婚約破棄されましたが、隣国で愛されすぎて困っています

しおしお

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第2章:隣国で芽生える新たな絆

2-1 自立への第一歩

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隣国エーバーハルト公爵家に身を寄せたフェリシアにとって、そこは過去を忘れ、新たな人生を始める場所だった。しかし、彼女にとってそれは「守られるだけの存在」でいることを意味していなかった。フェリシアは、自分自身で未来を切り開く必要性を強く感じていた。

「私は過去に縛られて生きるつもりはない。自分の力で立ち上がるわ。」
フェリシアは自分にそう言い聞かせ、公爵家での生活をスタートさせた。


---

ある朝、公爵邸の庭園で一息ついていると、リヒトが彼女を訪ねてきた。彼は柔らかな笑みを浮かべながら、彼女に声をかけた。

「フェリシア、君に相談したいことがあるんだ。」
彼の言葉にフェリシアは少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔で応じた。

「何か私にできることがあるのなら、喜んでお手伝いします。」

リヒトが持ちかけたのは、公爵領内で進めている貿易事業のサポートだった。エーバーハルト家は隣国との貿易路を拡大し、新しい商品の販路を開拓しようとしていた。これには、商品の選定や販売戦略、そして貴族たちとの交渉力が必要だった。

「君の社交界で培ったスキルと洞察力があれば、この事業をさらに良いものにできると思うんだ。」
リヒトの真剣な眼差しに、フェリシアは胸の奥で何かが熱くなるのを感じた。彼が自分の能力を信じてくれている。それは、これまで誰にも認められず孤独だった彼女にとって、何よりも力強い励ましだった。

「分かりました。私に任せてください。」
フェリシアは自信を持って答えた。


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彼女の最初の任務は、貿易の目玉となる商品の選定だった。領地内で生産されている品々の中から、品質が高く、貴族たちの興味を引きそうな商品を選び出す必要があった。

フェリシアは、絹織物や香料、装飾品などのサンプルを一つひとつ手に取りながら慎重に検討した。彼女の目は真剣そのもので、少しの妥協も許さない。

「この織物の手触りは素晴らしいわ。でも、色合いを少し調整すれば、もっと高級感が出るかもしれない。」
彼女は職人たちに具体的なアドバイスを送り、商品の魅力をさらに高める工夫を施していった。その様子を見ていたリヒトは、満足そうに微笑んだ。

「フェリシア、君のその鋭い目と努力は本当に頼りになるよ。」


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次に取り掛かったのは、商品を発表する展示会の準備だった。隣国の貴族たちを招き、商品の魅力を伝える重要なイベントであり、成功すれば貿易路の確立にもつながる。フェリシアは、会場の装飾や演出にも細かく気を配り、招待状の文面に至るまでこだわり抜いた。

「この招待状は、上品でありながら親しみやすさも感じられるものにしましょう。」
彼女の指示に従い、公爵家の使用人たちは次々と準備を進めていった。フェリシアのリーダーシップにより、展示会はスムーズに形になっていった。


---

数日後、ついに展示会が開催された。広々とした会場には、見事に陳列された商品が並び、隣国の貴族たちが次々と訪れた。フェリシアは、自ら商品の説明役を買って出て、貴族たちに丁寧に説明を行った。

「この香料は特別な製法で作られており、華やかさと奥深さが特徴です。お持ちいただければ、必ずお気に召していただけるはずです。」
フェリシアの言葉に、貴族たちは興味津々の様子で商品を手に取り、次々と購入を決めていった。

「この織物も素晴らしいわ。エーバーハルト公爵領の職人たちの腕前が伺えるわね。」
来場者からの好評を耳にしたフェリシアは、内心安堵しながらもさらに努力を重ねる決意を固めた。


---

その日の夜、展示会が成功裏に終わり、フェリシアはようやく肩の力を抜くことができた。リヒトが彼女に近づき、労いの言葉をかけた。

「本当に素晴らしい仕事だったよ、フェリシア。君の力がなければ、ここまでの成功はなかった。」
リヒトの言葉に、フェリシアは控えめに微笑みながら答えた。

「皆さんの協力があったからこそです。でも…少しだけ、自分を誇りに思ってもいいでしょうか。」

その言葉に、リヒトは笑顔で頷いた。フェリシアにとって、この成功はただの展示会ではなかった。自分が新しい人生を切り開ける力を持っていると確信できた瞬間だった。


---

その夜、フェリシアは自室の窓辺に座り、満月が浮かぶ夜空を見上げた。過去に囚われ、何度も心が折れそうになった自分が、今こうして新しい挑戦を成功させたことに、胸が熱くなった。

「私は必ず、自分の力で未来を切り開く。そして、あの人たちが奪ったものを取り戻してみせる。」
フェリシアの目には、確固たる決意の光が宿っていた。

隣国での新しい生活は、まだ始まったばかり。しかし、この成功をきっかけに、フェリシアは自信を取り戻し、さらなる未来へと進んでいく準備が整っていた。彼女の物語は、ここから大きく動き出す。

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