白い結婚のはずが、気づけば溺愛されていましたわ! 地味令嬢、辺境でスローライフを望んだのに国まで救ってしまう件

しおしお

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第20話 —“戻ってこい”の命令と、公爵の激怒—

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第20話 —“戻ってこい”の命令と、公爵の激怒—

辺境の朝は静かだ。
夜に降った雪が屋根の上でふわりと光を反射し、
それだけで景色が温まって見える。

ミレイユは窓際で温かいお茶を飲みながら、
今日の献立を考えていた。

(ロヴェル様、最近あまり無理をなさらないようになったし……
温かいスープを作って差し上げたら喜ばれるかしら?
それとも昨日みたいにミルク煮込みの方が……)

そんな穏やかな思考を、
侍女フィオナの“震えた声”が破った。

「お、奥様……!
き、緊急文書が……王都から……!」

ミレイユはカップを置き、前を向いた。

「……また嫌がらせ文書かしら?」

「い、いえ……その……今回は……もっと……ひどいものです……!」

侍女が差し出した封筒は、豪奢な赤。
王太子だけが使える色。

ミレイユの胸が少しだけ冷たくなる。

(また……アレクシオン様……?
どうせ『辺境は慢心している』とか
『王命に従え』とか、そんなところでしょうけれど……)

ロヴェルの執務室へ向かうと──

執務机の前で、ロヴェルがまさにその文書を開いたところだった。

銀の瞳に宿るのは、
いつもの冷静さではなく“怒りの色”。

その怒気は、室内の空気を確実に震わせていた。

「ロ、ロヴェル様……?」

ロヴェルは低く言った。

「……ミレイユ。
お前は……この文の内容を知らないほうがよい」

「いえ。
私にも関係のあることなのです。
読ませていただけますか?」

ロヴェルは数秒迷った末、
手紙を差し出した。

ミレイユは一行目を見た瞬間、思わず息を呑む。

『王太子妃候補ミレイユ・フェルナンデスへ』

から始まり──

『早急に王都に戻り、王太子殿下の補佐として職務に当たるよう命ずる』
『辺境での勝手な改革行為は国益の阻害』
『速やかに責務を果たすべし』

さらに──

『新婚約者はまだ未熟であり、お前が必要だ』

と続いていた。

ミレイユの眉がぴくりと跳ねる。

(……は?
なにそれ。
自分で捨てておいて、
今さら“必要だから戻ってこい”?)

ロヴェルの手が、ぎり、と手紙を握りしめる。

「ミレイユ。
この文書は……王太子自身が書いたものだ。
王都の混乱を、すべて“お前の責任”に転嫁するつもりらしい」

静かに言っているのに、怒りが滲み出ていた。

ミレイユはゆっくりと息を吸い──
そして微笑んだ。

「……大丈夫ですわ。
私は戻りませんし、戻る理由もありません」

ロヴェルははっきりと首を振る。

「当たり前だ。
お前を二度と王都に渡すつもりはない」

その声音は、
まるで燃える炎を押し殺したようだった。

「私は……怒っている。
王家がどれほど愚かでも構わない。
だが──」

ロヴェルは手紙を机に叩きつける。

「私の妻を利用しようとするのは許さない。」

その一言に、
ミレイユの胸が熱くなる。

(“私の妻”……
こんなに真っ直ぐ……
そんな風に言ってくださるなんて……)

怒りを含む低い声なのに、
ミレイユにはその奥にある“守ろうとする気持ち”が
しっかり伝わってくる。

ロヴェルは筆を取り、
迷いなく返信を書き始めた。

『辺境は王家の玩具ではない。
ミレイユは我が妻であり、王都の混乱に責任は一切ない。
以後彼女への接触を禁ずる。
二度と関わるな。』

書き終えると、封蝋を押しながら言った。

「ミレイユ。
どんな圧力が来ても、私はお前を守る。
……これは契約とは関係ない」

ミレイユの瞳が揺れる。

(契約とは……関係ない……?
それはつまり……
ロヴェル様の“本心”……?)

胸が温かく広がっていく感覚に、
言葉が出ない。

ただ、そっと微笑んだ。

「……ありがとうございます。
ロヴェル様がそう言ってくださるだけで……」

その瞬間、
ロヴェルはほんの一瞬だけ視線をそらし、
気づかれまいとするように微かに頬を染めた。

ミレイユは気づかなかったけれど──
その横顔は、
確かに彼女を守ろうとする男の顔だった。

そして、辺境の空気は静かに熱を帯びていく。


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