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第3章:二人の関係の転機
3-4:噂を越えて揺れる想い
しおりを挟む結衣にとって、理香との言葉の応酬が心に残る中、秘書課での業務は相変わらず忙しさを増していた。大きなプロジェクトの成功が社内で話題となるにつれ、彼女と西園寺蓮の関係を取り沙汰する噂も後を絶たない。
「相沢さんって本当にすごいよね。社長があんなに褒めるなんて。」
「でも、あれって単なる仕事の評価だけじゃないんじゃない?」
廊下やオフィスでささやかれる声が、結衣の耳に届くたびに胸が痛む。噂はどんどん大きくなり、ついには「相沢は社長のお気に入りだ」という言葉が半ば社内の共通認識のように広まっていた。
---
ある日の夕方、いつものように結衣がスケジュール調整のため社長室を訪れると、蓮がいつもとは違う柔らかな表情で彼女を迎えた。
「相沢、今日はもう少し早めに帰る予定だ。仕事が終わったら一緒に軽く食事に行かないか?」
その突然の誘いに、結衣は驚きながらも答えた。
「あ……はい。大丈夫です。」
蓮は頷くと、再びデスクに向かい書類に目を落とした。結衣は胸の高鳴りを抑えながら、そっと社長室を後にした。
---
その夜、蓮と結衣はオフィス近くの小さなフレンチレストランに向かった。社員食堂や打ち上げでの食事とは違い、二人きりの静かな空間に、結衣はどこか落ち着かない気持ちを抱えていた。
「ここ、いい雰囲気ですね。」
結衣がそう言うと、蓮は軽く笑みを浮かべた。
「たまにはこういう場所も悪くないだろう。」
ワインが注がれ、料理が運ばれる中、蓮は少しだけ真剣な表情を見せた。
「最近、噂が広がっているのは知っている。」
突然の言葉に、結衣は驚き顔を上げた。
「噂……ですか?」
「お前と俺の関係についてだ。」
蓮は結衣をじっと見つめながら続けた。
「気にする必要はない。仕事に集中していれば、それが全ての答えになる。」
結衣はその言葉に安堵を覚えると同時に、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。蓮の言葉は冷静で的確だったが、そこに個人的な感情が混ざっていないことが、どこか寂しく感じられた。
「でも……皆さんがどう思っているのかを考えると、気になってしまって……」
結衣は思わず自分の本音を口にしてしまった。
蓮は静かに結衣を見つめ、言葉を選ぶように少しの間を置いた。
「周りが何を言おうと、お前の価値を下げるものではない。俺が信じるのはお前の仕事だ。」
その言葉に、結衣の目が潤んだ。蓮が自分を信頼してくれている――その事実が何よりも嬉しかった。
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食事を終え、レストランを出ると夜の冷たい風が二人を包んだ。結衣が軽く肩をすくめると、蓮がふと自分のジャケットを脱ぎ、彼女にそっとかけた。
「寒いだろう。」
その優しさに、結衣は心臓が跳ねるのを感じた。
「あ、ありがとうございます。でも……社長が寒くなりますよ。」
「俺は平気だ。それより、風邪を引かれる方が困る。」
蓮の静かな声には、普段の冷徹さとは違う温かみがあった。結衣はその瞬間、蓮への想いが少しずつ自分の中で大きくなっていることに気づいた。
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翌日、結衣は秘書課で仕事をしている中でも、昨夜の出来事が頭から離れなかった。蓮が見せた優しさと、彼の言葉一つ一つが胸の中で響き続けていた。
しかし、その一方で、理香の言葉も結衣を苦しめていた。
「私がいなければ、きっと社長は私を見てくれる。」
自分が蓮のそばにいることで理香を傷つけているのではないか――そんな思いが結衣の心に重くのしかかっていた。
「私は、どうすればいいんだろう……」
蓮への想いと、理香との関係の間で揺れ動く心。結衣はまだ、自分の気持ちに答えを出せないでいた。
---
その日の終業後、蓮から社長室に呼び出された。デスクで何かを整理していた蓮は、結衣が入ると静かに口を開いた。
「相沢、最近お前が悩んでいるのは分かる。」
結衣は驚いて顔を上げた。蓮が自分の心情に気づいているとは思っていなかったからだ。
「……社長には、何でもお見通しなんですね。」
蓮は微かに笑みを浮かべた後、真剣な表情で言った。
「お前にはこれからもそばで働いてもらいたい。だからこそ、余計なことで悩む必要はない。」
その言葉に、結衣は涙が溢れそうになるのを必死にこらえた。蓮の存在が、自分にとってどれほど大きいものになっているのか――その時、改めて実感した。
「はい……ありがとうございます。」
結衣はそう答えながら、蓮の信頼に応えるためにも、自分自身と向き合う決意を固めていた。
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揺れる心と蓮への想い。
結衣の中で、それはもはや無視できない感情へと変わりつつあった。蓮との距離が縮まる中で、彼女の人生は次の大きな転機を迎えようとしていた。
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