「婚約破棄された令嬢ですが、何か?」

しおしお

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アシュレイの素性

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アルシェナールが薬草店で働き始めてから数か月が経過し、彼女の名は王都中に知られるようになっていた。その評判は貴族たちの間でも広まり、依頼の数も増え続けている。そんな中、彼女の生活に再び訪れる変化の兆しが、静かに迫っていた。


---

ある日の夕方、薬草店でいつものように調合作業をしていると、店のドアが音もなく開いた。振り返ると、そこには黒いマントを纏った青年、アシュレイの姿があった。

「また来たのね。今日は何の用かしら?」

彼は気さくな笑みを浮かべながら、手に持っていた紙袋を軽く振った。

「君に差し入れを持ってきたんだ。昼間も忙しそうだったから、少しでも息抜きをしてほしくてね。」

紙袋の中には、焼きたてのパンと果物が入っていた。アシュレイのこうしたさりげない気遣いには、いつも驚かされる。

「ありがとう。でも、そんなことのためにわざわざ?」
「いや、実はもう一つ理由があってね。」

彼はいつもの飄々とした態度を崩さず、ゆっくりと店内を見回した。そして、近くの椅子に腰を下ろしながら、真剣な目で私を見た。

「君、最近かなり注目されているだろう?宮廷でも噂になっている。」
「……ええ、自分でも驚いているわ。でも、それがどうしたの?」

彼の口調がいつになく真剣で、私は次第に警戒心を強めていた。アシュレイは小さく息を吐き、軽く肩をすくめた。

「僕は君を応援している。でも、君の評判が広がれば広がるほど、敵も増える。それが心配なんだ。」

その言葉には、真剣な思いが込められているように感じられた。私は少し考え込んだ後、静かに口を開いた。

「分かっているわ。注目されるということは、同時にリスクを伴うもの。でも、今の私にはこれしかできないの。」

アシュレイは頷きながら、少し考え込むような表情を見せた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「君に知っておいてほしいことがあるんだ。」

彼の表情が変わった瞬間、私は何か重要な話が始まることを察した。


---

「君は僕の素性を知らないままだろう?」

その言葉に、私は思わず眉をひそめた。確かに、彼の出自について考えたことはほとんどなかった。ただの気さくな青年だと思っていたが、時折見せる洞察力や振る舞いは、普通の人間とは思えないものだった。

「ええ、気にしたことはなかったわ。でも、あなたがただの通りすがりではないことは分かる。」

「さすがだね。君の直感は鋭い。」

彼は軽く笑みを浮かべながら立ち上がり、私に向き直った。

「僕は、王国騎士団の団長だ。」

その言葉を聞いた瞬間、私は思わず息を呑んだ。彼の気さくな態度や軽やかな話し方からは想像もつかない肩書きだった。

「……王国騎士団の団長?」
「驚くのも無理はない。でも、これは事実だ。」

彼の目は真剣そのもので、嘘をついている様子は全くなかった。私は彼の言葉を頭の中で反芻しながら、ようやく口を開いた。

「それで、どうしてそんな人が私に関わるの?」

「君に興味があったからだ。」

彼の答えは簡潔だったが、そこには深い意味が込められているようだった。

「興味?」
「そう。君は侯爵家を追い出されながらも、自分の力で新しい道を切り開いた。普通の人間にはできないことだ。」

彼の目は真っ直ぐで、まるで私の心の奥底を見透かすようだった。

「それに、君の評判が宮廷にも広がっている。君の力が必要になる場面が、近いうちに必ず訪れる。」

彼の言葉は、まるで未来を予見しているかのように響いた。私はその真剣さに気圧されつつも、静かに頷いた。


---

その後、アシュレイは私にいくつかの助言を残して店を去った。彼の背中を見送りながら、私は心の中で複雑な感情を抱えていた。

彼が王国騎士団の団長であるという事実。私の評判が宮廷にも届いているという話。これらの情報が意味するものは何なのか、まだ全てを理解するには時間が必要だった。

「でも……私は私の道を進むしかない。」

そう自分に言い聞かせ、私は再び作業に取り掛かった。どれだけ状況が変わろうとも、私は自分の力で未来を切り開く。それだけは決して変わらない――。


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