白い結婚のはずが、気づけば溺愛されていましたわ! 地味令嬢、辺境でスローライフを望んだのに国まで救ってしまう件

しおしお

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第1話 —公開婚約破棄は突然に—

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第1話 —公開婚約破棄は突然に—

王宮の大広間に、乾いた音が響いた。
それは王太子アレクシオンが、装飾の施された杖で床を打った音だった。

「ミレイユ・フロラン。
そなたとの婚約を──本日をもって破棄する!」

高い天井に、王太子の声が反響する。

一瞬の静寂。
そして、どよめき。

「まあ……!」「やっぱりねえ、あの地味令嬢だもの」
「王太子殿下なら、もっと華やかな令嬢のほうが……」

次々に聞こえてくる貴族たちの囁き声。
その中心で、当の本人──ミレイユはといえば。

内心では全力でガッツポーズしていた。

(きた……! きましたわ……!
これで毎日好きなだけ読書して、お菓子作って、
あとは自由気ままなスローライフ……!
ばんざい!!)

もちろん、表情には一切出さない。
涼しい顔で、ほんのわずかに首を傾げただけだった。

「理由を、お伺いしてもよろしくて?」

アレクシオンは、どこか酔ったような陶酔顔で宣言する。

「真実の愛を得たのだ!
そなたにはすまないが、私には運命の相手が現れた!」

大広間の奥で、香水を強くまとった華美な令嬢が、
“わざとらしく”涙を浮かべていた。

(ああ……はいはい。
そちらの“真実の愛”はご自由にどうぞ。
私は私で、自由を満喫させていただきますわ)

すると、周囲の貴族たちの囁きが一段と強くなる。

「やはり地味な娘だから飽きられたのよ」
「王太子妃になる器じゃなかったのねえ」
「まあ、フロラン家も恥をかいたわね」

ミレイユは、ほんの少しだけ口元をほころばせそうになった。
だが、慌てて整った微笑みに修正する。

(恥? 結構なことですわ。
むしろ結婚後の面倒事を避けられるのだから、
私としては万々歳でございますのに!)

アレクシオンは、勝ち誇ったように見下ろす。

「ミレイユ、そなたは……その……地味すぎる。
王太子妃にはもっと華やかさが必要だ!」

(はいはい、知ってます。
でも華やかさより静かなお部屋の方が魅力的ですわ)

ミレイユは、すっと優雅に一礼した。

「王太子殿下のご決断、理解いたしました。
どうぞ末永く、“真実の愛”をお守りくださいませ」

あまりにも爽やかな対応に、
周囲は逆に「本当に捨てられたことが悲しくないの?」とざわついた。

アレクシオンは、予想外の反応に一瞬だけ噛み合わない顔をするが、
すぐに「まあよい」と顎を上げる。

「では、婚約は破棄だ!」

大広間に、形式的な宣言が響き渡った。

その瞬間──
ミレイユは心の中で、誰にも見られないように、
盛大に勝利の舞を踊っていた。

(さあ、自由のはじまりですわ!)

婚約破棄。
屈辱。
失墜。

貴族社会では絶望のはじまりとされるこの瞬間が、
ミレイユにとっては幸せの開幕だった。

こうして、
王宮史に残る“最も静かで、最も喜ばれていた婚約破棄”は幕を開けたのだった。


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