婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第26話 アルティシアの“誘導工作”が始まる

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第26話 アルティシアの“誘導工作”が始まる

王宮の一角――
華やかな回廊を歩くアルティシアの足取りは、
まるで劇場へ向かう女優のようにしなやかだった。

だが、その瞳の奥には冷たい炎が宿っている。

(イメルダ……あなたの存在が邪魔なのですわ。
 殿下の成長を後押しするだなんて……
 どこまでも都合の悪い女ですわね)

アルティシアはゆっくりと扇子を開く。

目指すは――
殿下の側近室。



「アルティシア様!?
 突然のご訪問とは……」

緊張した側近が立ち上がる。

アルティシアは作り笑いを浮かべながら、
柔らかく首を傾げた。

「まあ、そんなに固くならずに。
 私、お兄様――いえ、第一王子殿下のことが心配でしてよ。
 少し、お話を伺いたくて参っただけですの」

「は、はあ……」

側近は困惑しながらも席に案内する。

アルティシアは優雅に腰掛けてから、
さりげない風を装って切り出した。

「殿下、最近……お疲れなのではなくて?」

「い、いえ……殿下は真面目に励んでおられ――」

「真面目、ねえ」

アルティシアは目を伏せて微笑んだ。

「でも……“あまり無理をなさらないほうが”いいと思うのです。
 本来、殿下は……決断が苦手でしょう?」

「……っ!」

側近の顔がこわばる。

アルティシアは畳みかけた。

「殿下のご負担にならないよう……
 “簡単な案件から”お回しするのがよろしいかと。
 複雑な政策は……殿下には荷が重すぎますもの」

側近たちは互いに視線を交わす。

アルファルファ殿下の“慎重さ”は、
側近たちも重々知っている。
彼らは殿下の長所だと理解してはいたが……

「殿下妃が、あまりに殿下を支えてしまうと……
 殿下のお力を誤解されてしまいますわよ?」

アルティシアの言葉は、
まるで耳元で囁くように響いた。

“殿下には難しい”
“殿下は決断できない”
“殿下妃に頼りすぎ”

側近たちの心に、
じわりと不信が染み込む。

これこそが――
アルティシアの狙いだった。



側近の一人が、おそるおそる尋ねる。

「……アルティシア様。
 つまり……難しい案件は避けよと?」

アルティシアは、
あたかも当然かのように頷いた。

「殿下のためですわ。
 “殿下を守る”のがあなた方の役目ですもの。
 間違った決断をなさらないよう――
 あなたがたが導いて差し上げて?」

その一言で、
側近たちの心は大きく揺れた。

(殿下を守るため……
 私たちが判断すべきだということか?)

アルティシアは、
それ以上多くを語らず席を立つ。

「殿下のために……どうか、ご配慮を」

彼女は軽やかに扇子を閉じ、
優雅に微笑みながら部屋を出た。

扉が閉まる直前――
アルティシアの声がかすかに響いた。

「殿下には……王は務まらないのですから」

側近たちは愕然としながらも、
その言葉を否定しきれなかった。


---

◆回廊・アルティシア

扉が閉じた瞬間、
アルティシアはクスッと笑った。

(これで……殿下は“重要な案件に触れられない王子”になる。
 イメルダがどれだけ持ち上げようと、
 殿下の評価は下がっていきますわ)

それだけでは終わらない。

(次は……イメルダ。
 あなたにも“殿下は頼りない”と思ってもらわないと)

アルティシアは静かに歩きながら、
もうひとつの計画を思い描いた。

(殿下の誠実さを……疑わせて差し上げますわ)

その瞳に宿る冷たい光は、
確実に“陰謀の始まり”を示していた。

しかし――
彼女の計算は大きく狂う。

なぜならアルファルファ殿下は、

イメルダの前だけは、どんな陰謀も跳ね返すほど強くなりつつあるから。

そしてイメルダもまた、
殿下を信じ抜く覚悟を固めていくのだった。


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