31 / 43
第29話 イメルダ、不安が積もり“殿下に距離を置こうとしてしまう”
しおりを挟む
第29話 イメルダ、不安が積もり“殿下に距離を置こうとしてしまう”
その日の夕刻。
イメルダは自室の窓際で膝を抱えて座っていた。
王宮の庭に広がる夕焼けは美しく、
赤く染まる空はいつもなら心を癒してくれる。
けれど今日は違う。
胸の奥にずっと刺さっている
アルティシアの言葉が抜けないのだ。
『殿下は……決断が苦手な方ですもの。
誠実だけでは国は動きませんわ』
『殿下妃への依存が強まっている、と噂されていましたわよ?』
(……ああ、考えたくありませんわ……)
イメルダは胸元をぎゅっと握る。
(殿下が私に……依存している?
私は殿下の足を……引っ張っている……?
そんな……そんなはず、ない……)
でも、胸が痛む。
――だって、殿下はいつも私を信じてくれている。
――私を頼ってくれる。
それが嬉しかった。
けれど同時に、
アルティシアのあの言葉が頭をよぎる。
(……わたくしのせいで、殿下の成長を妨げている……?
そんなこと……あってはならないわ……!)
そう思うほど、
涙がにじむ。
◆
その時、控えめなノックが聞こえた。
「イメルダ……入ってもいい?」
その声だけで胸が跳ねた。
(殿下……)
イメルダは慌てて涙を拭い、
呼吸を整えて扉へ向かう。
扉を開けると、
殿下がいつもの柔らかい微笑みで立っていた。
「……どうしたんだい?
今日は少し……顔色が悪いように見える」
イメルダは一瞬迷った。
いつもなら“なんでもありません”と返すところ。
でも、胸が苦しい。
殿下を想えば想うほど、
アルティシアの言葉が頭から離れない。
「殿下……あの、少し……よろしいでしょうか……?」
殿下は驚きつつも優しく頷いた。
「もちろん。
何があったか、話してごらん」
イメルダは唇を震わせたまま、
言葉を慎重に選ぼうとする。
けれど、どんな言葉も適切に感じない。
(殿下を……嫌いになったわけじゃありません。
むしろ……もっと……)
胸が締め付けられる。
だから――
イメルダはつい、言葉を誤ってしまった。
「……殿下。
わたくし……少しだけ……距離を置いたほうが、
良いのではないかと……」
殿下の表情が一瞬で固まった。
「………………距離を……?」
イメルダは必死に説明しようとする。
「わ、わたくし……殿下の力になりたいのに……
殿下の決断を……妨げてしまっているのではと……
その……依存させてしまっているのでは……と……」
殿下は深く息を吸い――
静かに、しかし強く言った。
「――誰が、そんなことを言った?」
その声音に、
イメルダはハッと顔を上げる。
殿下の表情は穏やかだったが――
その瞳の奥に、
今まで見たことがないほどの“怒りの色”があった。
(……殿下が……怒っている……?)
イメルダは身体を震わせた。
「い、いいえ……誰からとも……
ただ、わたくしが……そう思って……」
殿下は一歩、イメルダの前に進み出る。
その声は優しいのに、しっかりとしていた。
「イメルダ。
君は僕が“依存”していると思っているのかい?」
「……わ、わたくし……」
「違うよ」
殿下はそっとイメルダの手を取り、
しっかりと握りしめた。
「僕は君を“信頼”しているんだ」
イメルダの目が潤む。
(信頼……?)
殿下は、ゆっくりと続けた。
「君がそばにいるから……僕は前へ進める。
君がそばにいるから……僕は決断できるようになった。
君がそばにいるから……僕は強くなれた」
言葉が胸に熱く突き刺さる。
(殿下……そんな……)
「イメルダ。
距離を置くなんて……そんなことは言わないでくれ」
殿下はまっすぐにイメルダを見つめ、
「君が僕の隣にいてくれないなら……
僕は、王にはなれない」
と静かに言い切った。
イメルダの胸の奥が、
熱く、熱く満たされていく。
(……殿下……)
殿下はイメルダの頬に触れ、
「君がそばにいてくれるだけで……
僕はどれだけ救われているか……分かっているかい?」
そう言って、
涙をこぼしかけたイメルダを
優しく抱きしめた。
――その抱擁は、
イメルダの不安をすべて溶かしていくほど強く、
温かかった。
(ああ……わたくしは……
こんなにも殿下を……)
イメルダは震えながら殿下の胸に手を添えた。
「殿下……
申し訳ございません……
わたくし……不安で……」
「大丈夫だよ。
僕は……君を離すつもりなんてない」
その言葉に、
イメルダはそっと殿下の胸に額を預けた。
(わたくし……もう一度、殿下を支えますわ……
殿下が“王”となるその日まで……)
二人の絆は、
この夜さらに深まり――
同時に、
アルティシアとベータの計画は
確実に破綻へと向かい始めた。
---
その日の夕刻。
イメルダは自室の窓際で膝を抱えて座っていた。
王宮の庭に広がる夕焼けは美しく、
赤く染まる空はいつもなら心を癒してくれる。
けれど今日は違う。
胸の奥にずっと刺さっている
アルティシアの言葉が抜けないのだ。
『殿下は……決断が苦手な方ですもの。
誠実だけでは国は動きませんわ』
『殿下妃への依存が強まっている、と噂されていましたわよ?』
(……ああ、考えたくありませんわ……)
イメルダは胸元をぎゅっと握る。
(殿下が私に……依存している?
