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第5章:妨害の影
第19話「見えない“圧力”」
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「見えない“圧力”」
アルピーヌが改革を続ける限り、屋敷は日に日に便利になっていくはずだった。
――しかし。
その前進の歩みは、ここにきて急激に鈍り始めていた。
---
「お嬢様……本日分の部材、また届きませんでした」
「また?今日で何回目かしら」
「ええと……七回目です」
リアンナが俯きながら言う。
たしかに最近、洗濯室まわりの増設工事や屋敷全体の配線施工のために発注した部材が、軒並み届かない。
しかも、理由は毎回別のものだ。
“運搬中に馬車が壊れた”
“配達担当が急に体調不良になった”
“別の貴族家からの大口注文が優先された”
偶然というにはあまりにも不自然。
アルピーヌは机の端に並べた納品予定表を見つめながら静かに言う。
「……偶然にしては出来過ぎね」
「まさか誰かが……?」
「ええ、“誰かが”動いてるのでしょう。裏から手を回して」
部材の納品が遅れれば工事が滞る。
工事が滞れば、彼女の改革は中断を余儀なくされる。
――つまり、これは正面からではなく陰湿に改革を止める方法。
アルピーヌの中で、冷たい怒りが静かに形を成していく。
---
その日の午後。
ルノー家と古くから取引している商人・グランバイスが、申し訳なさそうに屋敷を訪ねてきた。
「お嬢様……本当に、申し訳ありません。うちもずっとお嬢様のプロジェクトのお役に立ちたいのですが……」
彼は頭を下げながら歯を食いしばる。
「最近、“別のところから圧力があって”……どうしても大量の部材を確保できなくなってしまいまして」
「圧力、ね」
「ええ。はっきり言えば、我々商会に『ルノー家と付き合うな』という指示が来ております」
「指示?どこから?」
商人は口を開きかけ、そして小さく首を振る。
「……言えません。しかし、かなり上の貴族筋であることは確かです」
アルピーヌは無言で彼を見つめた。
商人は続ける。
「ルノー家からの注文を受けた商人は、なぜか次々と“行政検査”と称して嫌がらせの取調べを受ける。
税の再査定、予算の削減、許可証の再提出……。こんなこと、今までありませんでした」
「なるほど……裏工作ね」
「お嬢様のことを恨んでいる貴族が動いているのは確かです。どうか、どうかお気をつけください」
アルピーヌは丁寧に頭を下げた。
「教えてくれてありがとう。あなたの商会は悪くないわ。むしろ、ここまで忠告してくれるだけで十分よ」
商人は涙ぐみながら言った。
「本来なら、命をかけてでもお嬢様をお守りするべきなのですが……商会の者たちの生活を守るためには……!」
「気にしないで。あなたたちを責めるつもりはないわ」
アルピーヌは微笑んだが、その瞳の奥は鋼のように硬かった。
「私は、この妨害の首根っこを必ず掴んでみせるわ」
商人は深く頭を下げ、去っていった。
---
その夜。
ルノー家の執務室で、アルピーヌは使用人たちと小規模の“内部会議”を開いた。
「最近の妨害、ランダムではありませんわ。
狙いがあまりにも私――いえ、ルノー家改革そのものに向けられている」
リアンナが拳を握りしめる。
「お嬢様、これは絶対に許せませんっ!わたくしたちの労働環境を良くしようとしてくださっているのに……!」
クララも強く頷く。
「この妨害が続けば、屋敷改革計画だけでなく、お嬢様の事業自体が止まってしまいます」
アルピーヌは机に地図と商会一覧を広げ、静かに言った。
「妨害はルートを選んでいる。
・重機の燃料
・部材の配送
・家電の材料
・商人との繋がり
これら全部が同時に狙われている」
「つまり……どこからか、明確な命令が出ているはずです」
「そういうこと」
アルピーヌは指先で地図を叩きながら言い切った。
「そして――その命令を出せるほど権力があり、なおかつ私を敵視する理由を持っている人物……」
リアンナが口を開く。
「まさか……例の、元婚約者の……?」
アルピーヌは目を細める。
「まだ断定はできない。でも、候補の一つであることは間違いないわ」
使用人たちの顔に怒りが宿る。
「あんな理由でお嬢様を拒絶しておいて……裏でこんなことまで!」 「絶対に許しませんっ!」
アルピーヌは深く息を吸い、そして静かに、しかし強く言った。
「いい? 感情で動くのはまだ早いわ。相手の正体が確定するまでは、怒りは心にしまっておきなさい」
そして――口元に、かすかな笑みを浮かべた。
「でも、必ず正体を暴いてみせる。
この私の改革を邪魔したこと――後悔させてあげますわ」
使用人全員が、固く頷いた。
屋敷の空気は、静かな戦いの前触れに包まれていく。
裏から働く“見えない圧力”。
それは確かに存在し、アルピーヌの世界を揺るがし始めていた。
だが同時に――彼女の中には、燃えるような闘志が芽生えつつあった。
「調査を始めますわよ。
やられっぱなしなんて、私の性分じゃありませんから」
その声に、屋敷の使用人たちの目が一斉に輝いた。
革命令嬢アルピーヌ・ルノーは、反撃の第一歩を踏み出す。
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アルピーヌが改革を続ける限り、屋敷は日に日に便利になっていくはずだった。
