【悪役令嬢】転ぶ令嬢と暗躍メイドの完璧なる逆襲劇

しおしお

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第21話 舞踏会開幕

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第21話 舞踏会開幕

 王宮の大広間は、今宵もきらびやかな光に包まれていた。  
 幾重にも垂れ下がるシャンデリアの光が、磨き抜かれた大理石の床に反射し、無数のドレスの裾をきらめかせる。  
 音楽隊の奏でる優雅な調べに合わせ、社交界の面々が談笑しながら舞踏会の幕開けを楽しんでいた。

 しかし、その華やぎの奥に渦巻くのは、ただひとつの噂――。  
 「公爵令嬢クラリッサ追放」と「第一王子の新たな婚約者、ソフィア」の話題だ。  
 口元に扇子を寄せながら囁き合う令嬢たちの目は、扉の向こうから現れる主役を待ち構えていた。

 やがて、第一王子エドモントが堂々と入場した。  
 金髪を優雅に流し、深紅のマントを羽織った彼の隣には、艶やかなドレスに身を包んだソフィアがいた。  
 かつては公爵令嬢の影に隠れて仕えていた“ただのメイド”――そう思っていた者たちが息を呑む。

「まさか……子爵令嬢の出でありながら、殿下の婚約者に?」

「下位貴族とはいえ、やはり格が違う」

 誰も正面からは言えない。  
 だが視線には、羨望と侮蔑と困惑が入り混じっていた。

 ソフィアは堂々とその視線を受け止め、むしろ微笑み返す。  
 「ご覧なさい、これが私の居場所です」とでも言うように。

 ざわめきがまだ消えぬうち、再び扉が開いた。

 ――そこに立っていたのは、一人の女性。

 金色の髪がシャンデリアの光を受けてきらめき、まっすぐに伸びた背筋、気品あふれる所作。  
 顔を隠す分厚い眼鏡もなく、乱れた寝癖もなく、だらしない着崩しも一切ない。  
 誰もが記憶する「ポンコツ令嬢」の姿とは、まるで別人のようだった。

 広間がどよめきに包まれる。

「……あれは、誰だ?」

「まさか……いや、あれは――公爵令嬢クラリッサ……?」

 視線が一斉に彼女に釘付けになる。  
 クラリッサはゆっくりと歩みを進め、堂々とした足取りで中央へ向かった。  
 彼女のドレスは金糸の刺繍が施され、宝石が散りばめられ、優雅に揺れる。

 エドモンドは動揺を隠せず、表情を曇らせる。

「クラリッサ……!?  
 お前は追放されたはずだ!」

 ソフィアは一瞬だけ、唇の端がぴくりと揺れた。  
 しかしすぐに笑みを取り戻し、王子の腕に寄り添う。  
 ――その仕草の裏に潜む思惑を、誰も読み取ることはできない。

 クラリッサは舞踏会の中央で足を止め、ゆっくりと振り返る。  
 すべての視線が自分に注がれていることを知りながら、静かに微笑んだ。

「――お久しゅうございますわ、殿下」

 凛としたその声が響いた瞬間、大広間の空気はぴたりと凍りついた。

 廷臣たちは息を呑み、扇子を握りしめる。  
 誰もが信じられない思いで、かつてのポンコツ令嬢を見つめる。

「まさか……本当にクラリッサ様……?」

「眼鏡も寝癖もない……美しすぎるわ」

「追放されたはずなのに、どうしてここに……」

 エドモンドは顔を青ざめさせ、声を震わせた。

「貴様……どうやってここに!  
 追放を無視して王宮に現れるとは、反逆罪だ!」

 クラリッサは扇を広げ、優雅に口元を隠した。

「反逆罪?  
 わたくしは、正式な招待状で参りましたわ。  
 公爵令嬢として、当然の権利です」

 彼女はゆっくりとエドモンドに近づき、冷たく微笑んだ。

「それに……殿下こそ、わたくしを追放したことを忘れたのですか?  
 それとも、すべてをなかったことにしたいのですか?」

 エドモンドは後ずさりし、ソフィアに視線を向けた。

「ソフィア!  
 こいつを追い出せ!」

 ソフィアは静かに微笑み、ゆっくりと一歩前に出た。

「殿下……お嬢様は、招待された客人ですわ。  
 追い出すなど、できません」

 その言葉に、エドモンドの顔がさらに青ざめた。

「何を……!」

 クラリッサは扇を閉じ、静かに告げた。

「さあ、殿下。  
 本当の話、始めましょうか」

 舞踏会の幕が、静かに上がった。  
 逆襲の始まりは、ここからだった。

 廷臣たちのざわめきが広がる中、クラリッサの瞳は冷たく輝いていた。  
 彼女はすべてを計算し尽くしていた。

 ――エドモンドの人生を、終わらせる夜が始まった。

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