私は殿下の足を……引っ張っている……?
そんな……そんなはず、ない……)
でも、胸が痛む。
――だって、殿下はいつも私を信じてくれている。
――私を頼ってくれる。
それが嬉しかった。
けれど同時に、
アルティシアのあの言葉が頭をよぎる。
(……わたくしのせいで、殿下の成長を妨げている……?
そんなこと……あってはならないわ……!)
そう思うほど、
涙がにじむ。
◆
その時、控えめなノックが聞こえた。
「イメルダ……入ってもいい?」
その声だけで胸が跳ねた。
(殿下……)
イメルダは慌てて涙を拭い、
呼吸を整えて扉へ向かう。
扉を開けると、
殿下がいつもの柔らかい微笑みで立っていた。
「……どうしたんだい?
今日は少し……顔色が悪いように見える」
イメルダは一瞬迷った。
いつもなら“なんでもありません”と返すところ。
でも、胸が苦しい。
殿下を想えば想うほど、
アルティシアの言葉が頭から離れない。
「殿下……あの、少し……よろしいでしょうか……?」
殿下は驚きつつも優しく頷いた。
「もちろん。
何があったか、話してごらん」
イメルダは唇を震わせたまま、
言葉を慎重に選ぼうとする。
けれど、どんな言葉も適切に感じない。
(殿下を……嫌いになったわけじゃありません。
むしろ……もっと……)
胸が締め付けられる。
だから――
イメルダはつい、言葉を誤ってしまった。
「……殿下。
わたくし……少しだけ……距離を置いたほうが、
良いのではないかと……」
殿下の表情が一瞬で固まった。
「………………距離を……?」
イメルダは必死に説明しようとする。
「わ、わたくし……殿下の力になりたいのに……
殿下の決断を……妨げてしまっているのではと……
その……依存させてしまっているのでは……と……」
殿下は深く息を吸い――
静かに、しかし強く言った。
「――誰が、そんなことを言った?」
その声音に、
イメルダはハッと顔を上げる。
殿下の表情は穏やかだったが――
その瞳の奥に、
今まで見たことがないほどの“怒りの色”があった。
(……殿下が……怒っている……?)
イメルダは身体を震わせた。
「い、いいえ……誰からとも……
ただ、わたくしが……そう思って……」
殿下は一歩、イメルダの前に進み出る。
その声は優しいのに、しっかりとしていた。
「イメルダ。
君は僕が“依存”していると思っているのかい?」
「……わ、わたくし……」
「違うよ」
殿下はそっとイメルダの手を取り、
しっかりと握りしめた。
「僕は君を“信頼”しているんだ」
イメルダの目が潤む。
(信頼……?)
殿下は、ゆっくりと続けた。
「君がそばにいるから……僕は前へ進める。
君がそばにいるから……僕は決断できるようになった。
君がそばにいるから……僕は強くなれた」
言葉が胸に熱く突き刺さる。
(殿下……そんな……)
「イメルダ。
距離を置くなんて……そんなことは言わないでくれ」
殿下はまっすぐにイメルダを見つめ、
「君が僕の隣にいてくれないなら……
僕は、王にはなれない」
と静かに言い切った。
イメルダの胸の奥が、
熱く、熱く満たされていく。
(……殿下……)
殿下はイメルダの頬に触れ、
「君がそばにいてくれるだけで……
僕はどれだけ救われているか……分かっているかい?」
そう言って、
涙をこぼしかけたイメルダを
優しく抱きしめた。
――その抱擁は、
イメルダの不安をすべて溶かしていくほど強く、
温かかった。
(ああ……わたくしは……
こんなにも殿下を……)
イメルダは震えながら殿下の胸に手を添えた。
「殿下……
申し訳ございません……
わたくし……不安で……」
「大丈夫だよ。
僕は……君を離すつもりなんてない」
その言葉に、
イメルダはそっと殿下の胸に額を預けた。
(わたくし……もう一度、殿下を支えますわ……
殿下が“王”となるその日まで……)
二人の絆は、
この夜さらに深まり――
同時に、
アルティシアとベータの計画は
確実に破綻へと向かい始めた。
---
0
あなたにおすすめの小説
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
都会から田舎に追放された令嬢ですが、辺境伯様と畑を耕しながらのんびり新婚スローライフしています
さら
恋愛
王都一の名門で育ちながら、婚約破棄と共に「無能」と烙印を押され、辺境へと追放された令嬢クラリッサ。
行き着いた先で出会ったのは、過去の戦場で心を閉ざし、孤独に領地を守る辺境伯ライナルトだった。
荒れ果てた畑、限られた食糧、迫り来る悪徳商会の策略――。
王都では役に立たなかった薬草や農作の知識が、この地では大きな力となる。
村人たちと共に畑を耕し、薬草園を育て、やがてクラリッサは「無能令嬢」から「皆に必要とされる奥方」へ。
剣で村を守るライナルトと、知恵と優しさで人を支えるクラリッサ。
二人が並び立った時、どんな脅威も跳ね除けられる――。
「あなたとなら、どんな嵐も越えていける」
追放から始まる辺境スローライフは、やがて夫婦の愛と未来を育む物語へ。
のんびり畑を耕しながら、気がつけば“無双”の幸せ新婚生活!?
ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~
水無月礼人
恋愛
私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!
素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。
しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!
……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?
私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!!
※【エブリスタ】でも公開しています。
【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される
夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。
さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。
目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。
優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。
一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。
しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる