40 / 40
第四十話 選ばれなかった令嬢は、世界の外に立つ
しおりを挟む
第四十話 選ばれなかった令嬢は、世界の外に立つ
春は完全に根を下ろしていた。
王都の街路には均衡の日の旗が揺れ、南方の港では分散炉の灯が安定し、北の山々では新緑が静かに広がっている。
祝祭はあった。
だが像はない。
中心もない。
誰か一人の名を叫ぶ声もない。
それでも世界は回っている。
均衡は、空気のように。
王都、中央広場。
王太子は広場を見下ろしながら言う。
「彼女がいなくても、回るな」
アルフレッドが静かに答える。
「それが彼女の望みだ」
かつて選ばれなかった令嬢は、今や選ばれなくても揺らがない。
支配も象徴も拒み、制度だけを残した。
ざまぁは、とっくに終わっている。
王家は依存を失い、研究局は独立し、南方は対等になった。
敗者はいない。
ただ、成長がある。
北。
私は丘に立ち、風を受けていた。
均衡の日の祝砲はここまで届かない。
それでいい。
レオンハルトが隣に立つ。
「終わったな」
「終わっていません」
「では」
「始まりです」
均衡は完成ではない。
完成した瞬間に停滞する。
だから削り続ける。
問い続ける。
星を見上げる。
かつて私は、王都で“価値なし”と評された。
削られる側だった。
だが削られたからこそ、理論は生まれた。
否定は土壌になった。
もし、あのとき選ばれていたら。
王家直属顧問になっていたら。
像を受け入れていたら。
均衡はここまで広がらなかった。
私は王都を振り返らない。
未練はない。
後悔もない。
あるのは選択の結果だけ。
通信が入る。
王太子だ。
「均衡の日、おめでとう」
「祝いは不要です」
「形式だ」
「では受け取ります」
短い沈黙。
「北公爵令嬢」
「はい」
「あなたは満足か」
私は少しだけ考える。
「いいえ」
「ほう」
「満足は停滞です」
通信の向こうで、小さな笑い声が響く。
「変わらないな」
「変わりますよ」
「どこが」
「世界が」
通信が切れる。
レオンハルトが肩をすくめる。
「相変わらずだ」
「ええ」
だが内心は穏やかだった。
私は英雄ではない。
象徴でもない。
王妃でも顧問でもない。
選ばれなかった令嬢。
それで十分。
均衡は今や世界の理論だ。
王都も北も南方も、互いを削り合わず支え合う。
中心なき世界。
名なき制度。
個人に依存しない光。
春風が吹く。
山の緑が揺れる。
私はゆっくりと丘を下りる。
物語はここで終わる。
だが均衡は終わらない。
削られ、整えられ、問いを受け、問いを返す。
かつて価値なしと断じられた令嬢は、世界の中心に立たなかった。
だからこそ、世界は中心を持たずに済んだ。
それが最後の答え。
そして、はじまりだった。
春は完全に根を下ろしていた。
王都の街路には均衡の日の旗が揺れ、南方の港では分散炉の灯が安定し、北の山々では新緑が静かに広がっている。
祝祭はあった。
だが像はない。
中心もない。
誰か一人の名を叫ぶ声もない。
それでも世界は回っている。
均衡は、空気のように。
王都、中央広場。
王太子は広場を見下ろしながら言う。
「彼女がいなくても、回るな」
アルフレッドが静かに答える。
「それが彼女の望みだ」
かつて選ばれなかった令嬢は、今や選ばれなくても揺らがない。
支配も象徴も拒み、制度だけを残した。
ざまぁは、とっくに終わっている。
王家は依存を失い、研究局は独立し、南方は対等になった。
敗者はいない。
ただ、成長がある。
北。
私は丘に立ち、風を受けていた。
均衡の日の祝砲はここまで届かない。
それでいい。
レオンハルトが隣に立つ。
「終わったな」
「終わっていません」
「では」
「始まりです」
均衡は完成ではない。
完成した瞬間に停滞する。
だから削り続ける。
問い続ける。
星を見上げる。
かつて私は、王都で“価値なし”と評された。
削られる側だった。
だが削られたからこそ、理論は生まれた。
否定は土壌になった。
もし、あのとき選ばれていたら。
王家直属顧問になっていたら。
像を受け入れていたら。
均衡はここまで広がらなかった。
私は王都を振り返らない。
未練はない。
後悔もない。
あるのは選択の結果だけ。
通信が入る。
王太子だ。
「均衡の日、おめでとう」
「祝いは不要です」
「形式だ」
「では受け取ります」
短い沈黙。
「北公爵令嬢」
「はい」
「あなたは満足か」
私は少しだけ考える。
「いいえ」
「ほう」
「満足は停滞です」
通信の向こうで、小さな笑い声が響く。
「変わらないな」
「変わりますよ」
「どこが」
「世界が」
通信が切れる。
レオンハルトが肩をすくめる。
「相変わらずだ」
「ええ」
だが内心は穏やかだった。
私は英雄ではない。
象徴でもない。
王妃でも顧問でもない。
選ばれなかった令嬢。
それで十分。
均衡は今や世界の理論だ。
王都も北も南方も、互いを削り合わず支え合う。
中心なき世界。
名なき制度。
個人に依存しない光。
春風が吹く。
山の緑が揺れる。
私はゆっくりと丘を下りる。
物語はここで終わる。
だが均衡は終わらない。
削られ、整えられ、問いを受け、問いを返す。
かつて価値なしと断じられた令嬢は、世界の中心に立たなかった。
だからこそ、世界は中心を持たずに済んだ。
それが最後の答え。
そして、はじまりだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。
椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」
ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。
ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。
今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって?
これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。
さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら?
――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる