【悪役令嬢】転ぶ令嬢と暗躍メイドの完璧なる逆襲劇

しおしお

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第15話 王宮の闇、深まる

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第15話 王宮の闇、深まる

 王都の夜は、いつもより重く感じられた。  
 王宮の廊下は静まり返り、燭台の炎がゆらゆらと影を伸ばす。  
 エドモントの私室では、豪奢な調度が並ぶ中、ワインの香りが漂っていた。

 エドモントはワイングラスを揺らし、ソフィアを見据えた。  
 彼女はメイド服のまま、控えめに立っている。

「……あんなポンコツ、意に介するところではないが、  
 公爵家の影響力は無視できん」

 エドモンドは吐き捨てるように言った。  
 ソフィアはにこやかに応じる。

「それに比べてわたくしの実家など、殿下の鼻息ひとつで吹き飛んでしまいますものね」

 彼女はあえて自分を卑下し、頭を垂れた。

「まあ、そんなところだ」

 エドモンドの口調は嘲笑を含んでいた。

 ソフィアは涼しい顔で、さらに言葉を重ねる。

「殿下……お嬢様が婚約者だったころも、  
 愛人宅へ通い放題だったと伺っておりますが?」

「余計なことは言うな」

 エドモンドの顔に一瞬、焦りが走る。

 ソフィアはすぐに膝を折り、頭を垂れた。

「もちろん申しません。  
 お金さえいただければ、口出しなど致しませんわ」

 その姿に満足したのか、エドモンドはワインをあおった。

「それでいい。私は私の部屋に女を招く。  
 お前は何も見ていないし、知らない――それで済む話だ」

「御意のままに」

 ソフィアは静かに微笑んだ。  
 その表情には従順さと同時に、冷ややかな光が宿る。

 エドモンドが退室した後、残されたソフィアはカーテンの影でひとりごちる。

「欲に溺れる男ほど、操りやすい者はいない……」

 彼女の声は、闇に溶けて消えた。

 その夜、エドモンドの私室に愛人が訪れた。  
 ソフィアは扉の外で待機し、すべてを記録した。  
 愛人の顔、時間、会話の内容――すべてを羊皮紙に細かく書き留める。

「これで、また一つ証拠が増えたわ」

 彼女は羊皮紙を懐にしまい、静かに部屋を後にした。

 翌朝、ソフィアは再びレオンハルトに連絡を取った。  
 王宮の隠し通路で、短い密会。

「殿下、追加の証拠ですわ。  
 昨夜の愛人連れ込みの記録」

 レオンハルトは羊皮紙を受け取り、目を細めた。

「……兄上は、本当に救いようがないな」

 彼はソフィアを見据えた。

「君は本当に、クラリッサのためだけに動いているのか?」

 ソフィアは静かに微笑んだ。

「はい。  
 お嬢様のためですわ」

 レオンハルトはため息をついた。

「わかった。  
 これを活かして、兄上を追い詰める」

 ソフィアは深く頭を下げ、去っていった。

 一方、辺境の館では、クラリッサが机に向かっていた。  
 ソフィアからの手紙(またしても甘すぎるラブレターの山の後ろに隠された報告書)を読み終え、彼女は拳を握った。

「エドモンドの私室……愛人連れ込みの証拠、増えたわね」

 クラリッサは羊皮紙にメモを書き加えた。

「レオンハルト殿下も、順調に動いているようね。  
 これで、王宮内の味方は確実」

 彼女は眼鏡を外し、鏡に映る自分を見つめた。

「もう少し……舞踏会の準備が整うわ」

 クラリッサは新たな計画を書き始めた。  
 王宮への帰還と、逆襲の最終段階だ。

 王宮の闇は、深く、静かに広がっていた。  
 しかし、その闇の奥で、クラリッサとソフィアの光は着実に強くなっていた。

 エドモンドは自分の欲に溺れ、すべてを見失っていた。  
 彼は知らなかった。  
 忠実なメイドが、実は最大の敵であることを。

 王宮の夜は深く、静かに過ぎていった。  
 しかし、その静けさの裏で、逆襲の糸は着々と張り巡らされていた。

 失敗令嬢の物語は、ゆっくりと、しかし確実に、王都への帰還へと近づいていた。

 ――舞踏会の日は、もうすぐだ。

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