【悪役令嬢】転ぶ令嬢と暗躍メイドの完璧なる逆襲劇

しおしお

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第23話　婚約破棄は、逆でしたわ

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第23話　婚約破棄は、逆でしたわ

　大広間の空気が、針の落ちる音も聞こえそうなほどに張り詰めていた。
　クラリッサ・フォン・ローゼンベルクの言葉が、雷のように響き渡った瞬間、誰もが息を呑んだ。
　「婚約破棄されたのは、私ではなく、あなたの方ですわ」
　その一言で、エドモンドの顔が蒼白に変わり、廷臣たちの視線が一斉に王子へ集中した。

　エドモンドは震える声で叫んだ。

「何を……ふざけるな！
　貴様こそ、悪女として婚約破棄したのは私だ！
　証人もいた！　ソフィアが証言した！」

　クラリッサはゆっくりと扇を広げ、口元を優雅に隠した。
　彼女の声は、静かだが、冷たく響く。

「そう……殿下は、わたくしを悪女として断罪し、追放したのですわね。
　しかし……それは、すべてわたくしの計画通りでしたのよ」

　廷臣たちがどよめく。

「計画通り……？」

「何を言っている……」

　クラリッサは一歩前に進み、エドモンドを真っ直ぐに見据えた。

「殿下は、わたくしを婚約者として見限ったのではなく、
　わたくしが殿下を見限ったのですわ。
　だからこそ、殿下の方から婚約破棄を言い渡す形にしたのです」

　エドモンドは後ずさりし、声を荒げた。

「嘘だ！
　貴様は悪女だ！
　ソフィアが証言したではないか！」

　クラリッサは静かにソフィアに視線を移した。

「ソフィア……あなたが、わたくしの悪行を証言したのですわね」

　ソフィアは深く頭を下げ、静かに答えた。

「はい、お嬢様。
　わたくしは、すべてをありのままに申し上げました」

　しかし、彼女の声は冷たく、どこか嘲るような響きを帯びていた。
　エドモンドはソフィアにすがるように言った。

「ソフィア！
　お前は私の婚約者だ！
　こいつを追い出せ！」

　ソフィアはゆっくりと頭を上げ、冷徹な笑みを浮かべた。

「殿下……お嬢様は、最初から殿下を婚約者として見限っておられました。
　ただ、王子というご立場を慮り、『殿下の方から婚約破棄した』ことにして差し上げただけ。
　実際には――捨てられたのは殿下の方なのですわ」

　その言葉に、大広間が大きくざわめいた。
　エドモンドの顔はみるみる蒼白になり、言葉を失う。

「な……っ！」

　廷臣たちの視線が、エドモンドに突き刺さる。
　誰もが、信じられない思いで王子を見つめた。

　ソフィアはなおも言葉を重ねた。

「それに証拠なら、いくらでもございます。
　殿下が王宮に愛人を日替わりで連れ込み、侍従や侍女たちに口止めをしていた事実。
　さらに――クラリッサ様を『悪女として告発すれば次の婚約者にしてやる』とわたくしに持ちかけられたこと。
　しかも『愛人を連れ込んでも見逃せ』と条件まで添えて……」

　エドモンドは喚いた。

「ソ、ソフィア！　きさま、裏切ったな！」

　ソフィアは凛として胸を張り、はっきりと答える。

「裏切り？　何をおっしゃいます。
　私はクラリッサ様の忠実なるメイド。
　すべての行動は――お嬢様のためでございます」

　その言葉に合わせるように、クラリッサが静かに扇を閉じ、冷ややかに口を開いた。

「殿下。
　あなたは私の手のひらの上で、間抜けなダンスを踊っていただけなのですわ」

　嘲笑混じりのその言葉に、場内はついに爆発したようにざわめき立つ。
　愚王子の醜態と、公爵令嬢の圧倒的な美と威厳――誰の目にも勝敗は明らかであった。

　エドモンドは膝から崩れ落ち、震える声で呟いた。

「嘘だ……そんな……」

　クラリッサはゆっくりとエドモンドに近づき、静かに告げた。

「殿下は、わたくしを悪女として断罪し、追放しました。
　しかし……それは、わたくしが望んだことですわ。
　あなたを孤立させ、証拠を集め、こうして公衆の面前で真実を明かすために」

　彼女は広間全体を見渡し、声を張った。

「皆様、わたくしは悪女などではありません。
　殿下こそが、王族としてふさわしくない人物なのですわ。
　愛人を王宮に連れ込み、侍従を脅し、金貨を私的に流用し……
　そのすべてを、証拠が証明しています」

　廷臣たちは息を呑み、互いに顔を見合わせる。
　誰もが、エドモンドの不正を知っていた。
　しかし、誰も口に出せなかった。
　今、クラリッサがすべてを暴いたのだ。

　レオンハルトがゆっくりと前に進み出た。
　彼は懐から羊皮紙の束を取り出し、静かに宣言した。

「兄上……これらの証拠は、すべて本物だ。
　私は、次期国王として、この醜態を許すわけにはいかない」

　エドモンドは床に崩れ落ち、絶望の表情を浮かべた。

「レオンハルト……お前まで……」

　クラリッサは冷たく微笑んだ。

「殿下。
　あなたの人生は、ここで終わりますわ」

　衛兵がゆっくりと近づき、エドモンドを囲んだ。
　大広間は、静寂に包まれていた。

　逆襲の幕は、完全に上がった。
　クラリッサの瞳は、勝利の光で輝いていた。

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