婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第28話 殿下、密かに“イメルダのための決断”を下す

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第28話 殿下、密かに“イメルダのための決断”を下す

執務室。
いつもより少し遅く、夕方の光が傾き始めている。

アルファルファ殿下は机に向かい、
数枚の書類を並べて黙って見つめていた。

横で控える側近が、
恐る恐る口を開く。

「殿下……本日の公務は、まもなく終了ですが……
 お疲れではございませんか?」

殿下は小さく首を振った。

「……大丈夫だ。
 ただ……考えたいことがあるだけなんだ」

その声は、静かだが芯があった。

側近はそっと頭を下げた。
最近、殿下は見違えるほど変わってきている。

堂々としたわけではない。
威圧的なわけでもない。

ただ、迷っているように見えても――
 一歩一歩、自分の意思で前へ進んでいる。

そしてその原動力は、
誰がどう見てもただ一人。

イメルダ妃殿下。



殿下は机の前でそっと呟いた。

「……イメルダに、もっと胸を張ってもらいたいんだ」

側近が驚いて顔を上げる。

「殿下……?」

殿下はゆっくりと語り始める。

「僕は、ずっと……自信がなかった。
 何かを決める時、いつも間違う気がして……
 怖くて、動けなくて……」

側近は静かに耳を傾けた。

「でも……イメルダが僕を信じてくれた。
 “殿下は慎重だからこそ正しい判断ができる方”だと……
 そう言ってくれた」

殿下の指が、机の端をそっとなぞる。

「だから……今度は僕が、
 イメルダを守りたい。
 彼女が誰かの言葉で不安になったり、
 僕のせいで心を乱されるようなことは……
 させたくない」

その言葉は、真剣そのものだった。

側近は胸を熱くする。

(……殿下は本当に……変わられた……)

「殿下。
 何をお考えなのでしょう?」

殿下は深呼吸し、
机に置いていた一枚の書類を持ち上げた。

「……僕は、この融和政策案に……“自分の意見”を提出する。
 時間はかかっても、僕の考えをまとめて……
 王の前で述べるつもりだ」

側近は目を見張った。

「……殿下が、自ら意見を?
 ついに……王太子としてのご覚悟を……」

殿下は頷いた。

「イメルダが、僕を信じてくれたから。
 だから……僕も彼女に胸を張れるような男になりたい」

殿下の指先が、わずかに震えた。

恐れではない。

決意の震えだ。

「僕は……もう逃げない。
 イメルダのためにも、
 自分のためにも」

側近は深く頭を下げた。

「殿下……そのお覚悟、必ずや王国を導く道へ繋がりましょう」

殿下は照れたように微笑む。

「褒めすぎだよ……
 でも……ありがとう」



その夜。
殿下は誰にも知らせずに筆を取った。

ゆっくり、慎重に文章を選び――
イメルダを想いながら書き続ける。

(イメルダ……僕は……あなたのおかげで前に進める)

完成した草案を見つめ、
殿下はそっと呟いた。

「……必ず君の誇りになる」

その言葉は、
誰にも届かない小さな声だったが――

確かに、未来の国王の声だった。



――しかし。

その頃、イメルダはまだ
アルティシアの放った“疑いの棘”に胸を痛めていた。

殿下のことを信じている。
心から信じている――
それでも、不安は消えない。

(私は……殿下の力になれているのかしら……
 本当に……迷わせてしまっていない……?)

イメルダがその胸を痛めていることを、
殿下はまだ知らない。


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