婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第21話 イメルダ、夫の“さりげない変化”にさらに心を奪われる

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第21話 イメルダ、夫の“さりげない変化”にさらに心を奪われる

イメルダは王都の大通りを歩いていた。
護衛と侍女を従えているが、なぜかいつもより胸が高鳴ってしまう。

理由は――

今朝の殿下の態度。

昨日までなら、
彼は話しかける前に一拍置き、
目線を泳がせ、
声も小さく、
どこか人目を避けるようだった。

けれど今朝は違った。

部屋の扉をノックし、
控えめながらもはっきりとした声で、

「イメルダ、入ってもいいか?」

――呼び捨てだった。

それだけで胸が跳ね、
イメルダは咄嗟に返事をし損ねたほどだ。

しかも、彼は近づいてくるなり、
自然な仕草で肩を抱き寄せ、
おはようのキスを落としてきた。

(だ、だめ……思い出すだけで顔が……)

イメルダはこっそり頬を押さえる。

(あの方……普段はあんなに臆病なのに……
 どうして二人きりだと……あんなふうに……)

昨夜の一件は、
彼女の胸の奥深くに、
“抗えない甘さ”として刻まれてしまっていた。



「お嬢……いえ、殿下妃様。
 今日はドレスの仕立てをご覧になりますか?」

侍女が声をかけてきたが、
イメルダはなんとか平常心を装いながら頷いた。

王妃教育の一環で、
王家の公式衣装の寸法合わせを確認する必要がある。

本来なら、
緊張し責任を感じるべき重要な時間――

なのに。

(殿下……今頃なにをしているのかしら……)

頭に浮かぶのは、
意図せぬほど“夫”の姿ばかり。

その時。

「……イメルダ?」

背後から聞き慣れた、しかし前より落ち着いた声が響いた。

振り返ると、
アルファルファ殿下が立っていた。

今日は側仕えも最小限で、
気負わない服を着ているが――

どこか雰囲気が違う。

堂々としている……とは言わない。
だが、以前より確かに“自分で歩いている”感じがする。

「で、殿下……!」

イメルダは慌てて裾を摘まんだ。

「す、すみません……お仕事があると思って……」

「うん。少し時間ができたから……君に会いに来た」

さらりと言うその声に、
イメルダの心臓が跳ねた。

(ああ……もう、だめ……
 ほんとうに殿下のことばかり考えてしまう……)

そんな自分の変化を誤魔化すように、
イメルダは話題を逸らした。

「け、けれど……殿下がわざわざこちらに?
 今日は政務の書類が多いと……」

「うん。まだ仕事は残ってる。
 でも……君のことを考えていたら、
 どうしても少しだけ顔を見たくなって」

イメルダは息を呑んだ。

以前の彼なら――
こんなこと、絶対に言えなかった。

「い、いけませんわ殿下……
 そのように甘い言葉を……
 わ、私は……」

「……迷惑だったか?」

殿下がほんの少し眉を下げる。

その仕草ひとつで、
胸を撃ち抜かれたイメルダは――

(な、なんて顔……!それは反則ですわ……!)

慌てて首を振った。

「め、迷惑なわけ……ございません……!」

殿下はわずかに微笑んだ。
その笑顔は、以前よりずっと柔らかい。

「よかった。……それなら、安心した」



二人が並んで歩くと、
侍女たちが密かに驚きの声を上げる。

「まあ……あの殿下が、あんな自然に……」

「なんだか……殿下妃様をご自分の腕で守っているような……」

イメルダは聞こえないふりをした。

(守ってる……そんな……)

否定しようとしたけれど、
殿下の手は、
気づかぬうちにイメルダの腰へ軽く添えられていた。

さりげないが確かな繋がり。

(だめ……本当に、殿下の……)

胸の内に言葉が浮かぶ。

(……殿下のことばかり……)

その瞬間――
彼女の手に、殿下の指がそっと絡んだ。

「イメルダ、歩幅が少し速いよ。
 ……君が怪我をしたら困る」

優しく諭すような声。

イメルダは小さく震え、
ほんの少しだけ殿下に寄り添った。

(ああ……どうしてこんなに……
 優しいのですか、殿下……)



アルファルファ殿下は、
気弱さが完全に消えたわけではない。

だが……

イメルダの前では、少しずつ“夫の顔”になりつつあった。

それに気づいたイメルダの胸は、
どうしようもないほど高鳴ってしまう。

そして同時に――

この変化に最も焦っている人物が、
 他に二人いることをイメルダはまだ知らない。


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