「婚約破棄された令嬢ですが、何か?」

しおしお

文字の大きさ
7 / 20

レオナルドの後悔

しおりを挟む


侯爵家を追い出されてから数週間。私は新しい生活を充実した気持ちで過ごしていたが、その一方で、かつての婚約者レオナルドの心境は大きく揺らぎ始めていた。彼にとってすべてが計画通りに進むはずだった。そう、アルシェナールを捨て、義妹エリゼと共に新しい未来を築くはずだったのだ。


---

「エリゼ、これはどういうことだ?」
執務室で、レオナルドは義妹となった新たな婚約者エリゼに苛立ちを隠せず問い詰めていた。机の上には膨れ上がった支出記録が山積みになっている。

「だって必要だったんですもの!ドレスに宝石、舞踏会の費用だって、すべて私たちの未来のためよ!」

エリゼは涼しい顔で答えるが、その言葉はレオナルドの怒りに油を注いだ。アルシェナールとは対照的に、エリゼは浪費癖が激しく、金銭感覚が極端に乏しかった。彼女と共に生活を始めてわずか数週間で、家計は目に見えて悪化していたのだ。

「未来のためだと?このままでは破産するぞ!」
「そんなの、あなたがもっと働いて稼げばいいじゃない。」

エリゼの軽い一言に、レオナルドは呆然とした。彼女は本気で自分が何も悪いと思っていないのだと理解するまで、そう時間はかからなかった。


---

ふとした時、レオナルドの頭に浮かぶのは、かつての婚約者アルシェナールの姿だった。彼女は決して派手に振る舞わなかったが、その知性と落ち着いた態度は、いつも周囲を安心させていた。ドレスを新調することもあまりなく、必要なものを的確に選び、いつも整然と家計を管理していたことを思い出す。

「アルシェナールなら、こんな無計画なことはしなかった……。」

つぶやいたその瞬間、胸の奥からじわりと湧き上がる後悔に、レオナルドは顔をしかめた。


---

さらに、彼に追い打ちをかけたのは貴族たちの噂だった。ある夜会で、彼は友人である伯爵家の跡取りクラウディオから耳を疑う話を聞かされた。

「聞いたか?アルシェナール嬢の話だ。追い出された後、王都の薬草店で働いているらしいぞ。」
「何?」

レオナルドの眉がぴくりと動く。クラウディオは続ける。

「彼女の評判がすごいんだ。薬草学の知識は一流で、貴族も頼っているとか。何でも、体調を崩していた侯爵夫人が彼女の薬で回復したらしい。」
「そんな話が……。」

レオナルドは言葉を失った。追放されたアルシェナールが、新しい場所で成功している――それは彼の心に大きな波紋を広げた。

「お前、本当に彼女を捨てて正解だったのか?」
クラウディオの軽い冗談めいた言葉に、レオナルドは苦笑いを浮かべるしかなかった。


---

その夜、レオナルドは自室で一人静かに考え込んでいた。エリゼとの日々に満足感はない。むしろ、増え続ける問題に苛立ち、以前の生活がいかに安定していたかを痛感するばかりだった。

「アルシェナール……。」

彼女の冷静で的確な助言や、穏やかに微笑む姿が脳裏に蘇る。だが、今さら何を考えても無駄だということも分かっていた。彼が選んだのはエリゼであり、アルシェナールを追い出したのは紛れもなく自分だ。

自分が失ったものの大きさを、今になって痛感するとは――あまりにも遅すぎた。


---

一方、エリゼはそんなレオナルドの心の内など露知らず、さらなる浪費を続けていた。舞踏会に参加するたびに新しいドレスを仕立て、宝石を買い漁る彼女の振る舞いは、他の貴族たちからも眉をひそめられるようになっていた。

「レオナルド様、この宝石、とても素敵でしょう?」
「もういい加減にしろ!これ以上、無駄遣いを許すつもりはない!」

レオナルドが怒鳴り声を上げると、エリゼは涙を浮かべて彼を非難した。
「ひどいわ!私のために何もしてくれないなんて……。アルシェナールみたいな冷たい女より、私の方がずっと愛されていると思っていたのに!」

その言葉を聞いた瞬間、レオナルドの中で何かが決定的に壊れた。

「もうやめろ。お前に期待した俺が間違っていた……。」

エリゼは返す言葉を失い、その場に立ち尽くした。レオナルドはため息をつきながら部屋を出る。頭の中には、失ったものの重さだけが響いていた。


---

それからというもの、レオナルドの周囲に集まる人々は次第に減っていった。かつての友人たちも距離を取り、貴族社会での彼の評判は落ちる一方だった。そして、そんな中でもなお彼の心を支配しているのは、あの女性――アルシェナールの存在だった。

だが、もう彼が彼女に何かを求める権利などないことは、痛いほど分かっていた。


-
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

「君を愛することはない」と言われたので、私も愛しません。次いきます。 〜婚約破棄はご褒美です!

放浪人
恋愛
【「愛さない」と言ったのはあなたです。私はもっとハイスペックな次(夫)と幸せになりますので、どうぞお構いなく!】 侯爵令嬢リディアは、建国記念舞踏会の最中に、婚約者である王太子レオンハルトから婚約破棄を宣言される。 「君を愛することはない!」という王太子の言葉は、国中に響く『公的拒絶誓約』となってしまった。 しかし、リディアは泣かなかった。 「承知しました。私も愛しません。次いきます」 彼女は即座に撤退し、その場で慰謝料請求と名誉回復の手続きを開始する。その潔さと有能さに目をつけたのは、国の行政を牛耳る『氷の宰相』アシュ・ヴァレンシュタインだった。 「私の政治的盾になれ。条件は『恋愛感情の禁止』と『嘘がつけない契約』だ」 利害の一致した二人は、愛のない契約結婚を結ぶ。 はずだったのだが――『嘘がつけない契約』のせいで、冷徹なはずの宰相の本音が暴走! 「君を失うのは非合理だ(=大好きだ)」「君は私の光だ(=愛してる)」 隠せない溺愛と、最強の夫婦による論理的で容赦のない『ざまぁ』。 一方、リディアを捨てた王太子は「愛さない誓約」の呪いに苦しみ、自滅していく。 これは、悪役令嬢と呼ばれた女が、嘘のない真実の愛を手に入れ、国中を巻き込んで幸せになるまでの物語。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。 「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」 王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、 干渉しない・依存しない・無理をしない ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。 一方、王となったアルベルトもまた、 彼女に頼らないことを選び、 「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。 復縁もしない。 恋にすがらない。 それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。 これは、 交わらないことを選んだ二人が、 それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。 派手なざまぁも、甘い溺愛もない。 けれど、静かに積み重なる判断と選択が、 やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー

すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~

水川サキ
恋愛
家族にも婚約者にも捨てられた。 心のよりどころは絵だけ。 それなのに、利き手を壊され描けなくなった。 すべてを失った私は―― ※他サイトに掲載

処理中です...