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第1章:突然の異動と運命の出会い
1-2:秘書課での初日と運命の出会い
しおりを挟む月曜の朝、相沢結衣は秘書課の扉の前で一瞬立ち止まった。つい先週まで自分のいた営業部のオフィスとはまるで違う空気を想像し、胸が高鳴る。プレッシャーと緊張が混じり合い、手のひらにはじんわり汗が滲んでいた。
「やるしかない……!」
小さく自分に言い聞かせ、扉をノックする。すると、中から落ち着いた女性の声が返ってきた。
「どうぞ。」
扉を開けると、洗練された空間が目に飛び込んできた。白を基調としたインテリアに、整然と並ぶデスクと椅子。窓から差し込む朝日が、オフィスの輝きをさらに際立たせている。営業部のざわざわとした雰囲気とはまるで異なり、秘書課には緊張感と静けさが満ちていた。
「相沢結衣さんですね。」
声をかけてきたのは、30代半ばの女性だった。整った顔立ちと洗練されたスーツ姿が目を引く。
「はい、本日からこちらでお世話になります。相沢結衣です。よろしくお願いいたします。」
緊張しながら深く頭を下げると、彼女は優しい微笑みを浮かべた。
「私は長谷川綾子。この秘書課のリーダーを務めています。まずは席を案内しますね。」
---
結衣が案内された席は、秘書課のオフィスの中央に位置していた。机の上には既に新しいパソコンや必要な備品が整っており、清潔感が溢れている。隣には長谷川が座っており、彼女の指導を受けながら業務を覚える流れになるらしい。
「秘書課の仕事は、単なる書類整理やスケジュール管理ではありません。」
長谷川は手際よく業務の説明をしながら言った。
「特に社長直属の秘書である私たちは、先読みが求められます。社長が何を求めているか、その一歩先を読んで動くことが重要です。」
「はい、頑張ります!」
結衣はそう答えたものの、心の中では「本当に自分にできるのだろうか」という不安が渦巻いていた。
---
その日の午前中、結衣は資料整理やスケジュール確認など、比較的簡単な業務からスタートした。慣れない環境に戸惑いながらも、ミスがないよう慎重に作業を進めていく。だが、秘書課特有の静かな空気が、彼女を余計に緊張させた。
「相沢さん、この書類を社長室に届けてもらえますか?」
長谷川が差し出した一束の書類を受け取り、結衣は心臓が跳ねるのを感じた。
「わかりました!」
そう答えたものの、内心は不安でいっぱいだった。社長室――そこには、この会社の頂点に立つ西園寺蓮がいる。冷徹な完璧主義者として有名な彼に初対面で失礼があってはならない。
---
社長室の扉の前に立った結衣は、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。そして、意を決してノックする。
「失礼します。相沢結衣です。書類をお届けに参りました。」
扉を開けると、そこには想像以上に広々とした空間が広がっていた。大きな窓からはビル群が見渡せ、洗練されたデザインの家具が配置されている。その中心で、一人の男性がデスクに座り、書類に目を通していた。
それが西園寺蓮だった。
結衣は思わず息を呑んだ。彼の存在感は圧倒的だった。長身でスーツを完璧に着こなし、整った顔立ちにどこか冷たいオーラを纏っている。その鋭い目が一瞬結衣に向けられると、体が硬直してしまった。
「そこに置いておけ。」
低く響く声は、冷たさと威圧感を含んでいた。結衣は慌てて指示に従い、デスクの端に書類を置こうとしたが――その瞬間、緊張のあまり手元が滑り、書類を床に落としてしまった。
「あっ、申し訳ありません!」
結衣は慌ててかがみ込み、書類を拾い始めた。だが、心臓が早鐘のように打ち、手が震えてうまくいかない。すると、目の前に黒い靴が現れた。顔を上げると、蓮が無言でしゃがみ込み、自ら書類を拾っていた。
「……不注意だな。」
ため息混じりの言葉。しかし、その声には意外なほど冷静さが混じっていた。
「ミスを恐れるな。ただ、次は気をつけろ。」
短い言葉だが、その一言に込められた意図を結衣は感じた。叱責ではなく、次に繋げろという教え。その瞬間、蓮が単なる冷徹な上司ではないと気づかされた。
---
社長室を後にした結衣は、深いため息をついた。初日の失敗に落ち込みながらも、蓮の予想外の優しさに少し救われた気がした。秘書課の仕事は想像以上に大変だが、これから努力を重ねて信頼を得よう――そう決意する結衣だった。
そして、この日をきっかけに、結衣と蓮の運命が大きく動き出すことになる。
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