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第18話 旦那様は、昔からずっと(side:リオラ)
しおりを挟む午前中の家事を終え、庭に面した縁側でハーブを干していたときだった。
「リオラ様、少しよろしいでしょうか?」
声をかけてきたのは、ラディスの側近である青年・ディランだった。
いつもは落ち着いた眼差しなのに、今日はどこか言いにくそうにしている。
「どうしたんですか? 旦那様のご用ですか?」
「いえ……その、内緒の話と申しますか」
内緒――?
そう言われると、むしろ聞かない方が失礼な気がしてしまう。
ディランは軽く周囲を見回し、声を潜めた。
「旦那様は……ずっと、あなたを気にかけておられましたよ」
「え……?」
胸が一気に跳ね上がる。
「私が……ですか?」
「はい。侯爵家との婚約話の頃からです」
リオラは思わず手にしていたハーブを落としそうになった。
その頃の自分は、ただ“押しつけられた政略結婚”に怯えていただけだった。
ラディスのことなど、ほとんど知らなかったというのに――。
「ラ、ラディスが……どうして……?」
「あなたが怯えたようにしているのを見て、『無理に婚約を進めるべきではない』と、こっそり侯爵家へ抗議しておられました」
「えっ……?」
「ご本人は言いたがらないでしょうが。
あの方は昔から……気にかけてしまった相手には、とことん不器用なんです」
言葉が理解できても、胸が追いつかない。
旦那様が、あの頃から――?
「それに……リオラ様がこの領地へ来られた日の夜も」
「夜も……?」
「ええ。
『怖くなっていないだろうか』『寝つけているだろうか』と、珍しく何度も屋敷の見回りをされていました。
あんな旦那様、初めて見ましたよ」
「…………」
頬が一瞬で熱くなる。
視界が揺れ、心臓は落ち着かない。
(どうしよう……こんな話、心の準備が……)
ディランは微笑み、そっと頭を下げた。
「これは、ただの“事実”です。
旦那様はずっと、あなたを思っていました」
そう言い残して去っていく。
残されたリオラは、縁側にしゃがみ込んでしまった。
「……私、そんなふうに大切にされてたの……?」
これまでの些細な優しさが、全部つながっていく。
市場での態度も、雨の日に急いで帰ってきた理由も――。
白い結婚のはずだったのに。
こんなふうに距離が近くなることなんて、想像もしていなかった。
「……好きになってしまいそう」
ぽつりとつぶやいた声は、庭の風に溶けていった。
だがリオラは知らない。
縁側の角を曲がったところで、こっそり立ち止まっていたラディスが、
耳まで真っ赤にしていることを――。
(※本人は誤魔化すために息を潜めていたが、完全に聞いてしまっている)
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