたまま、ぴくりとも反応しない。
完全に、眠っている。
「……お嬢様?」
もう一度、少し強めに肩を揺する。
ようやく、雪乃の手がふわりと動いた。
「ん……」
目は開かない。
代わりに、力の抜けた声だけが返ってくる。
「……あと五分……」
「五分じゃありません」
忍は即座に切り返す。
「もう五時間寝てます。正午です」
「えぇ……?」
雪乃は眉をひそめ、信じられないというように目を細めた。
「でも……朝は、寝る時間でしょ……?」
「午前中全部を“朝扱い”するの、やめてください!!」
忍の叫びが、店内に響いた。
普段は抑制の効いた彼女が、ここまで声を荒げるのは珍しい。
その声に反応して、厨房からひょっこりと弥生が顔を出す。
「どうしました?」
状況を一目見て、すぐに理解したようだった。
「新作スイーツ、『あずきと緑茶のジパング風ミルクプリン』、完璧に冷えてますよ」
その瞬間だった。
雪乃の目が、ぱちりと開いた。
「弥生!」
がばっと身体を起こし、先ほどまでの眠気はどこへやら。
「ありがとう!
冷やす時間こそがスイーツの要なのよ……!」
両手を胸の前で組み、うっとりとした表情を浮かべる。
「尊いわ……!」
「……」
忍は言葉を失った。
怒りを通り越して、もはや呆然としている。
(お嬢様……扱いづらい……)
忍は、口だけを動かして弥生に視線を送る。
はっきりと形作られたその言葉は、「助けて」だった。
弥生は一瞬だけ困ったように笑い、小さく肩をすくめる。
雪乃はそんな二人の様子にはまったく気づかず、すでに頭の中はスイーツでいっぱいだった。
「プリンの層は?
緑茶はどのくらい抽出したの?」
「少し長めにしました。小豆の甘さと釣り合うように」
「さすがね。わかってるわ……!」
雪乃は満足そうに頷く。
忍は、静かに深呼吸をした。
ここで怒っても、無意味だ。
雪乃はこういう人物なのだから。
「……お嬢様」
忍は、なるべく冷静な声を作る。
「今日は、店を開けるんですよね?」
雪乃はきょとんとした顔で首を傾げた。
「ええ。気が向いたら」
「もう正午です」
「そうね」
「気は、向いてますか?」
しばしの沈黙。
雪乃は少し考える素振りを見せ、にっこりと笑った。
「……プリンが完璧なら、向いてるわ」
忍は天を仰いだ。
(基準がスイーツ……)
だが、それでも。
それが、この店の“開店条件”なのだ。
こうして、「雪の庭」は、今日もまた――
寝坊から始まる一日を迎えるのであった。
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