【悪役令嬢】転ぶ令嬢と暗躍メイドの完璧なる逆襲劇

しおしお

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第22話 お久しゅうございますわ、殿下

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第22話 お久しゅうございますわ、殿下

 王宮の大広間は、凍りついたような静寂に包まれていた。  
 クラリッサ・フォン・ローゼンベルクの登場は、まるで嵐の前の静けさのように、すべてを一瞬で奪っていた。  
 金色の髪がシャンデリアの光を浴びて輝き、宝石が散りばめられたドレスが優雅に揺れる。  
 誰もが息を呑み、彼女の美貌に魅入られる。  
 かつての「ポンコツ令嬢」の面影は、どこにもなかった。

 エドモンドは顔を青ざめさせ、ソフィアの腕を強く掴んだ。

「クラリッサ……貴様、どうやってここに!  
 追放されたはずだ!」

 クラリッサはゆっくりと扇を広げ、口元を優雅に隠した。  
 彼女の声は、凛として大広間に響く。

「お久しゅうございますわ、殿下。  
 わたくしは、正式な招待状でお招きいただきました。  
 公爵令嬢として、当然の権利ですわ」

 廷臣たちのざわめきが広がる。

「招待状……?」

「追放されたのに、そんなものが……」

 エドモンドは声を震わせ、指を突きつけた。

「ふざけるな!  
 お前は悪女として追放された!  
 今すぐ出て行け!」

 クラリッサは扇をゆっくり閉じ、静かに首を傾げた。

「悪女……ですか?  
 殿下は、わたくしを悪女として断罪したことを、よく覚えていらっしゃいますわね」

 彼女は一歩前に進み、エドモンドを真っ直ぐに見据えた。

「でも……殿下こそ、わたくしを追放したことを忘れたのですか?  
 それとも、すべてをなかったことにしたいのですか?」

 エドモンドの顔がさらに青ざめる。  
 ソフィアは静かに王子から離れ、控えめに立った。  
 彼女の表情は、忠実な婚約者のものではなく、冷徹な観察者のそれだった。

 クラリッサはゆっくりと視線を広間全体に巡らせた。

「皆様、わたくしは追放されたはずの身ですわ。  
 それなのに、ここにいるのは……なぜだと思いますか?」

 廷臣たちは息を呑み、互いに顔を見合わせる。  
 誰もが、答えを知りたがっていた。

 クラリッサは静かに微笑んだ。

「それは、わたくしが……追放など、最初から受け入れていなかったからですわ」

 その言葉に、大広間がどよめいた。

「受け入れていなかった……?」

「何を言っている……」

 エドモンドは声を荒げた。

「ふざけるな!  
 お前は婚約破棄され、悪女として追放された!  
 証人もいた! ソフィアが証言した!」

 クラリッサはゆっくりとソフィアに視線を移した。

「ソフィア……あなたが、わたくしの悪行を証言したのですわね」

 ソフィアは深く頭を下げ、静かに答えた。

「はい、お嬢様。  
 わたくしは、すべてをありのままに申し上げました」

 エドモンドは満足げに頷く。

「そうだ!  
 ソフィアの証言で、お前の悪女ぶりは証明された!」

 クラリッサは扇を閉じ、冷たく微笑んだ。

「そう……ですか。  
 では、殿下。  
 わたくしが悪女として追放されたのは、殿下の命令によるものですわね」

 エドモンドは胸を張った。

「当然だ!  
 お前のような悪女は、王族の婚約者にふさわしくない!」

 クラリッサはゆっくりと一歩進み、エドモンドの目の前に立った。

「では、殿下。  
 わたくしが悪女として追放されたことを、皆様に改めて確認していただきましょうか」

 彼女は広間全体に向き直り、声を張った。

「皆様、わたくしは追放されたはずですわ。  
 それなのに、ここにいるのは……なぜだと思いますか?」

 廷臣たちはざわめく。

「招待状……?」

「いや、追放されたのに……」

 クラリッサは静かに告げた。

「それは、わたくしが……追放など、最初から受け入れていなかったからですわ」

 再びどよめきが広がる。

 クラリッサは扇を広げ、優雅に口元を隠した。

「殿下は、わたくしを悪女として断罪し、追放しました。  
 しかし……それは、すべてわたくしの計画通りでしたのよ」

 エドモンドの顔が蒼白になる。

「何を……!」

 クラリッサは冷たく微笑んだ。

「さあ、殿下。  
 本当の話、始めましょうか」

 舞踏会の空気が、一気に張り詰めた。  
 逆襲の幕が、静かに上がった。

 廷臣たちの視線が、クラリッサとエドモンドに集中する。  
 誰もが、息を呑んで次の言葉を待っていた。

 クラリッサはゆっくりとエドモンドに近づき、囁くように言った。

「お久しゅうございますわ、殿下。  
 わたくしを捨てたことを……後悔なさいますか?」

 エドモンドは後ずさりし、ソフィアに視線を向けた。

「ソフィア!  
 こいつを……!」

 ソフィアは静かに微笑み、ゆっくりと一歩前に出た。

「殿下……お嬢様は、招待された客人ですわ。  
 追い出すなど、できません」

 その言葉に、エドモンドの顔がさらに青ざめた。

「何を……!」

 クラリッサは扇を閉じ、静かに宣言した。

「殿下。  
 婚約破棄されたのは、私ではなく、あなたの方ですわ」

 大広間が、凍りついた。
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