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第34話 「王宮からの圧力と、揺れる心の行方」
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第34話 「王宮からの圧力と、揺れる心の行方」
侍女の緊迫した声に、フェリシェールとルシアンは一瞬動きを止めた。
「王宮から……至急のお使いって……?」
侍女は険しい顔のまま、言いづらそうに口を開いた。
「公爵閣下……殿下から、“会談の場を設けたい”とのご命令です。
至急、公爵閣下と夫人をお呼びしたい……と」
空気が凍りついた。
ルシアンの表情は、怒りと冷静を必死に均衡させているようだった。
「……殿下が?」
「はい。しかも……“ご夫婦そろって来るように”と……」
実質的な“呼び出し”だった。
フェリシェールの胸に不安が広がる。
(昨日のこと……ルシアンが殿下に言い返したから……
王宮が本格的に動いた……?)
そしてルシアンの手が、ほんの少し強く握られた。
「……王宮へは、俺だけが行く。フェリシェールは連れて行かない」
「え……でも……殿下が二人でと……」
「構わん。
君を連れて行って、何をされるか分からん」
その言葉は過保護にも聞こえるが、同時に切実だった。
フェリシェールの胸は、微かに熱くなる。
「私は……行ってはいけませんか?」
自分でも驚くほど弱い声だった。
ルシアンは目を逸らし、その瞳に複雑な影を落とした。
「……俺は、君を危険に晒したくない」
(危険……)
フェリシェールは心の奥が温かくなるのを感じた。
(こんなふうに言われるなんて……)
白い結婚であるはずの二人。
初めは“互いを縛らない”ための契約――
だが気づけば、ルシアンは彼女を守るようにそばにいてくれる。
フェリシェールはゆっくり首を振った。
「私、ルシアンと一緒に行きたいです」
「……!」
「迷惑ではありませんわよね……?」
ルシアンは一瞬だけ言葉を失い、次いで小さく息を吐いた。
「……迷惑など、ない」
その声は抑えたように低く、けれど優しかった。
「ただ……絶対に俺の後ろから離れるな」
「はい」
短い会話なのに、胸の奥が強く鳴った。
そして二人は急ぎ、王宮へ向かった。
◆
王宮の会議室は、既に重苦しい空気で満たされていた。
第一王子アレクシスが卓の最上座に座り、その周囲には重鎮たちが並ぶ。
フェリシェールとルシアンが入室すると──
視線が一斉に降り注いだ。
「……来たか、辺境公爵。そして……夫人」
アレクシスの声音は丁寧だが、鋭さを失っていない。
フェリシェールは小さく礼をした。
「お招きに感謝いたします、殿下」
「さて。昨日の件だが」
昨日の件。
つまり“殿下がフェリシェールに近づこうとした際、ルシアンが妻を連れ去った”件。
誇張された噂のせいで、今や王宮全体が注目している。
アレクシスは静かに言葉を続けた。
「そなたが夫人を連れて帰ったと耳にした。
王子に逆らい、夫人を守ったそうだな?」
ルシアンは一歩も退かず、まっすぐ殿下を見返した。
「夫人を守るのは、夫の務めです」
「ほう。白い結婚であってもか?」
場の空気が張り詰めた。
フェリシェールの心臓がぎゅっと縮まる。
だがルシアンは答えを躊躇わなかった。
「たとえ白い結婚であろうと、
彼女は――私の妻です」
フェリシェールは息を呑んだ。
(ルシアン……)
その言葉の重さは、彼女の胸を焼くように熱くする。
だが殿下は、笑みを隠さない。
「“夫人を守る”という言い方……
まるで、本当に妻として扱っているようではないか」
「もちろんです」
「白い結婚のはずでは?」
「白い結婚は……外との“形式”にすぎません」
「ほう?」
殿下の目が細められる。
ルシアンが口を開こうとした、そのとき。
「ルシアン……?」
フェリシェールが小さく呼んだ。
ルシアンは彼女をちらりと見て、言葉を変えた。
「……彼女を守り、支えるのは私の決意です。
殿下にお渡しするつもりなど……ありません」
アレクシスは深く息を吐き、椅子にもたれた。
「そこまで言い切るとは。
では、そなたらの“白い結婚”が実質的に破綻していると考えてよいのだな」
「破綻していません」
ルシアンの答えに、フェリシェールは眉を寄せた。
(破綻していない……?)
