社長室の蜜月

しおしお

文字の大きさ
3 / 25
第1章:突然の異動と運命の出会い

1-3:完璧主義に振り回される日々

しおりを挟む


秘書課での業務が始まって数日。相沢結衣は、これまで経験したことのない仕事の厳しさに圧倒されていた。これまでは営業部で与えられたタスクをこなせば良かったが、秘書課では全く別のスキルが求められる。特に直属の上司である西園寺蓮の完璧主義には、結衣の神経が張り詰めるばかりだった。


---

「相沢さん、これ、間違ってるわよ。」

午後の業務中、長谷川が静かに指摘した。結衣が作成したスケジュール表を見せられると、会議時間が他の予定と重複している部分があった。

「すみません……すぐ修正します!」
結衣は慌ててパソコンに向かい、ミスを訂正し始めた。長谷川は表情を崩さず、冷静に次の業務指示を続ける。

「いい? スケジュール管理は社長の指示を反映するだけじゃないの。彼が効率よく動けるように、こちらで調整案を提示することも必要なのよ。」

「調整案……ですか?」
結衣は手を止めて長谷川を見つめた。スケジュール管理は言われた通りに入力するものだと思っていたが、長谷川はそれを「受け身すぎる」と指摘する。

「そう。例えば、会議の順番を少し変えれば移動時間を短縮できるとか、オンライン会議に切り替えられる提案をするとか。社長が何も言わなくても、私たちが気づいて動くべきなの。」

その言葉に、結衣は頭を抱えた。今でも緊張の中で必死に業務をこなしているのに、先を読んで提案する余裕などどこにもない。


---

さらに、結衣を追い詰めたのは蓮の完璧主義だった。彼の業務は常に時間に追われ、どんな些細なミスも許されない。ある日、結衣が用意した資料のフォントサイズが指定と異なっていることに気づいた蓮は、鋭い目で彼女を見つめた。

「資料作成は基本中の基本だ。それを間違えるとはどういうことだ?」
彼の低い声には冷たさが宿っている。結衣は瞬時に頭を下げ、謝罪した。

「申し訳ありません。確認が足りませんでした……!」

「確認が足りないなら、何度でも見直せ。それが秘書の仕事だ。」

その後、蓮は特に何も言わずに去ったが、結衣は自分の失敗に深く落ち込み、涙が滲みそうになるのを必死に堪えた。


---

そんな日々の中、結衣は蓮の業務スタイルに少しずつ慣れていった。毎朝出社すると、彼がどのように一日を過ごすかを想像しながらスケジュールを確認する。細かい部分まで気を配り、次の業務を準備しておく。ミスを減らすために、退社後も自宅で資料を見直す時間を作った。

ある日、結衣は蓮のスケジュールを見直し、会議の順番を入れ替えた提案をした。すると、蓮が彼女をちらりと見て言った。

「悪くない判断だ。」

たった一言だったが、その言葉が結衣にとってどれほど嬉しかったか。彼の評価を得ることがどれほど難しいかを知っているからこそ、その一言が自信に繋がった。


---

しかし、蓮の完璧主義の裏には意外な一面もあった。

ある日、ランチタイム中に蓮から急に呼び出され、結衣は緊張しながら社長室に入った。すると、彼は書類の山に囲まれたデスクで眉をひそめながら、手に持ったコーヒーカップを見つめていた。

「相沢、このコーヒー、何か変だと思わないか?」
突然の質問に戸惑いながら、結衣はカップを覗き込んだ。香りは普通のコーヒーのようだが、どうやら味が違うらしい。

「えっと……いつものものと違う豆かもしれませんね。」
そう言いながら、結衣は蓮のデスクに置かれたコーヒーサーバーを確認した。確かに、いつも使っている豆ではなかった。

「なるほど……細かいことだが、こういう違いにも気づけるようになれ。」

その後、結衣が新しいコーヒーを用意し直すと、蓮は静かに頷き、言った。

「これでいい。」

それだけのやり取りだったが、彼が完璧を求めるのは仕事だけでなく、日常の些細なことにも及んでいるのだと結衣は気づいた。そして、それは彼の一途さと不器用さの現れでもあると感じた。


---

数週間が経ち、結衣は徐々に秘書としてのスキルを身につけていった。蓮の厳しい指導に振り回されながらも、彼の言葉から学ぶことは多い。そして、彼の冷たさの中に隠された温かさを知るたびに、結衣の胸には小さな感情が芽生え始めていた。

「社長の期待に応えたい。」

その思いが、結衣を支える原動力となっていく。完璧主義に振り回されながらも、彼のために努力を重ねる日々が始まった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

君までの距離

高遠 加奈
恋愛
普通のOLが出会った、特別な恋。 マンホールにはまったパンプスのヒールを外して、はかせてくれた彼は特別な人でした。

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

悪い魔法使い、その愛妻

井中かわず
恋愛
ヨモリギ王国 国民の半数以上が魔法使いという特徴をもった、平和な島国での物語。 孤児の小間使いリコはひょんなことから、恐ろしい異端の魔法使いヨルア・ルウの元に嫁ぐことになった。 執拗なほど愛情を注いでくるヨルアに戸惑いながらも、少しずつリコは心を開いていく。

『さよなら、彼に依存していた私―30日間の失恋回復ストーリー』

月下花音
恋愛
別れた日から30日。毎日、少しずつ「本当の私」に出会っていく 「嫌いになりたくないから、別れよう」 2年間付き合った彼氏・優也にそう告げられた日、私の世界は色を失った。 コーヒーは苦く、鏡に映る自分は知らない女で、スマホの通知音に心臓が跳ねる。 彼の好きだったチョコミントを避け、彼の痕跡が残る部屋で、ただ泣いていた。 でも、私は決めた。30日間で、私を取り戻す。 Day 1、苦いコーヒーを飲み干した。 Day 5、スマホを遠ざけた。 Day 7、彼のSNSを削除した。 Day 9、部屋の模様替えをした。 Day 13、彼のための香りを捨て、私の香りを選んだ。 Day 17、自分のために、花を買った。 Day 22、長い髪を切り、新しいスマホに変えた。 Day 29、新しい出会いを、恐れずに楽しめた。 Day 30、ストロベリーアイスを食べながら、心から笑っていた。 小さな「さよなら」を積み重ねるたび、私は変わっていく。 「彼に依存していた私」から、「私自身でいられる私」へ。 これは、失恋から立ち直る物語ではありません。 誰かのために生きていた女性が、自分のために生きることを選ぶ物語です。 【全31話完結】こころの30日間を追体験してください。

お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚

ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。 五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。 ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。 年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。 慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。 二人の恋の行方は……

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

処理中です...