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第3章:二人の関係の転機
3-5:守られる存在としての気づき
しおりを挟む西園寺蓮と二人で食事をした夜から数日が経った。相沢結衣の胸には、彼の言葉や仕草が今でも鮮明に残っていた。
「お前の価値を下げるものは何もない。」
その一言が、彼女を支え、同時に胸を締め付ける。蓮への想いは自分の中で確かな形を帯び始めていたが、理香との軋轢や社内の噂がその感情に影を落としていた。
---
その日、結衣はいつもと変わらず業務に取り組んでいた。午前中のミーティングに必要な資料を用意し、午後のスケジュール調整を終えた後、会議の準備に追われていた。
「相沢さん、これ、確認お願いできますか?」
同僚の秘書が書類を差し出してきた。
「はい、すぐに確認しますね。」
忙しさに紛れて、結衣は少しだけ自分の不安を忘れることができていた。
しかし、平穏な時間は突然壊された。
---
午後の会議中、ある部長が蓮に対して些細な資料ミスを指摘した。
「この部分、誤解を招くような表現が含まれています。これは秘書課の確認不足ではありませんか?」
その発言に会議室が一瞬静まり返り、結衣の心臓が早鐘を打った。部長の視線が自分に向けられた瞬間、ミスの責任が自分にあるのではないかと不安に駆られた。
「相沢さん、これについて何か説明は?」
部長が直接問いかけてきたことで、会議室の全員の視線が結衣に集まった。
「えっと……それは……」
結衣は言葉を探したが、緊張と責任感で思考が混乱していた。資料を何度も確認したはずだが、その部分に誤解を招く可能性があるとは気づかなかった。
その時、蓮が静かに声を上げた。
「その件については、私が最終確認を行った。秘書課に責任はない。」
蓮の低く冷静な声が会議室に響き渡ると、部長は一瞬たじろいだ。
「社長……しかし……」
「秘書課の仕事は的確だった。私がその内容を承認した以上、問題があるならそれは私の責任だ。」
蓮はそう言い切り、会議室の空気を一変させた。結衣は驚きと安堵が入り混じった感情で、蓮の言葉を聞いていた。彼が自分を守ってくれたのだ――それが何よりも嬉しく、同時に胸が熱くなった。
---
会議が終わり、結衣は蓮のもとに向かった。
「社長、先ほどはありがとうございました。でも……あれは私のミスだったかもしれません。」
結衣がそう言うと、蓮はデスクから顔を上げ、彼女をじっと見つめた。
「相沢、お前は責任感が強すぎる。それはいいことだが、全てを自分のせいにするのはやめろ。」
蓮の言葉には、優しさと厳しさが同時に含まれていた。
「秘書課の仕事は完璧だった。仮に何か問題があったとしても、それを最終的に判断するのは私の役目だ。」
その言葉に、結衣は涙がこぼれそうになるのを必死に堪えた。蓮の言葉が、彼女の不安を少しずつ溶かしていくようだった。
---
その日の終業後、蓮が再び結衣を呼び出した。
「少し外に出よう。」
結衣は驚きながらも、彼に従った。二人で向かったのは会社近くの公園だった。夜の空気は冷たく澄んでおり、蓮はベンチに腰を下ろし、結衣を隣に促した。
「相沢、最近悩んでいるようだな。」
蓮は静かに口を開いた。
「えっ……どうして分かったんですか?」
結衣が驚いて聞き返すと、蓮はわずかに微笑んだ。
「お前は表情に出やすい。仕事では隠そうとしているが、俺の目は誤魔化せない。」
その言葉に、結衣は一瞬言葉を失った。蓮が自分をよく見てくれている――その事実が胸を温かくした。
「噂のことや、同期との関係……色々とあるのは分かっている。でも、それでお前が自分の価値を疑うのは間違っている。」
蓮の言葉は真っ直ぐで、結衣の心に深く届いた。
「私は……社長に迷惑をかけたくなくて。」
結衣がそう言うと、蓮は静かに首を振った。
「迷惑だと? お前がいることで、俺がどれだけ助かっているか分からないのか。」
その言葉に、結衣の目から涙が溢れた。蓮が自分を必要としてくれている――それがどれほど嬉しいことなのか、改めて実感した。
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その夜、結衣は布団に入っても眠れなかった。蓮が見せた優しさ、彼の信頼の言葉が、胸の中で大きく広がっていた。
「私は……社長のそばにいたい。」
結衣の中で芽生えたその想いは、もはや隠しようがないものだった。そして、その気持ちが自分の未来を大きく変えることになると、彼女はまだ知らなかった。
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