(じゃあ、ルシアンは……私は……)
胸がざわめく。
アレクシスは手を組み、まっすぐ二人を見据えた。
「辺境公爵。
そなたの言葉次第では――夫人を王宮に預かることになる」
「……!」
「“安全のため”となれば、国としても合理的だろう」
完全な圧力だった。
その瞬間、ルシアンの表情が明確に変わる。
「殿下。
彼女を王宮に預けることはありません。
誰であろうと……彼女を私から引き離すことは許さない」
その言い切りは鋼のように硬かった。
会議室のざわめきが広がる。
「辺境公爵閣下……そこまで言うとは……」
「これは……もはや白い結婚では……」
そしてアレクシスは静かに立ち上がり、フェリシェールに向き直った。
「夫人。
そなたは――どちらを信じる?」
フェリシェールは凍りついた。
(私が……選ぶ……?)
重鎮たちの視線が突き刺さる。
王子の瞳は優しげに、だが逃がさぬように向けられている。
ルシアンはフェリシェールだけを見ていた。
フェリシェールは、震える唇を噛んだ。
そして――
「私は……」
言葉を絞り出した。
「私は……ルシアンと一緒にいたいです」
静寂。
その言葉が部屋の空気を一変させた。
ルシアンの瞳が震える。
「フェリシェール……」
アレクシスの目が細くなる。
「……そうか」
その声には、微かに怒りが滲んでいた。
「では――このままで済むと思うなよ、公爵」
その瞬間、会議室の扉が強く閉じられた。
嵐の前触れだった。
帰り道。
フェリシェールとルシアンは無言のまま歩く。
だが屋敷に着いた途端、フェリシェールは顔を真っ赤にしながら言った。
「ルシアン……さっきの……私……」
ルシアンは歩みを止め、ゆっくりと振り返る。
「……フェリシェール。
君は……本気で、俺を選んだのか?」
その問いに――
フェリシェールの胸は大きく高鳴った。
次話、ついに“気持ちの核心”が動き出す。
-
侍女の緊迫した声に、フェリシェールとルシアンは一瞬動きを止めた。
「王宮から……至急のお使いって……?」
侍女は険しい顔のまま、言いづらそうに口を開いた。
「公爵閣下……殿下から、“会談の場を設けたい”とのご命令です。
至急、公爵閣下と夫人をお呼びしたい……と」
空気が凍りついた。
ルシアンの表情は、怒りと冷静を必死に均衡させているようだった。
「……殿下が?」
「はい。しかも……“ご夫婦そろって来るように”と……」
実質的な“呼び出し”だった。
フェリシェールの胸に不安が広がる。
(昨日のこと……ルシアンが殿下に言い返したから……
王宮が本格的に動いた……?)
