婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第19話 殿下の誠実──「ただ君のそばにいたいだけなんだ」

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第19話 殿下の誠実──「ただ君のそばにいたいだけなんだ」

王宮の喧騒とは裏腹に、
夜の回廊は静かで、ひんやりとしていた。

その静けさの中、
アルファルファはただひとり、
イメルダの部屋の前で立ち尽くしていた。

扉をノックする直前。
彼は胸に手を当て、小さく深呼吸する。

(……今日のイメルダ……どこか元気がなかった……
 話してくれるだろうか……いや、無理に聞くのは違う……)

相変わらず優柔不断ぎみだが、
以前のように“言葉にできず沈黙する”ことだけはもうしない。

それだけは、イメルダと過ごす日々が
彼を変えたのだ。



「殿下……?」

扉を開けたイメルダは、
寝間着姿のまま、わずかに首を傾げていた。

柔らかい髪が肩に流れ、
目元にはまだ昼間の疲れが残っている。

アルファルファは慌てて言う。

「あ、あの……少しだけ……話せるだろうか……?
 いや……無理なら、もちろん後でも……」

その様子に、
イメルダは少しだけ笑みを浮かべた。

「大丈夫ですわ。どうぞ……」

殿下は安堵し、部屋に入った。



二人で小さな丸テーブルを挟んで座る。

イメルダは微笑みながら
「お茶を淹れますわ」と立ち上がったが、

「い、いや……!今日は……いい……!
 その……疲れているだろうし……」

と言われ、手が止まった。

(殿下……今日は……すごく落ち着いておいでですわね……?
 いつもと違って……どこか……決意があるような)

イメルダが席に戻ると、
殿下は少し真剣な顔になって口を開いた。

「イメルダ……。
 今日……何かあったのではないか……?」

「……っ」

核心を突かれ、イメルダの指が小さく震える。

「わ、わたくしは……別に……。殿下にご心配を……」

「心配する。
 君が……困っているのに、何も気づけないのは……嫌だ」

静かに、しかし確かな思いで言い切る。

以前なら
何も言えずに視線を彷徨わせていた王子が。

今は、違う。

(……殿下……こんなふうに……はっきりと言えるようになって……)

胸がじんわり、熱くなる。



イメルダは、唇を結び、そっと視線を落とした。

「……わたくし……少しだけ……不安でしたの。
 殿下をお支えしたいと思っているのに……
 王妃教育が忙しくて、おそばにいられないことが……」

殿下の目が見開かれる。

「……そんなことで……?
 イメルダ……君は、十分すぎるほど努力している。
 それに……一番そばにいてほしいと望んでいるのは……」

アルファルファは言いかけて、
恥ずかしそうに目を逸らした。

「……ぼ、ぼく……だから……」

イメルダの心臓が跳ねあがった。

(な、なんて……破壊力……!
 どうしてそんな……真正面から……)

思わず俯く。

それを見た殿下は慌てず、
そっと手を伸ばし、イメルダの指先に触れた。

「君は、ぼくの支えだ。
 そばにいてくれるだけでいい。
 無理に笑わなくても、無理に完璧でいなくても……
 ぼくは、君がいるだけで十分だ」

優しさという布で包み込むような声。

そして、
イメルダの指先をそっと包む。

「だから……不安を、ひとりで抱えないでくれ……?」

イメルダの胸が熱くなり、
目元がじんわりと潤む。

「……殿下……そんなことを言われたら……」

その先を言えない。
言ったらきっと、泣いてしまう。

殿下はそっと立ち上がり、
イメルダの肩へ自然と腕を回した。

「イメルダ……
 ただ……君のそばにいたいだけなんだ」

自然と額に軽いキスを落とす。

まるで、呼吸するみたいに自然に。

イメルダの心は、
胸の奥でそっと震えた。

(……だめ……もう……殿下のことばかり……
 考えてしまいますわ……)

ただ、それだけを胸に抱きしめる。



そして、部屋を出た直後。

殿下はひとり、回廊で深呼吸した。

(あ、あれ……?
 い、言えた……!?
 ぼく……ちゃんと言えた……!?
 わ、わ……わぁぁ……!)

思わず壁にもたれ、顔を真っ赤にする。

それを陰から見てしまった近衛騎士は
そっと目を逸らした。

(第一王子殿下……本当に……恋をされているのですね……)

イメルダと殿下の距離は、
確実にまたひとつ近づいたのだった。

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