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第5話 —涙目の帳簿と、地獄の財政—
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第5話 —涙目の帳簿と、地獄の財政—
辺境公爵領エルデ──
その中心にそびえる黒石の城は、外観こそ威厳に満ちていたが、
内部はというと……なかなか凄惨な状況だった。
「……さ、寒い……」
ミレイユは両手をこすり合わせながらつぶやいた。
廊下は冷たい石造りで、足元までひんやりしている。
遠方の暖炉に火はあるものの、城全体があまりに広すぎるのだ。
案内役の侍女フィオナが、申し訳なさそうに肩を落とす。
「すみません、奥様……今年は薪の確保が難しくて……」
「いえ、責めているわけではなくてよ?
……ただ、さむいですわね……」
(これ……本当に“普通の生活”できる?
白い結婚どころか、冷凍保存されてる気分ですけど!?)
そんな震えるミレイユを、ロヴェルは黙って見ていた。
石像のように無表情だが──
その沈黙には、別の意味があった。
「……後で、暖炉を増設させよう」
ぼそりと呟いたその声は低く、けれどどこか気遣いが滲んでいた。
ミレイユは慌てて手を振る。
「こ、こんなに早々にご迷惑をおかけするわけには……!」
「迷惑ではない」
即答で返され、逆に胸が温かくなる。
(この人、本当に……不器用な優しさの塊ですわね……?
“冷徹な軍神”って噂、どこから出たのかしら……?)
◆そして運命の帳簿との遭遇
夕食後、ミレイユは領地の現状を知るために「帳簿」を見せてもらうことにした。
ロヴェルは少しだけ申し訳なさそうに呟く。
「……覚悟して見てほしい」
(え? 調味料の棚でも開けるのかしら?)
そんな軽い気持ちで帳簿を開いた。
――次の瞬間。
「……………………えっ」
声にならない声が洩れた。
目の前に並ぶ数字の羅列。
赤字、赤字、赤字、赤字、ときどき黒字(でも即マイナス)。
収入は氷点下、支出は暴走列車。
しかも帳簿のつけ方がめちゃくちゃ。
(なにこれ……数字が泣いてる……
というか……叫んでる!?)
思わずミレイユは顔を覆った。
「奥様……ご気分でも?」
フィオナが心配そうに覗き込む。
「……いえ、少しだけ……計算したい衝動が……」
(あああ……並べ替えたい……数字をまとめたい……
緩んだ紐を締め直して、
余分な支出をひっこぬいて、
ついでに在庫管理表を……!)
数字好きの血が騒ぐ。
だが、ロヴェルはそっと言った。
「……無理をする必要はない。
これらの問題は、すべて私の責任だ」
その声に、ミレイユはふっと笑った。
(この人……やっぱり優しい)
ミレイユは軽く頷き、帳簿を抱えた。
「ロヴェル様。
ひとつだけお伺いしてもよろしいかしら?」
「なんだ」
「……この城の倉庫、見せていただけます?」
ロヴェルは瞬き一つせず答えた。
「……かまわない。案内する」
侍女たちがざわりと息を呑む。
「お、奥様……倉庫はその……凍土の墓場と呼ばれるほど……」
「“凍土の墓場”!?」
(名前がすでにホラーなんですが!?
でも……やらねばならないわ。
この領地を少しでもマシにしないと……)
ミレイユは小さく拳を握った。
白い結婚のはずが、
契約妻のはずが、
ただ静かに暮らすつもりが──
気づけば、領地の数字を救いたくてたまらなかった。
ロヴェルは黙ってそんな彼女を見つめている。
(この人のためにも、領地を立て直せたら……
……ううん、違う。
私自身がやりたいのよね)
ミレイユの胸に、小さな火が灯った。
辺境公爵領エルデ──
その中心にそびえる黒石の城は、外観こそ威厳に満ちていたが、
内部はというと……なかなか凄惨な状況だった。
「……さ、寒い……」
ミレイユは両手をこすり合わせながらつぶやいた。
廊下は冷たい石造りで、足元までひんやりしている。
遠方の暖炉に火はあるものの、城全体があまりに広すぎるのだ。
案内役の侍女フィオナが、申し訳なさそうに肩を落とす。
「すみません、奥様……今年は薪の確保が難しくて……」
「いえ、責めているわけではなくてよ?
……ただ、さむいですわね……」
(これ……本当に“普通の生活”できる?
白い結婚どころか、冷凍保存されてる気分ですけど!?)
そんな震えるミレイユを、ロヴェルは黙って見ていた。
石像のように無表情だが──
その沈黙には、別の意味があった。
「……後で、暖炉を増設させよう」
ぼそりと呟いたその声は低く、けれどどこか気遣いが滲んでいた。
ミレイユは慌てて手を振る。
「こ、こんなに早々にご迷惑をおかけするわけには……!」
「迷惑ではない」
即答で返され、逆に胸が温かくなる。
(この人、本当に……不器用な優しさの塊ですわね……?
“冷徹な軍神”って噂、どこから出たのかしら……?)
◆そして運命の帳簿との遭遇
夕食後、ミレイユは領地の現状を知るために「帳簿」を見せてもらうことにした。
ロヴェルは少しだけ申し訳なさそうに呟く。
「……覚悟して見てほしい」
(え? 調味料の棚でも開けるのかしら?)
そんな軽い気持ちで帳簿を開いた。
――次の瞬間。
「……………………えっ」
声にならない声が洩れた。
目の前に並ぶ数字の羅列。
赤字、赤字、赤字、赤字、ときどき黒字(でも即マイナス)。
収入は氷点下、支出は暴走列車。
しかも帳簿のつけ方がめちゃくちゃ。
(なにこれ……数字が泣いてる……
というか……叫んでる!?)
思わずミレイユは顔を覆った。
「奥様……ご気分でも?」
フィオナが心配そうに覗き込む。
「……いえ、少しだけ……計算したい衝動が……」
(あああ……並べ替えたい……数字をまとめたい……
緩んだ紐を締め直して、
余分な支出をひっこぬいて、
ついでに在庫管理表を……!)
数字好きの血が騒ぐ。
だが、ロヴェルはそっと言った。
「……無理をする必要はない。
これらの問題は、すべて私の責任だ」
その声に、ミレイユはふっと笑った。
(この人……やっぱり優しい)
ミレイユは軽く頷き、帳簿を抱えた。
「ロヴェル様。
ひとつだけお伺いしてもよろしいかしら?」
「なんだ」
「……この城の倉庫、見せていただけます?」
ロヴェルは瞬き一つせず答えた。
「……かまわない。案内する」
侍女たちがざわりと息を呑む。
「お、奥様……倉庫はその……凍土の墓場と呼ばれるほど……」
「“凍土の墓場”!?」
(名前がすでにホラーなんですが!?
でも……やらねばならないわ。
この領地を少しでもマシにしないと……)
ミレイユは小さく拳を握った。
白い結婚のはずが、
契約妻のはずが、
ただ静かに暮らすつもりが──
気づけば、領地の数字を救いたくてたまらなかった。
ロヴェルは黙ってそんな彼女を見つめている。
(この人のためにも、領地を立て直せたら……
……ううん、違う。
私自身がやりたいのよね)
ミレイユの胸に、小さな火が灯った。
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