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第16話 隣国でティータイム、追放って案外悪くない
しおりを挟むフロストリア公爵邸。
王国が大混乱しているその同じ時間、ルーチェは──
優雅にティータイムを楽しんでいた。
「まあ、このお茶……香りがとてもよいですわね」
「ええ、ルーチェ様。フロストリアで特に人気のある茶葉でございます」
侍女がニコニコとティーポットを傾ける。
その横で、騎士たちがそわそわしていた。
「ルーチェ殿から煎れると……なんだか茶葉が花開くような感じになるな……」
「いや、実際に魔力が茶の温度を最適化しているんだ……」
「……す、すごい……日常の所作までも国宝級……」
(……皆さん、少し落ち着いたほうがよいのでは?)
ルーチェは苦笑しつつカップを置いた。
ふと窓の外を見ると、昨日自分が魔法で元気を与えた花畑が風に揺れている。
「本当に……この国は過ごしやすいですわ」
王国での窮屈な日々を思い返す。
「魔法免許だの、点数制度だの……
少しでも間違えば罰金や資格停止……」
息をするように魔法を使う彼女には、あの国はあまりに息苦しかった。
「追放と言われたときは少々驚きましたけれど……
今となっては“良いこと”でしたわね」
ぽつりと漏れる本心。
と、その瞬間──
「……ルーチェ嬢」
「きゃっ……!?」
声があまりに近くて、ルーチェは慌てて振り向いた。
いつの間にか、アークト公爵が背後に立っていた。
「す、すみません……! 少し考えごとをしていて……」
「構わない」
アークトは静かに、ルーチェのカップの位置を直す。
その動きはあくまで自然で、
何気ない動作に見えるのに、どこか丁寧で優しい。
「……紅茶の温度が少し下がっている。温め直そう」
「えっ!? あ、あの……!」
アークトは小さく指を動かし、
カップの紅茶だけをふわりと均一に温め直した。
「はい」
「……ありがとうございます」
(本当に……気遣いが細やかですわね……
フロストリアの貴族は皆こんな感じなのかしら?)
勘違いの方向がひどい。
アークト本人は、ルーチェが少しでも快適に過ごせるように全神経を使っている。
だがその溺愛ぶりは、あまりに静かで分かりづらい。
「ルーチェ嬢」
「はい?」
「この国で不自由はしていないか?」
「まったく、ありませんわ。むしろ快適すぎて……」
ふっとアークトの表情が柔らかむ。
(ふむ……それならば良い)
「……追放されたと言っていたな」
「はい。ですが……」
ルーチェは紅茶を見つめ、穏やかに微笑んだ。
「案外、追放って悪くありませんわね」
その言葉に、アークトの目がわずかに細まる。
「……ここは君の居場所だ。
誰にも邪魔されず、好きに魔法を使ってよい」
「公爵様……」
「安心しろ。私が保証する」
それだけ言って、アークトは静かに席を離れた。
侍女たちは震えていた。
「……公爵様が……今、優しく微笑みました……!」
「えっ、そんなに珍しいのですの?」
「一年ぶりの出来事です……!」
(えっ……そんなレア反応だったの?)
ルーチェは思わず顔を覆った。
* * *
その頃、王国では──
「うおおおおお!! 魔獣が! 魔獣が増えているぞ!!」
「魔法師団は!?」「ほぼ壊滅状態です!!」
「王太子殿下が怒鳴り散らしているぞ!」
「もう終わりだぁーー!!」
阿鼻叫喚だった。
* * *
そしてルーチェは今日も優雅に言う。
「追放って、本当に……案外、いいものですわね」
王国との対比は、悲しいほど鮮明だった。
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