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第11話 甘すぎる手紙の地獄
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第11話 甘すぎる手紙の地獄
辺境の小さな館に、静かな夜が再び訪れていた。
クラリッサ・フォン・ローゼンベルクは自室の机に向かい、蝋燭の灯りを頼りに座っていた。
窓の外では風が木々を揺らし、時折枝が窓ガラスを叩く音が響く。
追放されてから二週間。
市場での失敗劇や町の人々との交流は順調に進み、彼女の「失敗令嬢」としての好感度は着実に上がっていた。
しかし、今夜の彼女の心は、別のことでざわついていた。
机の上には、昨日届いたばかりの分厚い封筒が置かれていた。
王都からの手紙――ソフィアからのものだ。
クラリッサは深呼吸をし、そっと封を切った。
一枚目に目を落じた瞬間――
「ええっ!? また……!?」
顔が一気に真っ赤になる。
手紙の冒頭は、昨日届いたもの以上に甘ったるい愛の告白だった。
『最愛のお嬢様へ
お嬢様の不在が、わたくしの心をどれほど焦がしているか……
毎夜、お嬢様の夢を見ては、涙が止まりません
お嬢様の失敗さえ、愛おしくてたまらないのです
どうか、この想いを受け止めてください……永遠に』
クラリッサは両手で顔を覆い、机に突っ伏した。
「もうっ……毎回、毎回こんな……!」
彼女は半泣きになりながら、次の枚をめくる。
二枚目、三枚目……
何十枚も続くラブレター風の文章が、次々と目に飛び込んでくる。
『お嬢様の転ぶ姿を思い浮かべるだけで、心が温かくなります』
『紅茶を頭から浴びたあの瞬間、わたくしは一生の思い出にしました』
『お嬢様の寝癖さえ、神々しく見えます』
『わたくしは、お嬢様のためなら、どんな汚れ仕事も厭いません……』
「な、何よこれ……!
『寝癖が神々しい』って……!」
クラリッサは顔を真っ赤にしながら、手紙を机に叩きつけた。
しかし、すぐに慌てて拾い上げ、必死に読み進める。
「恥ずかしい……もう、読めないわ……」
彼女は両手で頰を押さえ、くぐもった声で呟いた。
しかし、諦めなかった。
手紙の山をめくり続け、ようやく――
数十枚のラブレターの後に、本題の報告書が現れた。
そこには、エドモンドの不正の詳細がびっしりと記されていた。
愛人連れ込みの日時、場所、侍従への口止め、さらにはソフィアが直接目撃した場面まで。
「これ……これが、証拠……」
クラリッサは拳を握り、目を輝かせた。
赤い頰をそのままに、報告書を慎重に読み進める。
報告書の最後には、ソフィアの筆跡で一文が添えられていた。
『お嬢様、
殿下の油断は、予想以上ですわ。
今夜も私室に愛人を招き、侍従に口止めを強要しております。
わたくしは、すべてを記録しております。
次は、物証の写真を同封します。
どうか、お体を大切に。
わたくしは、いつでもお嬢様のそばにいます』
クラリッサは手紙を胸に押し当て、深く息を吐いた。
「……ありがとう、ソフィア」
彼女は立ち上がり、窓辺に寄った。
外は月明かりに照らされた森が広がっている。
クラリッサは静かに微笑んだ。
「もう少し……もう少しで、王都に戻れるわ」
しかし、その瞬間――
「あっ!」
机の上の紅茶カップを肘で倒してしまった。
熱い紅茶が机の上に広がり、手紙に飛び散る。
「ひゃあっ! またっ!」
クラリッサは慌てて手紙を掴み、布で拭き取ろうとする。
しかし、インクが滲み始め、ラブレターの部分がぼやけていく。
「あぁ……せっかくの……」
彼女はため息をつき、濡れた手紙をそっと引き出しにしまった。
報告書の部分だけは、無事だった。
「もう……本当に、ポンコツですわね、わたくし」
クラリッサは苦笑し、眼鏡を外した。
鏡に映る自分を見つめ、静かに呟く。
「でも……これで、準備は整ったわ」
彼女は羊皮紙を取り出し、ソフィアへの返信を書き始めた。
暗号文で、証拠の追加収集を指示する。
「次は、物証の写真……
これで、エドモンドの首根っこを掴めるわ」
夜の館は静かだった。
クラリッサはベッドに横になり、目を閉じた。
しかし、頭の中では、王都への逆襲の計画が回り続けていた。
「ソフィア……あなたの手紙、甘すぎて死にそうだったわ」
彼女はくすりと笑った。
辺境の夜は深く、静かに過ぎていった。
しかし、その静けさの裏で、クラリッサの決意はますます強くなっていた。
甘すぎる手紙の地獄は、彼女に新たな力を与えた。
