無資格魔法使いが最強すぎる件 ―資格ってなんですか？ 強いのでそんな資格いりません―

第30話 世界の均衡を守る少女

　

空を覆い尽くした破級魔獣群は、まるで世界そのものが悲鳴を上げているかのようだった。

黒い波が押し寄せ、地を砕き、空気そのものを震わせる。
王国軍も隣国軍も反撃するどころではない。ただ耐えるだけで精一杯。
逃げ出す者がいないだけでも奇跡だ。

その中心で――ルーチェだけが、一歩も引かずに立っていた。

　

「……さあ、終わりにしましょう」

静かな声が響いた瞬間、風が反転したように世界が震えた。

彼女の周囲に展開した魔法陣は、これまでのどんな魔法よりも複雑で、精緻で、そして美しい。
まるで空に巨大な天球装置が姿を現したようだった。

アークト公爵が息をのむ。

「これは……古代の“世界調律式”……？　まさか、扱える者がまだ存在したとは……！」

周囲の騎士たちも震えた。

「あれを単独で……？　人間の魔力量じゃない……！」

しかしルーチェは淡々としていた。
覚悟というより、使命を果たすだけ――そんな静けささえある。

　

「世界を乱す存在は、世界が浄化すればいいのです」

ルーチェが小さく指を鳴らした。

その瞬間、天球陣が回転し始め、破級魔獣群の咆哮がかき消されるほどの“調律音”が響きわたった。

光が溢れ、魔獣たちの黒い体がひび割れ、霧散し――
次の瞬間、空全体が“まばゆい白”に染まった。

　

破級魔獣群は、跡形もなく浄化されていた。
大地を覆っていた瘴気も、空を縫っていた裂け目も、すべて消え去る。

空は晴れ渡り、雲ひとつない青が広がる。

ただひとり……ルーチェが、ゆっくりと深呼吸した。

　

「……これで、ようやく静かになりますね」

彼女が微笑むと、軍全体がどよめいた。

「救われた……」

「隣国も……他国も……全部……」

「一人で世界を……守ったのか……」

アークト公爵は、胸を押さえるように息を吸う。

（……この少女を“無資格”と呼んだ国は、なんと愚かだったのか）

事実、王国の魔術師団長は地面に座り込み、顔を覆っていた。

「我々は……本物を理解していなかった……」

恥と後悔が軍全体に広がっていく。
しかしルーチェ自身は振り返らない。

王国に出した答えは、もう決まっている。

この世界を救った少女の背中に――
もはや“王国の居場所”はなかった。