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第21話 —使者の懇願と、微笑みの拒絶—
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第21話 —使者の懇願と、微笑みの拒絶—
吹雪の朝が嘘のように晴れた翌日。
辺境公爵領の門前に、
金と赤の派手な馬車がぎらぎらと到着した。
「王都の紋章……?」
侍女フィオナが眉をひそめる。
ミレイユも城のバルコニーから見下ろし、
胸の奥に小さな違和感を覚えた。
(まさか……とは思いますけれど……
今さら何の御用でしょう?)
ロヴェルは険しい表情を崩さぬまま、
一言だけ告げた。
「……対応する価値はないが、
無視すれば後が面倒だ。
出迎えよう」
---
◆傲慢さを隠しきれない“懇願”
応接室に通された王都の使者は、
ミレイユを見た途端、
信じられないものを見るように目を見開いた。
「これは……ミレイユ様、
まさかこのようにお元気とは……」
(“お元気とは”……?
捨てた令嬢が衰弱していると思っていたのですわね?
そのあたりがもう王都クオリティ……)
ミレイユは優雅な微笑みを浮かべた。
「ええ、とても元気ですわ。
辺境は空気が澄んでいますもの」
使者は咳払いし、
慌てて本題に入った。
「実は、王太子殿下より伝言がございます。
“どうか王国のため、お前の力を貸せ”
……とのことです」
ロヴェルの眉がぴくりと動く。
だが使者は続ける。
「王都は今、様々な問題を抱えております。
財政難、物資不足、冬季備蓄の欠如……
殿下は“あなたの知識が必要だ”と……!」
ミレイユは静かに紅茶を口に運んだ。
「まあ……それは大変ですわね」
「ですから!
どうか、王都にお戻りいただけますか?
一時的で結構ですので……」
“懇願”という言葉とは裏腹に、
声には見え透いた上から目線が混じっていた。
(……ああ。
やっぱり変わっていませんわね、王都は)
ミレイユは優しく微笑んだまま、
穏やかな声で言った。
「申し訳ございません。
私はもう辺境の人間ですの」
使者
「し、しかし! 王都の危機で……!」
「ええ、存じていますわ。
ですが──」
ミレイユはカップをそっと置いた。
「私を捨てたのは、そちらでしょう?」
使者が言葉を失う。
---
◆“微笑みの拒絶”は絶対の拒否
ミレイユは席を立ち、
静かに一礼した。
「ロヴェル様の妻として、
この領地を守ることが私の務めですわ。
王都へ戻る理由は、もうどこにもございません」
柔らかく、それでいて凛とした声。
使者はしどろもどろになりながら、
最後のあがきをみせる。
「で、殿下は……大変お困りで……!
“後悔している”と……!」
ミレイユは一瞬だけ目を伏せた。
そして、静かに言う。
「後悔は──
捨てる前にするものではなくて?」
使者は返す言葉を失った。
ロヴェルがゆっくりと立ち上がる。
「話は終わりだ。
これ以上、我が妻に無礼を働くなら……」
銀の瞳が冷たく光る。
使者は震え上がり、
慌てて深々と頭を下げた。
「しっ、失礼いたしました!!」
そのまま逃げるように退室していく。
---
◆残された二人
部屋に静寂が戻る。
ミレイユは深呼吸をし、
ロヴェルの方を向いた。
「……ロヴェル様。
ごめんなさい、勝手に断ってしまって」
「あれでいい」
ロヴェルは低く、はっきりと言った。
「君は、王都の道具ではない。
あのような場所に戻す気は……最初からない」
ミレイユの胸が温かくなる。
(この人は……
本当に私を守ってくださるのですね……)
しかしロヴェルは少しだけ言い淀んだ。
「……だが、
君自身は……後悔していないか?」
ミレイユは首を振る。
「しておりませんわ。
だって──」
彼女はそっと微笑んだ。
「私は、今の生活が好きですもの」
その言葉に、ロヴェルの瞳がわずかに揺れた。
(……ミレイユ……)
ミレイユ自身、
その笑みがどこか“幸せ”に満ちていることに気づいていなかった。
だが、ロヴェルは気づいていた。
そして心の奥底で、
静かに何かが灯り始めていた。
吹雪の朝が嘘のように晴れた翌日。
辺境公爵領の門前に、
金と赤の派手な馬車がぎらぎらと到着した。
「王都の紋章……?」
侍女フィオナが眉をひそめる。
ミレイユも城のバルコニーから見下ろし、
胸の奥に小さな違和感を覚えた。
(まさか……とは思いますけれど……
今さら何の御用でしょう?)
ロヴェルは険しい表情を崩さぬまま、
一言だけ告げた。
「……対応する価値はないが、
無視すれば後が面倒だ。
出迎えよう」
---
◆傲慢さを隠しきれない“懇願”
応接室に通された王都の使者は、
ミレイユを見た途端、
信じられないものを見るように目を見開いた。
「これは……ミレイユ様、
まさかこのようにお元気とは……」
(“お元気とは”……?
捨てた令嬢が衰弱していると思っていたのですわね?
そのあたりがもう王都クオリティ……)
ミレイユは優雅な微笑みを浮かべた。
「ええ、とても元気ですわ。
辺境は空気が澄んでいますもの」
使者は咳払いし、
慌てて本題に入った。
「実は、王太子殿下より伝言がございます。
“どうか王国のため、お前の力を貸せ”
……とのことです」
ロヴェルの眉がぴくりと動く。
だが使者は続ける。
「王都は今、様々な問題を抱えております。
財政難、物資不足、冬季備蓄の欠如……
殿下は“あなたの知識が必要だ”と……!」
ミレイユは静かに紅茶を口に運んだ。
「まあ……それは大変ですわね」
「ですから!
どうか、王都にお戻りいただけますか?
一時的で結構ですので……」
“懇願”という言葉とは裏腹に、
声には見え透いた上から目線が混じっていた。
(……ああ。
やっぱり変わっていませんわね、王都は)
ミレイユは優しく微笑んだまま、
穏やかな声で言った。
「申し訳ございません。
私はもう辺境の人間ですの」
使者
「し、しかし! 王都の危機で……!」
「ええ、存じていますわ。
ですが──」
ミレイユはカップをそっと置いた。
「私を捨てたのは、そちらでしょう?」
使者が言葉を失う。
---
◆“微笑みの拒絶”は絶対の拒否
ミレイユは席を立ち、
静かに一礼した。
「ロヴェル様の妻として、
この領地を守ることが私の務めですわ。
王都へ戻る理由は、もうどこにもございません」
柔らかく、それでいて凛とした声。
使者はしどろもどろになりながら、
最後のあがきをみせる。
「で、殿下は……大変お困りで……!
“後悔している”と……!」
ミレイユは一瞬だけ目を伏せた。
そして、静かに言う。
「後悔は──
捨てる前にするものではなくて?」
使者は返す言葉を失った。
ロヴェルがゆっくりと立ち上がる。
「話は終わりだ。
これ以上、我が妻に無礼を働くなら……」
銀の瞳が冷たく光る。
使者は震え上がり、
慌てて深々と頭を下げた。
「しっ、失礼いたしました!!」
そのまま逃げるように退室していく。
---
◆残された二人
部屋に静寂が戻る。
ミレイユは深呼吸をし、
ロヴェルの方を向いた。
「……ロヴェル様。
ごめんなさい、勝手に断ってしまって」
「あれでいい」
ロヴェルは低く、はっきりと言った。
「君は、王都の道具ではない。
あのような場所に戻す気は……最初からない」
ミレイユの胸が温かくなる。
(この人は……
本当に私を守ってくださるのですね……)
しかしロヴェルは少しだけ言い淀んだ。
「……だが、
君自身は……後悔していないか?」
ミレイユは首を振る。
「しておりませんわ。
だって──」
彼女はそっと微笑んだ。
「私は、今の生活が好きですもの」
その言葉に、ロヴェルの瞳がわずかに揺れた。
(……ミレイユ……)
ミレイユ自身、
その笑みがどこか“幸せ”に満ちていることに気づいていなかった。
だが、ロヴェルは気づいていた。
そして心の奥底で、
静かに何かが灯り始めていた。
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