婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第23話 イメルダ、初めて見る“国王教育の殿下”に驚く

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第23話 イメルダ、初めて見る“国王教育の殿下”に驚く

翌日。
イメルダは王家の書庫前に立ち尽くしていた。

侍女が困ったように声をかける。

「殿下妃様……本日は、殿下の“国王教育の講義”を見学されるのですよね?」

「え、ええ……そのつもりでしたけれど……」

イメルダは少し緊張していた。

昨夜――
“あの夜”を経て、
殿下に対する感情がまるで別物になった気がする。

朝のキス。
呼び捨て。
さりげない気遣い。

(だめ……考えるだけで胸が……)

自分がこんなにも殿下のことで頭がいっぱいになるとは、
イメルダ自身が一番驚いていた。

(しっかりしないと……私は政略結婚で王妃となる身ですわ。
 公務を見学するだけなのに……なんでこんなに緊張してるの……?)



扉をそっと開けると――
そこには机に向かい、
書類を前に真剣な表情でペンを走らせる殿下の姿があった。

「…………!」

イメルダは思わず息をのんだ。

いつもオロオロしている殿下。
人の目を気にして、気弱で、不器用で。
そんな彼の姿はそこにはない。

そこにいたのは――

“未来の王”にふさわしい姿勢のアルファルファ殿下。

真剣な横顔。
慎重に読み込み、
丁寧に一字一句確認しながら書き込む。

講師の側近が説明する。

「殿下は、もともと文官としての能力は高いのです。
 ただ、人前に出るとお緊張なさって……」

「そ、その……殿下は書類を読むのが苦手なのでは……?」

イメルダが小声で尋ねると、
側近は驚いたように目を見開いた。

「まさか!
 殿下は幼少期から“文章を読む速度と理解力”は宮廷一です。
 ただ……人前ですと、うまく発言できず誤解されることが多いのです」

「そ、そんな……」

(誤解……ずっと誤解されていた……?
 それなのに私は……“ダメ殿下”なんて……)

胸がチクリと痛んだ。



「……ふぅ」

殿下が書類を置き、肩を回した。
その動きすら以前より堂々として見える。

講師が尋ねる。

「殿下。この税制改正案について、
 ご意見を伺ってもよろしいでしょうか?」

イメルダは固唾を飲む。

以前の殿下なら――
こんな時は必ず黙り込み、視線を泳がせてしまっていた。

だが殿下は、
ほんの少し目線を落とし、
静かに言葉を選んだ。

「……少し時間をいただけますか?
 決断を急いで失敗するより、
 慎重に確認したいのです。
 ……私の性格上、性急な判断は向いておりませんので」

その言葉に、講師は微笑んだ。

「殿下の慎重さは長所です。
 王となる者にとって、最大の美徳でもあります」

イメルダの胸がじんわりと熱くなる。

(慎重……深く考える……
 それって、誠実で責任感のあることですわ……
 今まで私は……“気弱”と決めつけていた……)

講師がさらに続ける。

「殿下の特徴は、“考えすぎるほど丁寧”という点。
 即断しないのは、逃げているのではなく、
 “失敗しないように誠実であろうとしている”からです」

イメルダは唇を震わせた。

(そんな……そんなこと……知らなかった……
 私は、殿下を誤解していた……)



講義が終わり、殿下が席を立つ。

ふと視線が合い、
殿下はほんの少し照れたように笑った。

「……イメルダ。来ていたんだね」

「は、はい……」

「……その、さっきは……見苦しいところを見せたかもしれないが……」

(見苦しい?
 どこがですの!?
 むしろ……素敵でしたわ……!)

しかし声に出せず、
イメルダは小さく首を振る。

「いえ……
 殿下は……とても立派でしたわ」

殿下は頬を掻きながら、
少しだけふわっと笑う。

「……そう言ってもらえると……嬉しい」

イメルダの胸が跳ねる。

(だめ……本当に……殿下のことばかり……)

彼女は自分でも知らぬうちに、
殿下の袖をそっと掴んでいた。

「イメルダ?」

「……その……失礼いたしました……!」

慌てて手を離したイメルダに、
殿下は柔らかく微笑んだ。

「また……見に来てほしい。
 イメルダに見られても……もう嫌ではないから」

イメルダは瞳を大きく見開いた。

(もう……嫌ではない……?
 それって……)

言葉にできない喜びが胸にあふれていく。

そしてイメルダはそっと呟いた。

「殿下……
 私は……殿下のことを……もっと知りたいですわ」

殿下は一瞬驚き、
そして優しく頷いた。

「……僕もだよ、イメルダ」



この瞬間、二人の距離は
確かに縮まり始めた。

だがその裏で――
ベータとアルティシアの“策動”も本格的に動き始める。

それは……
やがて自らの首を絞める糸となることも知らずに。


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