そしてルシアンの手が、ほんの少し強く握られた。
「……王宮へは、俺だけが行く。フェリシェールは連れて行かない」
「え……でも……殿下が二人でと……」
「構わん。
君を連れて行って、何をされるか分からん」
その言葉は過保護にも聞こえるが、同時に切実だった。
フェリシェールの胸は、微かに熱くなる。
「私は……行ってはいけませんか?」
自分でも驚くほど弱い声だった。
ルシアンは目を逸らし、その瞳に複雑な影を落とした。
「……俺は、君を危険に晒したくない」
(危険……)
フェリシェールは心の奥が温かくなるのを感じた。
(こんなふうに言われるなんて……)
白い結婚であるはずの二人。
初めは“互いを縛らない”ための契約――
だが気づけば、ルシアンは彼女を守るようにそばにいてくれる。
フェリシェールはゆっくり首を振った。
「私、ルシアンと一緒に行きたいです」
「……!」
「迷惑ではありませんわよね……?」
ルシアンは一瞬だけ言葉を失い、次いで小さく息を吐いた。
「……迷惑など、ない」
その声は抑えたように低く、けれど優しかった。
「ただ……絶対に俺の後ろから離れるな」
「はい」
短い会話なのに、胸の奥が強く鳴った。
そして二人は急ぎ、王宮へ向かった。
◆
王宮の会議室は、既に重苦しい空気で満たされていた。
第一王子アレクシスが卓の最上座に座り、その周囲には重鎮たちが並ぶ。
フェリシェールとルシアンが入室すると──
視線が一斉に降り注いだ。
「……来たか、辺境公爵。そして……夫人」
アレクシスの声音は丁寧だが、鋭さを失っていない。
フェリシェールは小さく礼をした。
「お招きに感謝いたします、殿下」
「さて。昨日の件だが」
昨日の件。
つまり“殿下がフェリシェールに近づこうとした際、ルシアンが妻を連れ去った”件。
誇張された噂のせいで、今や王宮全体が注目している。
アレクシスは静かに言葉を続けた。
「そなたが夫人を連れて帰ったと耳にした。
王子に逆らい、夫人を守ったそうだな?」
ルシアンは一歩も退かず、まっすぐ殿下を見返した。
「夫人を守るのは、夫の務めです」
「ほう。白い結婚であってもか?」
場の空気が張り詰めた。
フェリシェールの心臓がぎゅっと縮まる。
だがルシアンは答えを躊躇わなかった。
「たとえ白い結婚であろうと、
彼女は――私の妻です」
フェリシェールは息を呑んだ。
(ルシアン……)
その言葉の重さは、彼女の胸を焼くように熱くする。
だが殿下は、笑みを隠さない。
「“夫人を守る”という言い方……
まるで、本当に妻として扱っているようではないか」
「もちろんです」
「白い結婚のはずでは?」
「白い結婚は……外との“形式”にすぎません」
「ほう?」
殿下の目が細められる。
ルシアンが口を開こうとした、そのとき。
「ルシアン……?」
フェリシェールが小さく呼んだ。
ルシアンは彼女をちらりと見て、言葉を変えた。
「……彼女を守り、支えるのは私の決意です。
殿下にお渡しするつもりなど……ありません」
アレクシスは深く息を吐き、椅子にもたれた。
「そこまで言い切るとは。
では、そなたらの“白い結婚”が実質的に破綻していると考えてよいのだな」
「破綻していません」
ルシアンの答えに、フェリシェールは眉を寄せた。
(破綻していない……?)
(じゃあ、ルシアンは……私は……)
胸がざわめく。
アレクシスは手を組み、まっすぐ二人を見据えた。
「辺境公爵。
そなたの言葉次第では――夫人を王宮に預かることになる」
「……!」
「“安全のため”となれば、国としても合理的だろう」
完全な圧力だった。
その瞬間、ルシアンの表情が明確に変わる。
「殿下。
彼女を王宮に預けることはありません。
誰であろうと……彼女を私から引き離すことは許さない」
その言い切りは鋼のように硬かった。
会議室のざわめきが広がる。
「辺境公爵閣下……そこまで言うとは……」
「これは……もはや白い結婚では……」
そしてアレクシスは静かに立ち上がり、フェリシェールに向き直った。
「夫人。
そなたは――どちらを信じる?」
フェリシェールは凍りついた。
(私が……選ぶ……?)
重鎮たちの視線が突き刺さる。
王子の瞳は優しげに、だが逃がさぬように向けられている。
ルシアンはフェリシェールだけを見ていた。
フェリシェールは、震える唇を噛んだ。
そして――
「私は……」
言葉を絞り出した。
「私は……ルシアンと一緒にいたいです」
静寂。
その言葉が部屋の空気を一変させた。
ルシアンの瞳が震える。
「フェリシェール……」
アレクシスの目が細くなる。
「……そうか」
その声には、微かに怒りが滲んでいた。
「では――このままで済むと思うなよ、公爵」
その瞬間、会議室の扉が強く閉じられた。
嵐の前触れだった。
帰り道。
フェリシェールとルシアンは無言のまま歩く。
だが屋敷に着いた途端、フェリシェールは顔を真っ赤にしながら言った。
「ルシアン……さっきの……私……」
ルシアンは歩みを止め、ゆっくりと振り返る。
「……フェリシェール。
君は……本気で、俺を選んだのか?」
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