【悪役令嬢】転ぶ令嬢と暗躍メイドの完璧なる逆襲劇

しおしお

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第16話 田舎生活、板についてきた

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第16話 田舎生活、板についてきた

 辺境の小さな町での暮らしは、クラリッサ・フォン・ローゼンベルクにとって、予想以上に心地よいものになっていた。  
 追放されてから三週間。  
 最初は「悪女」の噂が尾を引いていたが、市場での失敗劇や毎日の小さなドジが、住民たちに「憎めない失敗令嬢」という新たなイメージを植え付けていた。

 朝、クラリッサは館の庭で水やりをしていた。  
 古い水撒き缶を手に、丁寧に花壇の花に水をかける。  
 ――しかし、缶の底が抜け、水が一気に噴き出した。

「きゃっ!」

 クラリッサは慌てて缶を倒し、水がドレスをびしょ濡れにする。  
 彼女は頰を赤らめ、照れ笑いを浮かべた。

「てへへ……また失敗ですわ」

 庭師のおじさんが駆け寄り、笑いながらタオルを差し出す。

「嬢ちゃん、今日も元気だな!」

 クラリッサは深く頭を下げた。

「ありがとうございます……いつも、ご迷惑をおかけして」

 おじさんは肩を叩き、優しく言う。

「迷惑なんかじゃねぇよ。  
 嬢ちゃんが来てから、町が明るくなったんだ」

 その言葉に、クラリッサは小さく微笑んだ。  
 王都では、誰もが彼女を嘲笑っていた。  
 しかし、ここでは失敗さえ笑い話になり、住民たちは彼女を温かく受け入れていた。

 午後、クラリッサは市場へ出かけた。  
 今日は、館の使用人たちに菓子を買うためだ。  
 菓子屋の前で、ショーケースに並ぶ焼き菓子を眺める。

「うーん……どれもおいしそうで迷いますわね……」

 彼女は結局、一番地味なクッキーを選んだ。  
 店主が笑顔で包んでくれる。

「嬢ちゃん、今日も転ばないようにね」

「はい、気をつけますわ」

 クラリッサは袋を抱え、店を出た。  
 ――しかし、店を出た直後、紙袋の底が破れ、クッキーが地面に散らばった。

「あっ……えっ……ああぁ……」

 通りすがりの人々が振り返る中、クラリッサはうろたえるだけで動けない。  
 拾おうにも、手が震えてしまう。

 店主が駆けつけ、クッキーを拾い集めてくれた。

「またか、嬢ちゃん。  
 新しいのを包んでやるよ」

 クラリッサは深く頭を下げ、頰を赤らめた。

「本当に……申し訳ありませんわ」

 市場の人々は、笑いながら彼女を囲んだ。

「失敗令嬢、今日も元気だな!」

「転ばなかっただけ、進歩だぜ」

 クラリッサは照れ笑いを浮かべ、皆に頭を下げた。  
 彼女の失敗は、町の日常風景になっていた。

 夕方、館に戻ったクラリッサは、使用人たちに菓子を配った。

「みんな、今日もありがとう」

 執事は優しく微笑んだ。

「お嬢様……町の人々も、嬢様を慕っておりますよ」

 クラリッサは頷き、自室に戻った。  
 机に向かい、羊皮紙に今日の出来事をメモする。

「好感度……ほぼ最大ね。  
 町全体が味方になったわ」

 彼女はソフィアからの手紙(またしても甘すぎるラブレターの山の後ろに隠された報告書)を読み返した。

「レオンハルト殿下との接触も成功……  
 エドモンドの孤立は、着実に進んでいる」

 クラリッサは眼鏡を外し、鏡に映る自分を見つめた。

「もう少し……舞踏会の招待状が届くまで」

 彼女は新たな計画を書き始めた。  
 王都への帰還と、逆襲の最終段階だ。

 夜、クラリッサはベッドに横になり、目を閉じた。  
 しかし、頭の中では計画が回り続けていた。

「町の人々……ありがとう。  
 あなたたちの温かさが、わたくしを強くしてくれたわ」

 辺境の夜は深く、静かに過ぎていった。  
 しかし、その静けさの裏で、クラリッサの決意はますます強くなっていた。

 田舎生活は、彼女に新たな力を与えた。  
 失敗令嬢の日常は、着実に王都への道を切り開いていた。

 ――復讐の日は、もうすぐだ。

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