23 / 43
第22話 ベータ、兄の変化に苛立ちを覚える
しおりを挟む
第22話 ベータ、兄の変化に苛立ちを覚える
「――はあああ!? 兄上が、堂々としてきた!? 嘘だろう!?」
王宮の私室で、ベータは声を荒げた。
執事や侍女がびくりと震えるが、誰も言い返せない。
「にわかには信じがたい話ですな……しかし、臣下たちからの噂でも――」
執事は恐る恐る続ける。
「“第一王子殿下は、最近少し雰囲気が変わられた”と」
「変わるわけないだろうがぁぁぁ!!」
ベータは椅子を蹴り飛ばし、苛立ちに任せて歩き回る。
(兄上が変わる?
堂々と振る舞う?
イメルダと自然に歩く!?)
「そんなの……全部俺の立場が悪くなるだけじゃないか!!」
◆
ベータにとって、兄のアルファルファは“都合のいい存在”だった。
気弱、優柔不断、目立たない。
王太子の座に近くとも、
まったく威圧感がなく、
自分(ベータ)こそが国王にふさわしいと言われる土台があった。
(兄上が無能だからこそ、俺が優れて見えるのに……!)
それが――崩れようとしている。
◆
「ベータ殿下、落ち着かれませんと……」
「落ち着けるか!!」
彼は怒鳴ると、机を叩いた。
「兄上はあれだぞ!?
女の手も握れず、ダンスでもイメルダ相手に足踏んでた男だぞ!?
何をやっても考え過ぎて固まる……
あの兄上が、変わるわけ……!」
言いながら、自分でも気づく。
(……いや。もしかして……イメルダのせいか?)
イメルダは気が強く、王家でも一目置かれていた。
そんな彼女を“妻”として持ったことで、
兄が変わったのかもしれない。
(だとしたら……面白くない。面白くないぞ……!)
◆
更に苛立ちに拍車をかける出来事が起きた。
「……殿下、アルティシア様がお越しです」
「通せ」
扉が開き、
アルティシアが優雅に微笑む――が、目は笑っていない。
「ベータ殿下。……ご覧になりまして?」
「……何をだ?」
アルティシアは扇子で口元を隠し、
くすりと笑った。
「殿下の兄上――
あの臆病で、気弱で、優柔不断の第一王子殿下が……
まるで“妻を守る騎士”のように振る舞っておりましたの」
「……はあ!? 何を言って――」
「殿下、これは現実ですわ」
アルティシアは静かに告げる。
「このままでは……兄上が“次期国王”として本当に支持を得てしまいます。
殿下の――私たちの未来が、脅かされますわ」
ベータは激しく舌打ちした。
「兄上は“ダメな兄上”のままでいないと困るんだよ!」
「ええ……ですから……」
アルティシアはベータの首に腕を絡めるように寄り添い、
澄ました声で囁いた。
「少し、手を打ちましょう?」
◆
ベータの眉がぴくりと動く。
(手を打つ……?
兄上が王にふさわしくないと、皆に思わせる策を――
アルティシアは既に考えている……)
「……具体的には?」
ニヤリと笑うアルティシア。
「殿下の“欠点”が、より大きく見えるようにするのです」
「欠点……?」
「優柔不断さ。曖昧な返事。決断の遅さ。
何もしなくても、もともとその欠点はありますわ。
後は、それを“周囲が意識せざるをえない状況”に誘導するだけ」
ベータは口元を歪める。
「つまり……兄上を“無能に見せる”わけだな」
「ええ、その通りですわ、殿下」
アルティシアは妖艶に微笑んだ。
(殿下――兄上がどれだけ変わろうと、
私たちが“変わったように見せなければ”、
世間などいくらでも思い込むのです)
アルティシアはそう確信していた。
だが――
彼女は知らない。
その“欠点”がもう、
イメルダの前では欠点でなくなっていることを。
そして、その誠実さと慎重さこそ、
国王に最も必要な“本物の器”として評価される未来を。
二人の企ては、
この後、自らに返ってくる。
---
「――はあああ!? 兄上が、堂々としてきた!? 嘘だろう!?」
王宮の私室で、ベータは声を荒げた。
執事や侍女がびくりと震えるが、誰も言い返せない。
「にわかには信じがたい話ですな……しかし、臣下たちからの噂でも――」
執事は恐る恐る続ける。
「“第一王子殿下は、最近少し雰囲気が変わられた”と」
「変わるわけないだろうがぁぁぁ!!」
ベータは椅子を蹴り飛ばし、苛立ちに任せて歩き回る。
(兄上が変わる?
堂々と振る舞う?
