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第29話 選ばれる者
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第29話 選ばれる者
決断というものは、
大抵の場合――
騒がしくない。
帝都、皇帝の執務室。
窓の外では、
いつも通り人々が行き交っていた。
「――イーグル・タロンを、
呼べ」
皇帝の声は、
静かだった。
だが、
それだけで十分だった。
しばらくして、
扉が開く。
「お呼びでしょうか、陛下」
イーグルは、
いつもと変わらぬ態度で一礼した。
だが、
アヴェンタドールには分かる。
(……覚悟して来ましたわね)
皇帝は、
書類を一枚、机の上に置いた。
「最近、
帝都が騒がしい」
「承知しております」
「原因は、
皇帝の婚約だそうだ」
「……はい」
沈黙。
皇帝は、
イーグルを見つめる。
「――噂とは、
便利なものだな」
イーグルの喉が、
わずかに動いた。
「否定も、
肯定も、
責任を伴わない」
一拍。
「だが」
皇帝は、
視線を外さない。
「噂が生まれる場所には、
必ず、
人の意思がある」
それ以上は、
言わなかった。
裁かない。
責めない。
だが――
見抜いている。
イーグルは、
静かに息を吐いた。
「……ご処分は」
「処分?」
皇帝は、
わずかに眉を上げる。
「帝国は、
才能を捨てない」
そして、
机の書類を指で押す。
「――配置換えだ」
イーグルは、
目を伏せた。
「辺境監査官」
その言葉に、
室内の空気が変わる。
表向きは、
重要職。
だが実際は――
中枢からの切り離し。
「不満か」
「……いいえ」
それは、
本音だった。
(生き残れた)
イーグルは、
深く一礼する。
「陛下のご判断に、
感謝いたします」
扉が閉まる。
残されたのは、
皇帝とアヴェンタドール。
「……甘い、
と思うか」
皇帝が、
ふと尋ねる。
「いいえ」
アヴェンタドールは、
首を振った。
「最善です」
一拍。
「彼は、
危険ですが、
有能です」
「そうだ」
皇帝は、
椅子に深く腰掛ける。
「だから、
排除しない」
そして。
「――代わりに、
お前を選ぶ」
アヴェンタドールは、
視線を上げた。
「宰相代理」
一瞬、
言葉を失う。
「正式な任命は、
後だ」
「……陛下」
「噂は、
消える」
皇帝は、
淡々と言う。
「だが、
空いた席は、
誰かが埋めねばならん」
沈黙。
アヴェンタドールは、
ゆっくりと息を吸った。
「……承知いたしました」
その声には、
迷いがなかった。
「帝国のために」
「いや」
皇帝は、
即座に否定する。
「――帝国と、
お前自身のために、だ」
夜。
アヴェンタドールは、
一人、部屋に戻る。
窓の外。
帝都の灯り。
(……選ばれましたか)
それは、
望んだ道ではない。
だが――
避けられない道だった。
(わたくしは、
“噂を超えた側”に
立ってしまった)
机の上には、
新たな職務一覧。
その重さを、
静かに受け止める。
同じ頃。
帝国の門を出る馬車の中。
イーグルは、
遠ざかる帝都を見つめていた。
(……完敗だ)
だが。
(終わりではない)
彼は、
薄く笑った。
帝国は、
静かに歯車を入れ替えた。
そして――
選ばれた者だけが、
次の段階へ進む。
決断というものは、
大抵の場合――
騒がしくない。
帝都、皇帝の執務室。
窓の外では、
いつも通り人々が行き交っていた。
「――イーグル・タロンを、
呼べ」
皇帝の声は、
静かだった。
だが、
それだけで十分だった。
しばらくして、
扉が開く。
「お呼びでしょうか、陛下」
イーグルは、
いつもと変わらぬ態度で一礼した。
だが、
アヴェンタドールには分かる。
(……覚悟して来ましたわね)
皇帝は、
書類を一枚、机の上に置いた。
「最近、
帝都が騒がしい」
「承知しております」
「原因は、
皇帝の婚約だそうだ」
「……はい」
沈黙。
皇帝は、
イーグルを見つめる。
「――噂とは、
便利なものだな」
イーグルの喉が、
わずかに動いた。
「否定も、
肯定も、
責任を伴わない」
一拍。
「だが」
皇帝は、
視線を外さない。
「噂が生まれる場所には、
必ず、
人の意思がある」
それ以上は、
言わなかった。
裁かない。
責めない。
だが――
見抜いている。
イーグルは、
静かに息を吐いた。
「……ご処分は」
「処分?」
皇帝は、
わずかに眉を上げる。
「帝国は、
才能を捨てない」
そして、
机の書類を指で押す。
「――配置換えだ」
イーグルは、
目を伏せた。
「辺境監査官」
その言葉に、
室内の空気が変わる。
表向きは、
重要職。
だが実際は――
中枢からの切り離し。
「不満か」
「……いいえ」
それは、
本音だった。
(生き残れた)
イーグルは、
深く一礼する。
「陛下のご判断に、
感謝いたします」
扉が閉まる。
残されたのは、
皇帝とアヴェンタドール。
「……甘い、
と思うか」
皇帝が、
ふと尋ねる。
「いいえ」
アヴェンタドールは、
首を振った。
「最善です」
一拍。
「彼は、
危険ですが、
有能です」
「そうだ」
皇帝は、
椅子に深く腰掛ける。
「だから、
排除しない」
そして。
「――代わりに、
お前を選ぶ」
アヴェンタドールは、
視線を上げた。
「宰相代理」
一瞬、
言葉を失う。
「正式な任命は、
後だ」
「……陛下」
「噂は、
消える」
皇帝は、
淡々と言う。
「だが、
空いた席は、
誰かが埋めねばならん」
沈黙。
アヴェンタドールは、
ゆっくりと息を吸った。
「……承知いたしました」
その声には、
迷いがなかった。
「帝国のために」
「いや」
皇帝は、
即座に否定する。
「――帝国と、
お前自身のために、だ」
夜。
アヴェンタドールは、
一人、部屋に戻る。
窓の外。
帝都の灯り。
(……選ばれましたか)
それは、
望んだ道ではない。
だが――
避けられない道だった。
(わたくしは、
“噂を超えた側”に
立ってしまった)
机の上には、
新たな職務一覧。
その重さを、
静かに受け止める。
同じ頃。
帝国の門を出る馬車の中。
イーグルは、
遠ざかる帝都を見つめていた。
(……完敗だ)
だが。
(終わりではない)
彼は、
薄く笑った。
帝国は、
静かに歯車を入れ替えた。
そして――
選ばれた者だけが、
次の段階へ進む。
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