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第1章:突然の異動と運命の出会い
1-1:平穏な日常の終わり
しおりを挟む相沢結衣にとって、今日もいつも通りの平穏な一日になるはずだった。9時の定時に始まり、上司から指示された業務を淡々とこなす。残業はなるべく避けるようにしているが、緊急案件があればその限りではない。昼休みには同期の椎名理香と他数人で近くのカフェへランチに行く。特別に目立つこともなく、何かを失敗することもなく、平凡で地味な日々。それが結衣にとっての「普通」であり、「安全圏」だった。
しかし、その日、結衣の世界は突然揺れ動いた。
午後の業務がひと段落し、少し伸びをした頃、部長が結衣の席までやってきた。その表情はどこか真剣で、少し緊張した様子すら見せていた。
「相沢君、ちょっといいか?」
「はい、部長。何でしょうか?」
いつものように柔らかく応じる結衣。しかし、その直後に告げられた言葉に、彼女の頭は一瞬で真っ白になった。
「君を秘書課に異動させることが決まった。来週からはそちらで働いてくれ。」
結衣は思わず目を見開いた。秘書課? なぜ自分が? 耳にした瞬間、まるで遠い場所からの声のように響いた。
「え、えっと……私ですか?」
「そうだ。詳しいことは後で説明するが、会社の方針でね。君の能力が評価された結果だ。」
部長はそう言い残して去って行ったが、結衣の胸には説明しきれない不安が渦巻いていた。突然の異動、それも秘書課という特別なポジション。自分がそんな重要な役目を果たせるのだろうか。
---
昼休み、同期の椎名理香をはじめ、同僚たちとのランチでその話題は瞬く間に広がった。
「秘書課って、あの西園寺社長直属のところよね?」
理香が目を輝かせて言う。
「ええ、そうみたい。だけど私なんかが務まるのかな……正直、全然自信ないよ。」
結衣はため息混じりに答えた。
「何言ってるの、結衣。地味で目立たないけど、仕事は丁寧だし、あの部署ならぴったりだと思うよ!」
軽口なのか本気なのか分からない理香の言葉に、他の同僚たちも笑いながら頷いた。
だが、彼女の胸の内には大きなプレッシャーがのしかかっていた。秘書課の仕事は普通のデスクワークとは異なり、細かな気配りや即断即決の能力、そして高いコミュニケーションスキルが求められると聞いている。
それ以上に、直属の上司となる西園寺蓮社長の存在が結衣を不安にさせていた。グループ全体を統括する若きカリスマとして知られる彼は、社内で「冷徹」「完璧主義」と恐れられていた。社員に対する評価は厳しく、失敗を許さないという噂もある。そんな人物と直接働くことになるなんて――。
「ねえ、結衣。西園寺社長ってすごくカッコいいらしいよ。写真で見たけど、モデルみたいだった!」
理香の浮かれた声が耳に入るが、結衣は無意識のうちに顔を曇らせた。
---
その日の夜、結衣は自宅で一人、ソファに座ってぼんやりと天井を見上げていた。
「本当に大丈夫なのかな……」
ぽつりとつぶやき、抱えた不安をそのまま飲み込む。
一歩間違えれば社長の足を引っ張り、会社全体に迷惑をかけるかもしれない。それだけは避けたい。結衣は明日からの自分にできることを考え、気を引き締めるしかなかった。
「とにかく、まずはやれることをやろう……」
結衣はそう自分に言い聞かせながら、眠りについた。
しかし、この異動が彼女の運命を大きく変えることになるとは、このときまだ知らなかった。
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