婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第29話 イメルダ、不安が積もり“殿下に距離を置こうとしてしまう”

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第29話 イメルダ、不安が積もり“殿下に距離を置こうとしてしまう”

その日の夕刻。
イメルダは自室の窓際で膝を抱えて座っていた。

王宮の庭に広がる夕焼けは美しく、
赤く染まる空はいつもなら心を癒してくれる。

けれど今日は違う。

胸の奥にずっと刺さっている
アルティシアの言葉が抜けないのだ。

『殿下は……決断が苦手な方ですもの。
 誠実だけでは国は動きませんわ』

『殿下妃への依存が強まっている、と噂されていましたわよ?』

(……ああ、考えたくありませんわ……)

イメルダは胸元をぎゅっと握る。

(殿下が私に……依存している?
 私は殿下の足を……引っ張っている……?
 そんな……そんなはず、ない……)

でも、胸が痛む。

――だって、殿下はいつも私を信じてくれている。

――私を頼ってくれる。

それが嬉しかった。

けれど同時に、
アルティシアのあの言葉が頭をよぎる。

(……わたくしのせいで、殿下の成長を妨げている……?
 そんなこと……あってはならないわ……!)

そう思うほど、
涙がにじむ。



その時、控えめなノックが聞こえた。

「イメルダ……入ってもいい?」

その声だけで胸が跳ねた。

(殿下……)

イメルダは慌てて涙を拭い、
呼吸を整えて扉へ向かう。

扉を開けると、
殿下がいつもの柔らかい微笑みで立っていた。

「……どうしたんだい?
 今日は少し……顔色が悪いように見える」

イメルダは一瞬迷った。
いつもなら“なんでもありません”と返すところ。

でも、胸が苦しい。

殿下を想えば想うほど、
アルティシアの言葉が頭から離れない。

「殿下……あの、少し……よろしいでしょうか……?」

殿下は驚きつつも優しく頷いた。

「もちろん。
 何があったか、話してごらん」

イメルダは唇を震わせたまま、
言葉を慎重に選ぼうとする。

けれど、どんな言葉も適切に感じない。

(殿下を……嫌いになったわけじゃありません。
 むしろ……もっと……)

胸が締め付けられる。

だから――
イメルダはつい、言葉を誤ってしまった。

「……殿下。
 わたくし……少しだけ……距離を置いたほうが、
 良いのではないかと……」

殿下の表情が一瞬で固まった。

「………………距離を……?」

イメルダは必死に説明しようとする。

「わ、わたくし……殿下の力になりたいのに……
 殿下の決断を……妨げてしまっているのではと……
 その……依存させてしまっているのでは……と……」

殿下は深く息を吸い――
静かに、しかし強く言った。

「――誰が、そんなことを言った?」

その声音に、
イメルダはハッと顔を上げる。

殿下の表情は穏やかだったが――
その瞳の奥に、
今まで見たことがないほどの“怒りの色”があった。

(……殿下が……怒っている……?)

イメルダは身体を震わせた。

「い、いいえ……誰からとも……
 ただ、わたくしが……そう思って……」

殿下は一歩、イメルダの前に進み出る。
その声は優しいのに、しっかりとしていた。

「イメルダ。
 君は僕が“依存”していると思っているのかい?」

「……わ、わたくし……」

「違うよ」

殿下はそっとイメルダの手を取り、
しっかりと握りしめた。

「僕は君を“信頼”しているんだ」

イメルダの目が潤む。

(信頼……?)

殿下は、ゆっくりと続けた。

「君がそばにいるから……僕は前へ進める。
 君がそばにいるから……僕は決断できるようになった。
 君がそばにいるから……僕は強くなれた」

言葉が胸に熱く突き刺さる。

(殿下……そんな……)

「イメルダ。
 距離を置くなんて……そんなことは言わないでくれ」

殿下はまっすぐにイメルダを見つめ、

「君が僕の隣にいてくれないなら……
 僕は、王にはなれない」

と静かに言い切った。

イメルダの胸の奥が、
熱く、熱く満たされていく。

(……殿下……)

殿下はイメルダの頬に触れ、

「君がそばにいてくれるだけで……
 僕はどれだけ救われているか……分かっているかい?」

そう言って、
涙をこぼしかけたイメルダを
優しく抱きしめた。

――その抱擁は、
イメルダの不安をすべて溶かしていくほど強く、
温かかった。

(ああ……わたくしは……
 こんなにも殿下を……)

イメルダは震えながら殿下の胸に手を添えた。

「殿下……
 申し訳ございません……
 わたくし……不安で……」

「大丈夫だよ。
 僕は……君を離すつもりなんてない」

その言葉に、
イメルダはそっと殿下の胸に額を預けた。

(わたくし……もう一度、殿下を支えますわ……
 殿下が“王”となるその日まで……)

二人の絆は、
この夜さらに深まり――
同時に、
アルティシアとベータの計画は
確実に破綻へと向かい始めた。


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