9 / 33
第8話 隣国騎士団の到着と、明かされる“異常”
しおりを挟む巨体の魔獣が森の奥に吹き飛ばされた後も、
村はしばらく静寂に包まれていた。
住民も騎士も、状況を呑み込めず固まっている。
(……まあ、普通はそうよね。一撃で破級並みの魔獣を吹き飛ばすなんて)
ルーチェは小さなため息をつき、
倒れていた少女のほこりを軽く払ってあげた。
「もう大丈夫ですわ。怖かったでしょう?」
少女は泣き顔でうなずく。
そこへ――
地を揺らすような馬蹄の音が迫る。
ドドドドドド……!!
村の入口から、青銀の軍旗を掲げた騎士団が進入してきた。
馬上の鎧は磨き上げられ、
整然とした動きは王国軍より明らかに精強だ。
ざわり、と空気が変わる。
「グレイシア王国騎士団……!」
「本当に来ていたのか……!」
先ほど魔獣を吹き飛ばした銀髪の騎士が、
馬を引きながら村の中心へ歩み寄る。
その背後から、一際存在感のある人物が進み出た。
黒い外套に深青の紋章。
静かな威圧感と鋭い眼差し――
グレイシア騎士団・団長
レオニード・ヴァイスハイト。
その名を聞くだけで魔獣が震えると噂される“怪物狩り”。
王国の騎士たちが思わず後ずさるほどの迫力だった。
レオニードはまず、倒れた少女を回収するために護衛を呼び寄せた。
安全を確保した後、ゆっくりとルーチェの方へ視線を移す。
銀髪の騎士が報告した。
「団長。この少女から……“規格外の魔力残滓”が感知されました。
封魔刻印を施されているはずの王国民なのに」
村人と王国騎士たちがざわつく。
「封魔刻印されてるのに……魔力?」
「え、どういうことだ……?」
「そんなの、あり得ないはずだろ……?」
レオニードの鋭い瞳が、ルーチェを捉えた。
「君。名前は?」
「ルーチェ・フェリシアですわ。
……無資格の罪人で、追放中の身です」
淡々と答えるルーチェ。
レオニードは表情を変えず、
その言葉を飲み込むように静かに観察する。
(……この人、絶対気づいてるわね。“封魔刻印が効いてない”って)
ルーチェは少しだけ視線を逸らした。
だがレオニードは、さらに続ける。
「質問を変えよう。
なぜ、封魔刻印を受けてなお、君の周囲だけ魔力密度が異常に高い?」
「さっきの魔獣を倒したのは……あなたたちですよね?」
「もちろんだ。
だが、魔獣を一撃で吹き飛ばせるのは、私か副団長くらいだ。
……君も、そういう力を持っているだろう?」
ルーチェは困ったように微笑んだ。
(やっぱり見抜かれるのね……この国の人とは違って)
「いえ、わたくしはただの無資格者ですわ。
魔法なんて……使えません」
丁寧な否定。
しかしレオニードは首を振った。
「“使えない”……のではなく、
“使っていない”だけだろう?」
その一言に、村の空気が変わる。
王国騎士が声を荒げた。
「な、何を言っている!
こいつは罪人だぞ!? 危険人物だ!」
レオニードは微動だにしない。
「危険人物かどうかは――我々が判断する」
静かだが、圧倒的な威圧。
王国騎士たちは反論できず、口を閉じた。
ルーチェは小さく息を呑んだ。
(この人……すごい。
私の力を“暴走魔法”じゃなく“実力”として見抜いてる)
レオニードはルーチェに一歩近づき、
穏やかだが確信に満ちた声で告げた。
「君は、王国が追放していい器ではない。
……グレイシアへ来ないか?」
え。
周囲が息を呑む。
ルーチェは目を瞬かせ、ぽつりと呟いた。
「……え? あの……わたくし、ただの追放者ですわ?」
レオニードの口元がわずかに緩む。
「追放者ではなく――“逸脱級の才能”だ」
静かな声に、村の風が止まった。
こうして、
無自覚最強少女ルーチェに、初めて“価値”を見抜く者が現れた。
---
11
あなたにおすすめの小説
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
悪役令嬢まさかの『家出』
にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。
一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。
ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。
帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる