白い結婚のはずが、気づけば溺愛されていましたわ! 地味令嬢、辺境でスローライフを望んだのに国まで救ってしまう件

しおしお

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第26話 —涙の誤解と、すれ違いが生む孤独—

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第26話 —涙の誤解と、すれ違いが生む孤独—

暖炉の火がゆらめく夕暮れ。
部屋には温かな光が広がっているのに──
ミレイユの胸だけが、凍りつくように冷たかった。

「……ロヴェル様、最近……避けておられません?」

その言葉を飲み込んでから、もう三日。
彼は笑顔を見せなくなったわけではない。
怒っているようにも見えない。

ただ──
微妙に距離がある。

以前なら必ず同じ卓で夕食をとり、
夜にはミルクティーを一緒に飲む時間があったのに。

今は。

「では、会議がある。先に休んでくれ」

そう言い残し、すぐ部屋を出て行ってしまう。

(……嫌われたのではないかしら)

胸の奥で小さな不安が膨らんでいく。
理由がわからない。
白い結婚は“自由”な契約のはず。

なのに。

(こんなに寂しくなるなんて……思わなかった……)

◆侍女フィオナの違和感

「奥様、今夜はスープにいたしますか?」

フィオナはいつもと同じ明るい声。
だがミレイユの表情を見て、すぐに青ざめた。

「お、奥様……泣かれてます?」

「……え?」

頬に触れると、涙が落ちていた。

(だめ……わたくし……泣いてる……?)

理由が説明できない。
ただ、胸の奥がきゅっと締めつけられるだけ。

「ロヴェル様が……避けておられるようで……
何か、わたくし……してしまったのでしょうか……」

フィオナは、全力で首を振った。

「そんなはずありません!
公爵様は奥様を……その……すごく大切に──」

言いかけて、口を閉じる。

「……でも、最近、様子が変でした。
公爵様のほうも悩んでおられるように見えました」

(悩んで……? わたくしではなくて……?)

ミレイユは胸に手を置いた。

なにが正しいのかわからない。
ただ、怖い。

(……わたくし、捨てられるの?
せっかく……幸せを感じていたのに……)

涙が溢れる。

◆ロヴェル、深夜の独白

その頃、ロヴェルは執務室でひとり、暖炉を見つめていた。

「……私は、何をしている……」

書類に視線を落とす。
そこには、ミレイユとの契約書。

干渉しないこと。
互いの自由を尊重すること。

すべて、ミレイユのために作ったはず。

「……だが、今の私は……
彼女の自由を奪っているのではないか……?」

彼はミレイユを想うあまり、
自分から距離を置こうとしていた。

愛してしまえば、
契約で縛るようになってしまう。

それが怖かった。

「私は……彼女を束縛してしまうかもしれない。
それなら……距離を置いたほうが……」

燃える薪の音だけが響く。

「……彼女は、自由でいてほしい。
私の……愛などで縛るべきではない」

彼はそう思い込み、
彼女が泣いていることも知らないまま、
距離を置くという最悪の方法を選んでしまった。

◆翌朝──最悪のすれ違い

ミレイユは、泣き腫らした目で朝食の席についた。

そこへロヴェルが現れる。

「昨夜は……すまなかった。
会議が長引いて──」

ミレイユはかすかに震える声で言った。

「……ロヴェル様、
わたくし……何か嫌われるようなことを……?」

ロヴェルの瞳が揺れた。

だが、一歩踏み込む勇気を持てず、
彼は一番してはいけない答えを返してしまう。

「……いや。
嫌ってはいない。ただ……
君は自由でいたほうがいいだろう」

ミレイユの瞳が見開かれた。

(わたくし……自由のために捨てられるの……?)

ロヴェルは続ける。

「君が縛られることのないよう……
距離を置いたほうがいいと思っただけだ」

それは“愛しているから”生まれた言葉なのに。
ミレイユには“拒絶”としか聞こえなかった。

ミレイユは椅子から立ち上がり、
小さく頭を下げた。

「……わかりましたわ。
ご迷惑をおかけして……申し訳ありませんでした」

俯いたまま、震える声。

ロヴェルは息をのむ。

(泣いている……?
なぜ……?
私は……彼女を自由にするために……)

だが何も言えない。

こうして、互いを思い合うがゆえのすれ違いは、
最悪の形で広がっていった。


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