――しかし。
その前進の歩みは、ここにきて急激に鈍り始めていた。
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「お嬢様……本日分の部材、また届きませんでした」
「また?今日で何回目かしら」
「ええと……七回目です」
リアンナが俯きながら言う。
たしかに最近、洗濯室まわりの増設工事や屋敷全体の配線施工のために発注した部材が、軒並み届かない。
しかも、理由は毎回別のものだ。
“運搬中に馬車が壊れた”
“配達担当が急に体調不良になった”
“別の貴族家からの大口注文が優先された”
偶然というにはあまりにも不自然。
アルピーヌは机の端に並べた納品予定表を見つめながら静かに言う。
「……偶然にしては出来過ぎね」
「まさか誰かが……?」
「ええ、“誰かが”動いてるのでしょう。裏から手を回して」
部材の納品が遅れれば工事が滞る。
工事が滞れば、彼女の改革は中断を余儀なくされる。
――つまり、これは正面からではなく陰湿に改革を止める方法。
アルピーヌの中で、冷たい怒りが静かに形を成していく。
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その日の午後。
ルノー家と古くから取引している商人・グランバイスが、申し訳なさそうに屋敷を訪ねてきた。
「お嬢様……本当に、申し訳ありません。うちもずっとお嬢様のプロジェクトのお役に立ちたいのですが……」
彼は頭を下げながら歯を食いしばる。
「最近、“別のところから圧力があって”……どうしても大量の部材を確保できなくなってしまいまして」
「圧力、ね」
「ええ。はっきり言えば、我々商会に『ルノー家と付き合うな』という指示が来ております」
「指示?どこから?」
商人は口を開きかけ、そして小さく首を振る。
「……言えません。しかし、かなり上の貴族筋であることは確かです」
アルピーヌは無言で彼を見つめた。
商人は続ける。
「ルノー家からの注文を受けた商人は、なぜか次々と“行政検査”と称して嫌がらせの取調べを受ける。
税の再査定、予算の削減、許可証の再提出……。こんなこと、今までありませんでした」
「なるほど……裏工作ね」
「お嬢様のことを恨んでいる貴族が動いているのは確かです。どうか、どうかお気をつけください」
アルピーヌは丁寧に頭を下げた。
「教えてくれてありがとう。あなたの商会は悪くないわ。むしろ、ここまで忠告してくれるだけで十分よ」
商人は涙ぐみながら言った。
「本来なら、命をかけてでもお嬢様をお守りするべきなのですが……商会の者たちの生活を守るためには……!」
「気にしないで。あなたたちを責めるつもりはないわ」
アルピーヌは微笑んだが、その瞳の奥は鋼のように硬かった。
「私は、この妨害の首根っこを必ず掴んでみせるわ」
商人は深く頭を下げ、去っていった。
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その夜。
ルノー家の執務室で、アルピーヌは使用人たちと小規模の“内部会議”を開いた。
「最近の妨害、ランダムではありませんわ。
狙いがあまりにも私――いえ、ルノー家改革そのものに向けられている」
リアンナが拳を握りしめる。
「お嬢様、これは絶対に許せませんっ!わたくしたちの労働環境を良くしようとしてくださっているのに……!」
クララも強く頷く。
「この妨害が続けば、屋敷改革計画だけでなく、お嬢様の事業自体が止まってしまいます」
アルピーヌは机に地図と商会一覧を広げ、静かに言った。
「妨害はルートを選んでいる。
・重機の燃料
・部材の配送
・家電の材料
・商人との繋がり
これら全部が同時に狙われている」
「つまり……どこからか、明確な命令が出ているはずです」
「そういうこと」
アルピーヌは指先で地図を叩きながら言い切った。
「そして――その命令を出せるほど権力があり、なおかつ私を敵視する理由を持っている人物……」
リアンナが口を開く。
「まさか……例の、元婚約者の……?」
アルピーヌは目を細める。
「まだ断定はできない。でも、候補の一つであることは間違いないわ」
使用人たちの顔に怒りが宿る。
「あんな理由でお嬢様を拒絶しておいて……裏でこんなことまで!」 「絶対に許しませんっ!」
アルピーヌは深く息を吸い、そして静かに、しかし強く言った。
「いい? 感情で動くのはまだ早いわ。相手の正体が確定するまでは、怒りは心にしまっておきなさい」
そして――口元に、かすかな笑みを浮かべた。
「でも、必ず正体を暴いてみせる。
この私の改革を邪魔したこと――後悔させてあげますわ」
使用人全員が、固く頷いた。
屋敷の空気は、静かな戦いの前触れに包まれていく。
裏から働く“見えない圧力”。
それは確かに存在し、アルピーヌの世界を揺るがし始めていた。
だが同時に――彼女の中には、燃えるような闘志が芽生えつつあった。
「調査を始めますわよ。
やられっぱなしなんて、私の性分じゃありませんから」
その声に、屋敷の使用人たちの目が一斉に輝いた。
革命令嬢アルピーヌ・ルノーは、反撃の第一歩を踏み出す。
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