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貴族社会での注目
しおりを挟むアルシェナールが新たな人生を歩み始めてから、王都では彼女の噂が徐々に広まり、ついに貴族社会全体にまで届くようになった。薬草学の知識を活かして成功を収めた彼女の姿は、追放された貴族令嬢としては異例のものであり、多くの人々の関心を引きつけていた。
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ある日、薬草店でいつものように仕事をしていると、店の前に立派な馬車が止まった。美しい紋章が描かれたその馬車から降りてきたのは、上品な装いをした女性だった。明らかに上流階級の出身である彼女は、店内に入ると品定めをするようにあたりを見回した。
「こちらが、例の薬草使いがいる店かしら?」
その言葉に、私は手を止めて彼女を見た。彼女は私の視線を受けて微かに笑い、近づいてくる。
「私がその者です。いかがなさいましたか?」
私は微笑みを浮かべながら丁寧に答えた。彼女はじっと私を見つめ、さらに興味を深めたように頷いた。
「聞いていた通り、気品のある方ね。あなた、本当に貴族の出身だったのかしら?」
私はその言葉に一瞬だけ反応したが、表情には出さなかった。このような質問をされることは覚悟していた。それでも、心の奥底で僅かな反発心が湧く。
「ええ、そうでした。ですが今はただの薬草使いです。それが何か?」
冷静な口調で答えると、彼女は目を細めて微笑んだ。
「なるほど、面白いわね。では、私のお願いを聞いていただけるかしら?」
彼女が持ってきたのは、珍しい薬草だった。貴族しか手に入れられないような貴重な品だ。彼女はそれを調合して欲しいと頼んできた。
「これは……素晴らしい薬草ですね。分かりました、お引き受けします。」
私は手早く調合を進め、彼女に薬を渡した。彼女は仕上がりを見て満足げに微笑む。
「さすがね。この腕なら貴族たちが頼りたくなるのも分かるわ。」
そう言って彼女は去っていったが、その場を去る直前に一言、意味深な言葉を残していった。
「また近いうちに会いましょう。あなたが注目される理由、もっと知りたくなったわ。」
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彼女が去った後、私はしばらくその言葉の意味を考えていた。彼女の態度にはどこか探るようなものがあり、それが何を意図しているのかが分からなかった。
「貴族たちが私に興味を持つ……。これが良いことなのかどうか分からないわね。」
呟いた私の声を聞いたマリーヌ夫人が心配そうに近づいてきた。
「アル、貴族たちが噂をしていることを気にしているの?」
「いいえ、慣れています。ただ、注目されるということは、同時に敵意も呼ぶ可能性があるので。」
「それもそうね。でも、あなたはしっかりしているから大丈夫よ。」
彼女の言葉に少しだけ安堵しながら、私は再び仕事に戻った。
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それから数日後、再び貴族たちが薬草店を訪れるようになった。彼らの目的は様々だった。単に噂を確かめたいという好奇心から来る者もいれば、具体的な体調不良の相談を持ち込む者もいた。
その中には、私を試すような質問をしてくる者もいた。
「これが貴族社会を去った女性の腕前だと聞いているが、本当なのか?」
「お試しになれば分かるかと思います。」
私はどんな質問にも冷静に答え、彼らの期待に応えた。その結果、店の評判はますます高まり、ついには宮廷の人々からも注目される存在となった。
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そんなある日、王都で開催された夜会で、私の名前が話題に上る出来事があった。ある公爵夫人が、私の薬草で病が治ったことを話題にしたのだ。
「アルシェナール嬢は本当に素晴らしい方よ。貴族としても立派な振る舞いをされるし、薬草学の腕前も一流。追放されたなんて信じられないわ。」
その言葉に多くの貴族が耳を傾けたが、その中にレオナルドの姿もあった。彼は驚きとともに、胸の奥で得体の知れない焦燥感を覚えていた。
「彼女が成功している……?」
その一方で、エリゼの浪費が続き、彼の生活はさらに悪化していた。彼が失ったものの大きさを思い知らされる中、アルシェナールの成功が一層鮮明に映し出される。
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夜が更け、私が薬草店で一人作業をしていると、不意に訪問者が現れた。アシュレイだ。
「また君の噂を聞いたよ。今度は宮廷で話題になっているとか。」
彼の言葉に、私は微苦笑を浮かべた。
「そうみたいね。別に望んでいたわけではないけれど。」
「君が目立つのは当然だろう。貴族社会を離れてなお成功する人間なんて、珍しいんだから。」
アシュレイの言葉には励ましのような響きがあり、私は心の中で感謝した。しかし同時に、注目されることが本当に良いことなのかという不安も消えなかった。
「私はただ、自分のやるべきことをやっているだけよ。」
そう答える私に、アシュレイは穏やかな笑みを向けた。
「それでいいんだ。それでこそ君らしい。」
彼のその一言に、私は少しだけ気が楽になった。そして、静かな夜空を見上げながら、次に訪れる未来に思いを馳せた。
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