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第29話 規格外の大魔法
しおりを挟む破級魔獣の咆哮が、空を引き裂いた。
その声は大地を震わせ、
遠くの山々さえ共鳴するほど重く、禍々しい。
グレイシア国境――
王国から押し寄せる魔獣の群れが、とうとう姿を現した。
黒い霧をまとった巨獣、
地を這う異形、
翼を広げ空を覆う怪鳥。
その全てが“破級”と判定される災厄だった。
騎士団は震え上がりながら構えを取る。
「こ、こんな数……どう戦えと……!」
「我らの魔導砲では数体倒すが限界だぞ……!」
王国から逃げてきた兵士たちも絶望に打ちひしがれた。
「もう……王国は終わりだ……」
---
◆ ふわりと歩み出る少女
そんな中、
ルーチェだけが、風に揺られる花のように静かだった。
アークト公爵の横を通り抜け、
前線へと歩み出る。
「危険だ、ルーチェ!」
アークトが手を伸ばすが、彼女は振り向いて微笑む。
「大丈夫ですわ。わたくしひとりで十分ですから」
そのあまりに自然な言葉に、
騎士団がざわつく。
「ひ、一人で……?」
「破級群を……!?」
アークトだけは黙って彼女を見つめていた。
(君なら……本当にできてしまうのか)
---
◆ 古代魔力、解放
ルーチェが空に向かって手を掲げた瞬間――
空気が変わった。
風が止み、
音が消え、
大地そのものが息を呑む。
彼女の足元から金色の紋様が広がり、
千年前の遺跡でしか見られないはずの“古代魔法陣”が形成された。
魔導士団長が叫ぶ。
「ば、馬鹿な……!
古代魔法陣だと!?
本物を見た者など歴史上に数名しかおらんぞ!!」
騎士たちは思わず膝をつく。
王国から逃げてきた兵士も
「こ、これは女神……?」
と震えた。
---
◆ 世界の理をねじ伏せる魔法
ルーチェは静かに呟く。
「《黄昏の星降り(トワイライト・メテオ)》」
詠唱はたった一言。
次の瞬間――
空が割れた。
金色の光が雲を突き破り、
星屑のような巨大な魔力結晶が降り注ぐ。
それは炎でも氷でも雷でもない。
世界そのものの“理(ことわり)”を書き換えるような光。
破級魔獣たちは吠えながら迎撃しようとするが――
触れた瞬間、粉雪のように消えた。
逃げる間も、抵抗する間もない。
ただ浄化され、消え去るのみ。
---
◆ 軍勢、唖然
「……終わった……?」
「い、今の一撃で……破級が……全滅……?」
「意味が分からん……魔法とは……こんな……」
誰もが声を失い、
世界が沈黙した。
ルーチェはふぅ、と息をつき、
「ちょっと強めに撃ちましたわね……」
と、紅茶をこぼした時のような感想を漏らした。
騎士団長が頭を抱える。
「ちょっと……!?
今のは軍を十万持ってしても不可能な規模だぞ!」
---
◆ アークト公爵の胸が高鳴る
アークトはゆっくり歩み寄り、
ルーチェの肩にそっと手を置いた。
「……ルーチェ」
「なんですの?」
「君は……世界の均衡を、一人で支えられる存在なのだな」
ルーチェは小首をかしげる。
「そんな大げさなものではありませんわ。
少し魔力を使っただけですもの」
その無自覚さに、公爵の胸が強く脈打つ。
(……君の謙遜は、本気で危険だ)
彼はその場で悟る。
この少女は、世界を救うために生まれた存在だ。
そして――
彼女を守れるのは、この国だけだと。
---
◆ だが、災厄は終わらない
魔物群が消えた空の向こう。
さらに巨大な“影”がうごめいているのを、
ルーチェは感じ取っていた。
「まだ、終わりませんわね……」
ルーチェの目は、静かな闘志の光を宿していた。
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