婚約破棄されるはずが、強制力のせいで王子に溺愛されました!? ――原作者を呪ったら、強制力がサボり始めました――

しおしお

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2-1 王子とアリシアの出会い

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2-1 王子とアリシアの出会い

 その夜。王城最大の舞踏会場は、宝石を散りばめたような光で満たされていた。

 天井から吊るされた巨大シャンデリアは、きらめく光の海を作り、
 ドレスの裾がさらりと揺れるたび、床に映る輝きが水面のように揺らめく。

 国中の貴族が集う、年に一度の大舞踏会――
 本来なら“華やかな世界の始まり”に胸を躍らせる場面なのだろう。

 だが私は、会場隅の柱の影にぺたりと張り付き、

(どうか……どうか王子と目が合いませんように……!
 ルートを進めないで……私は背景でいいのよ……背景でッ……!)

 と、必死に祈っていた。

 今日は、原作でも重要な岐路の日だ。
 王子が“真のヒロイン”アリシア・フローレンスと初めて出会う。

 ここでしっかり二人が恋に落ちれば、
 私ミリアは安全にモブへ帰還できる。
 むしろ、ここで落ちてもらわないと困る。

「深呼吸……深呼吸……吸って……吐いて……
 よし、隅っこ住民としての存在感を抑え……気配を消すッ……!」

 私は遠くの壁と同化しようと努力していた。
 通行人Aの心で生きるのだ。
 むしろ空気になりたい。
 いや、空気より軽くなって蒸発したい。

 そんな中――

 会場にひときわ明るい光が差す。

「……来た……!」

 思わず顔を上げる。

 そこに立っていたのは、
 淡い金の髪を波のように揺らし、
 雪のように白いドレスをまとった少女。

 アリシア・フローレンス。

 ――原作ヒロインだ。

 清廉で、誰よりも優しく、真っ直ぐで、
 そして王子の心を救う運命の女性。

 その登場は、もはや光の演出でもあったのかと思うほど美しい。
 周囲の貴族たちが一斉にささやき合う。

「フローレンス伯爵令嬢だ……!」 「なんて輝き……まさに天使の降臨ね……」

 王子もまた、その姿に気づき、
 驚いたように歩みを止めた。

(よしよしよしよしよしッ!!
 見てる! ちゃんと見てる!!
 そのまま目を離さないでッ!!
 この国の未来がかかってますのよ!!)

 私は華麗にガッツポーズを決め……かけて、慌てて腕を下ろす。
 ここで調子に乗ると強制力に引っ張られかねない。
 とにかく目立ってはいけない。

 王子は歩み寄り、アリシアに優雅に一礼した。

「初めまして、フローレンス嬢。
 お噂はかねがね。
 よろしければ……私と一曲、踊っていただけますか?」

 アリシアは驚いたように目を瞬かせた。

 けれど次の瞬間、少しだけ頬を染め、
 柔らかな笑みを浮かべて言う。

「……光栄に存じます、殿下」

(きゃぁぁぁぁぁぁ!!
 いいわよアリシア! それよそれ!!
 その乙女リアクション、最高よ!!
 読者も王子も落ちるわよ!!)

 私は心の中で盛大に拍手を送った。

 音楽が流れ、二人は舞踏会の中央へ向かう。
 会場の視線がすべて二人に注がれ、
 私の存在など誰一人として気にも留めない。

(いいぞ……もっとだ……!
 私の“背景化計画”がどんどん進んでいる……!
 このまま物語が原作通り進めば、
 私は安全にモブへ戻れる……!
 何も起きないし、巻き込まれないし、
 闇堕ちイベントもスキップできる……!)

 希望が胸に広がる。

 王子とアリシアのダンスは、それはもう絵画のようだった。

 王子は誠実な微笑みを浮かべ、
 アリシアは光の粒子をまとうように舞う。

 周囲の貴族たちから、ため息がもれる。

「お似合いだわ……!」 「まるで運命に導かれたようね……」

(運命よ! 運命なのよ!!
 二人とも、そのまま突き進んでちょうだい!!
 私はあなた達の恋路を全力で応援するわ!!
 遠くから、影から、そっと……!)

 そんな熱烈な応援を心で送りながら、
 私はひっそりと柱の後ろへ身を寄せた。

 その時だった。

 視界の端で、王子が――
 一瞬だけこちらを見た気がした。

(……ん?)

 心臓が嫌な跳ね方をした。

 だが王子はすぐに視線をアリシアへ戻し、
 再び踊り続ける。

(……気のせいよね?
 うん、気のせい気のせい。
 私は今日は影。石ころ。無機物。
 私を見る理由なんてない……!
 ないったらない!)

 私は無理やり自分に言い聞かせた。

 ――それが、この後に続く不穏の始まりとも知らずに。


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