失敗令嬢の日常は、着実に逆転への道を切り開いていた。
――王都での復讐は、もうすぐ始まる。
辺境の小さな館に、静かな夜が再び訪れていた。
クラリッサ・フォン・ローゼンベルクは自室の机に向かい、蝋燭の灯りを頼りに座っていた。
窓の外では風が木々を揺らし、時折枝が窓ガラスを叩く音が響く。
追放されてから二週間。
市場での失敗劇や町の人々との交流は順調に進み、彼女の「失敗令嬢」としての好感度は着実に上がっていた。
しかし、今夜の彼女の心は、別のことでざわついていた。
机の上には、昨日届いたばかりの分厚い封筒が置かれていた。
王都からの手紙――ソフィアからのものだ。
クラリッサは深呼吸をし、そっと封を切った。
一枚目に目を落じた瞬間――
「ええっ!? また……!?」
顔が一気に真っ赤になる。
手紙の冒頭は、昨日届いたもの以上に甘ったるい愛の告白だった。
『最愛のお嬢様へ
お嬢様の不在が、わたくしの心をどれほど焦がしているか……
毎夜、お嬢様の夢を見ては、涙が止まりません
お嬢様の失敗さえ、愛おしくてたまらないのです
どうか、この想いを受け止めてください……永遠に』
クラリッサは両手で顔を覆い、机に突っ伏した。
「もうっ……毎回、毎回こんな……!」
彼女は半泣きになりながら、次の枚をめくる。
二枚目、三枚目……
何十枚も続くラブレター風の文章が、次々と目に飛び込んでくる。
『お嬢様の転ぶ姿を思い浮かべるだけで、心が温かくなります』
『紅茶を頭から浴びたあの瞬間、わたくしは一生の思い出にしました』
『お嬢様の寝癖さえ、神々しく見えます』
『わたくしは、お嬢様のためなら、どんな汚れ仕事も厭いません……』
「な、何よこれ……!
『寝癖が神々しい』って……!」
クラリッサは顔を真っ赤にしながら、手紙を机に叩きつけた。
しかし、すぐに慌てて拾い上げ、必死に読み進める。
「恥ずかしい……もう、読めないわ……」
彼女は両手で頰を押さえ、くぐもった声で呟いた。
しかし、諦めなかった。
手紙の山をめくり続け、ようやく――
数十枚のラブレターの後に、本題の報告書が現れた。
そこには、エドモンドの不正の詳細がびっしりと記されていた。
愛人連れ込みの日時、場所、侍従への口止め、さらにはソフィアが直接目撃した場面まで。
「これ……これが、証拠……」
クラリッサは拳を握り、目を輝かせた。
赤い頰をそのままに、報告書を慎重に読み進める。
報告書の最後には、ソフィアの筆跡で一文が添えられていた。
『お嬢様、
殿下の油断は、予想以上ですわ。
今夜も私室に愛人を招き、侍従に口止めを強要しております。
わたくしは、すべてを記録しております。
次は、物証の写真を同封します。
どうか、お体を大切に。
わたくしは、いつでもお嬢様のそばにいます』
クラリッサは手紙を胸に押し当て、深く息を吐いた。
「……ありがとう、ソフィア」
彼女は立ち上がり、窓辺に寄った。
外は月明かりに照らされた森が広がっている。
クラリッサは静かに微笑んだ。
「もう少し……もう少しで、王都に戻れるわ」
しかし、その瞬間――
「あっ!」
机の上の紅茶カップを肘で倒してしまった。
熱い紅茶が机の上に広がり、手紙に飛び散る。
「ひゃあっ! またっ!」
クラリッサは慌てて手紙を掴み、布で拭き取ろうとする。
しかし、インクが滲み始め、ラブレターの部分がぼやけていく。
「あぁ……せっかくの……」
彼女はため息をつき、濡れた手紙をそっと引き出しにしまった。
報告書の部分だけは、無事だった。
「もう……本当に、ポンコツですわね、わたくし」
クラリッサは苦笑し、眼鏡を外した。
鏡に映る自分を見つめ、静かに呟く。
「でも……これで、準備は整ったわ」
彼女は羊皮紙を取り出し、ソフィアへの返信を書き始めた。
暗号文で、証拠の追加収集を指示する。
「次は、物証の写真……
これで、エドモンドの首根っこを掴めるわ」
夜の館は静かだった。
クラリッサはベッドに横になり、目を閉じた。
しかし、頭の中では、王都への逆襲の計画が回り続けていた。
「ソフィア……あなたの手紙、甘すぎて死にそうだったわ」
彼女はくすりと笑った。
辺境の夜は深く、静かに過ぎていった。
しかし、その静けさの裏で、クラリッサの決意はますます強くなっていた。
甘すぎる手紙の地獄は、彼女に新たな力を与えた。
失敗令嬢の日常は、着実に逆転への道を切り開いていた。
――王都での復讐は、もうすぐ始まる。
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