イメルダと自然に歩く!?)
「そんなの……全部俺の立場が悪くなるだけじゃないか!!」
◆
ベータにとって、兄のアルファルファは“都合のいい存在”だった。
気弱、優柔不断、目立たない。
王太子の座に近くとも、
まったく威圧感がなく、
自分(ベータ)こそが国王にふさわしいと言われる土台があった。
(兄上が無能だからこそ、俺が優れて見えるのに……!)
それが――崩れようとしている。
◆
「ベータ殿下、落ち着かれませんと……」
「落ち着けるか!!」
彼は怒鳴ると、机を叩いた。
「兄上はあれだぞ!?
女の手も握れず、ダンスでもイメルダ相手に足踏んでた男だぞ!?
何をやっても考え過ぎて固まる……
あの兄上が、変わるわけ……!」
言いながら、自分でも気づく。
(……いや。もしかして……イメルダのせいか?)
イメルダは気が強く、王家でも一目置かれていた。
そんな彼女を“妻”として持ったことで、
兄が変わったのかもしれない。
(だとしたら……面白くない。面白くないぞ……!)
◆
更に苛立ちに拍車をかける出来事が起きた。
「……殿下、アルティシア様がお越しです」
「通せ」
扉が開き、
アルティシアが優雅に微笑む――が、目は笑っていない。
「ベータ殿下。……ご覧になりまして?」
「……何をだ?」
アルティシアは扇子で口元を隠し、
くすりと笑った。
「殿下の兄上――
あの臆病で、気弱で、優柔不断の第一王子殿下が……
まるで“妻を守る騎士”のように振る舞っておりましたの」
「……はあ!? 何を言って――」
「殿下、これは現実ですわ」
アルティシアは静かに告げる。
「このままでは……兄上が“次期国王”として本当に支持を得てしまいます。
殿下の――私たちの未来が、脅かされますわ」
ベータは激しく舌打ちした。
「兄上は“ダメな兄上”のままでいないと困るんだよ!」
「ええ……ですから……」
アルティシアはベータの首に腕を絡めるように寄り添い、
澄ました声で囁いた。
「少し、手を打ちましょう?」
◆
ベータの眉がぴくりと動く。
(手を打つ……?
兄上が王にふさわしくないと、皆に思わせる策を――
アルティシアは既に考えている……)
「……具体的には?」
ニヤリと笑うアルティシア。
「殿下の“欠点”が、より大きく見えるようにするのです」
「欠点……?」
「優柔不断さ。曖昧な返事。決断の遅さ。
何もしなくても、もともとその欠点はありますわ。
後は、それを“周囲が意識せざるをえない状況”に誘導するだけ」
ベータは口元を歪める。
「つまり……兄上を“無能に見せる”わけだな」
「ええ、その通りですわ、殿下」
アルティシアは妖艶に微笑んだ。
(殿下――兄上がどれだけ変わろうと、
私たちが“変わったように見せなければ”、
世間などいくらでも思い込むのです)
アルティシアはそう確信していた。
だが――
彼女は知らない。
その“欠点”がもう、
イメルダの前では欠点でなくなっていることを。
そして、その誠実さと慎重さこそ、
国王に最も必要な“本物の器”として評価される未来を。
二人の企ては、
この後、自らに返ってくる。
---
0
あなたにおすすめの小説
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
都会から田舎に追放された令嬢ですが、辺境伯様と畑を耕しながらのんびり新婚スローライフしています
さら
恋愛
王都一の名門で育ちながら、婚約破棄と共に「無能」と烙印を押され、辺境へと追放された令嬢クラリッサ。
行き着いた先で出会ったのは、過去の戦場で心を閉ざし、孤独に領地を守る辺境伯ライナルトだった。
荒れ果てた畑、限られた食糧、迫り来る悪徳商会の策略――。
王都では役に立たなかった薬草や農作の知識が、この地では大きな力となる。
村人たちと共に畑を耕し、薬草園を育て、やがてクラリッサは「無能令嬢」から「皆に必要とされる奥方」へ。
剣で村を守るライナルトと、知恵と優しさで人を支えるクラリッサ。
二人が並び立った時、どんな脅威も跳ね除けられる――。
「あなたとなら、どんな嵐も越えていける」
追放から始まる辺境スローライフは、やがて夫婦の愛と未来を育む物語へ。
のんびり畑を耕しながら、気がつけば“無双”の幸せ新婚生活!?
ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~
水無月礼人
恋愛
私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!
素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。
しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!
……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?
私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!!
※【エブリスタ】でも公開しています。
【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される
夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。
さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。
目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。
優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。
一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。
しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる