婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第25話 イメルダ、殿下の“迷いと誠実”を知り、さらに惹かれてしまう

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第25話 イメルダ、殿下の“迷いと誠実”を知り、さらに惹かれてしまう

夕方。
王宮の窓から差し込む柔らかな光が、
執務室の机いっぱいに広がる書類を照らしていた。

イメルダは侍女に案内され、
殿下の執務室へ向かった。

(殿下……今日もお忙しいのでしょうけれど……
 せめて、お茶だけでも差し上げたくて)

胸の奥が、そわそわと甘い緊張で満ちている。

昨夜以来、
彼に触れられるたび、名前を呼ばれるたび、
心は勝手に熱を帯びてしまう。

(だめ……もう本当に……殿下のことばかり……)



ノックをすると、控えめな声が返る。

「……どうぞ」

扉を開くと、
殿下が書類の山を前に難しい顔をしていた。

「殿下、イメルダでございます。
 お疲れではないかと……その、差し入れを」

「……ありがとう、イメルダ」

殿下は驚いたように顔を上げ、柔らかく微笑んだ。
その笑顔だけで――胸が震える。

「座ってもいいか?」

「え、ええ……もちろんですわ!」

イメルダが椅子を引くと、
殿下は少し照れながら座った。

イメルダはお茶を淹れ、
そっと殿下の前へ置いた。

「殿下、お疲れなのですね……?」

「……少し、悩んでいる」

殿下は手元の書類を見つめながら、
ぽつりと語り始めた。

「今日……国王陛下から大きな案件を任されたんだ。
 貴族派と市民派の融和政策。
 国の未来を左右しかねない案件だ」

イメルダは息を呑む。

重大な政務だ。
その決断には慎重にも慎重を期さねばならない。

「殿下……ご自分を責めてはいませんか?」

殿下は驚いたようにイメルダを見る。

「……なぜ、そう思う?」

(だって……分かるから)

イメルダは静かに答える。

「殿下は……いつも慎重で、誠実で……
 だからこそ、“正しく決められないかもしれない”と
 ご自分を責めてしまうところがあります」

殿下はしばし沈黙し――
苦笑した。

「……僕は本当に弱いんだな」

「ち、違いますわ!」

イメルダは思わず立ち上がり、机に手をついた。

「殿下は弱くなんてありません!
 むしろ……誰よりも強い方です!」

殿下が驚いて目を見開く。

イメルダは頬を紅潮させながら続ける。

「即断即決できることだけが“強さ”ではありません。
 大切なことほど慎重になるのは……責任感があるからですわ。
 殿下は“逃げるために黙る”のではなく、
 “正しい道を選ぶために考えている”のです」

殿下は、胸を押さえるように小さく息を呑んだ。

「イメルダ……君は……どうしてそんなふうに……僕を……」

(あなたを好きだから……)

その言葉が喉までこみ上げる。

でも、まだ言えない。

代わりに――
イメルダはそっと微笑んだ。

「私には……殿下の良いところが、たくさん見えますわ。
 誰よりも真面目で、誠実で、優しいところ……
 私は……それを知っていますもの」

殿下は照れたように目を逸らす。

しかしその頬は――
わずかに赤い。

イメルダはさらにそっと続けた。

「殿下……今の殿下は……
 “慎重であるからこそ、正しい道を選べる方”です。
 私は……それが好き……いえ、尊敬しておりますわ」

殿下は目を閉じ、深く息を吸ってから――
ゆっくりと立ち上がった。

イメルダの前に歩み寄り、
その手を両手で包み込む。

「……僕の弱さも、強さも……
 全部を見て……それでも“そばにいたい”と言ってくれる君を……
 僕は……大切にしたい。
 君の期待に応えられるような男になりたい」

イメルダの胸が熱くなる。

(殿下……そんな……そんな言葉……)

殿下は、不器用で控えめながらも、
はっきりとイメルダを見つめた。

「イメルダ……
 君が支えてくれるなら……
 僕は変われると思う」

イメルダは目を潤ませ、
震える声で返した。

「はい……殿下……
 私は、殿下を……いつまでも支えますわ」

二人の距離が自然と近づき――
殿下はそっとイメルダの額に口づけを落とした。

優しく、愛おしく、深い誠実さを込めて。

イメルダの心臓は大きく跳ねる。

(ああ……だめ……
 本当に……殿下のことばかり……)



しかし、二人の絆が深まるほど、
ベータとアルティシアの焦りは増し、
動きは加速していく。

その火種はすでに――
王宮内で静かに広がりつつあった。


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