【悪役令嬢】転ぶ令嬢と暗躍メイドの完璧なる逆襲劇

しおしお

文字の大きさ

大中小

25 / 30

第25話　衛兵、連行せよ！

しおりを挟む

第25話　衛兵、連行せよ！

　大広間の空気が、完全に逆転した。
　エドモンドの顔は蒼白を通り越し、土気色に変わっていた。
　彼は床に膝をつき、震える手で顔を覆い、必死に否定しようとする。

「違う……違うんだ……
　わたくしは……そんな……」

　しかし、その言葉は誰にも届かない。
　廷臣たちの視線は冷たく、嘲笑さえ混じっていた。
　クラリッサ・フォン・ローゼンベルクは静かに扇を閉じ、冷ややかに告げた。

「殿下。
　あなたの醜態は、ここで終わりますわ」

　彼女はゆっくりと広間を見渡し、衛兵たちに視線を向けた。

「衛兵。
　殿下を連行せよ」

　その言葉に、レオンハルトが頷いた。

「衛兵、命令だ。
　兄上を拘束し、地下牢へ移せ」

　衛兵たちがゆっくりと前へ進み、エドモンドの両腕を掴んだ。
　エドモンドは必死に抵抗する。

「離せ！
　わたくしは王太子だぞ！
　こんな……こんなことで……！」

　しかし、力はなく、衛兵に引きずられる。
　彼の叫び声が、大広間に虚しく響く。

「離せぇ……！
　お前ら……わたくしを裏切るのか！」

　廷臣たちは静かに見守り、誰も手を差し伸べない。
　一部の者は、扇子で口元を隠し、くすくすと笑いを堪えていた。

「王太子殿下……まさかこんな醜態を……」

「愛人連れ込みの写真まで……」

「やはり、クラリッサ様の言う通りだったわ」

　クラリッサは優雅に扇を広げ、口元を隠した。

「殿下。
　あなたは、わたくしを悪女として断罪し、追放しました。
　しかし、今度は殿下が、反逆罪に等しい不正を犯したのですわ。
　愛人を王宮に連れ込み、侍従を脅し、金貨を私的に流用……
　すべてが、証拠として揃っています」

　ソフィアが静かに前に進み、冷徹な声で宣言した。

「殿下の不正は、わたくしがすべて記録しました。
　これで、殿下の王位継承権は剥奪されますわ」

　エドモンドは衛兵に引きずられながら、絶望の表情を浮かべた。

「ソフィア……お前まで……
　わたくしを……！」

　ソフィアは冷たく微笑んだ。

「わたくしは、最初からお嬢様のメイドです。
　殿下の婚約者など、最初から偽りでしたわ」

　エドモンドの目が見開かれる。

「偽り……？」

　クラリッサは静かに頷いた。

「ええ。
　すべて、わたくしの計画通りですわ。
　殿下は、わたくしを捨てたつもりでいたけれど……
　捨てられたのは、殿下の方でしたのよ」

　衛兵がエドモンドを完全に拘束し、広間から連行していく。
　彼の叫び声が、遠くに消えていく。

「離せ……離せぇ……！」

　大広間は、静寂から歓声へと変わった。
　廷臣たちが拍手を送り、クラリッサを称える。

「公爵令嬢……素晴らしい」

「やはり、クラリッサ様こそ、真の貴族ですわ」

　レオンハルトがゆっくりとクラリッサに近づき、軽く頭を下げた。

「クラリッサ嬢……ありがとう。
　君の勇気が、この国を救った」

　クラリッサは優雅に微笑み、扇を広げた。

「いえ……わたくしは、ただ真実を明かしただけですわ」

　ソフィアはクラリッサの隣に立ち、静かに微笑んだ。
　二人は目で合図を交わし、互いに頷き合った。

　エドモンドの連行は、王宮中に瞬く間に広がった。
　衛兵たちは彼を地下牢へ移し、鍵をかけた。
　王太子の座は、剥奪される運命だった。

　クラリッサは広間を見渡し、静かに宣言した。

「これで、王宮の闇は晴れましたわ。
　これからは、レオンハルト殿下がこの国を導く……
　それが、正しい道です」

　廷臣たちは拍手を送り、歓声が沸き起こった。

　逆襲は、完璧に成功した。
　エドモンドの醜態は、王宮の歴史に刻まれることになる。

　舞踏会の夜は、まだ終わっていなかった。
　クラリッサの瞳は、勝利の光で輝いていた。

　しかし――
　彼女はソフィアに視線を移し、静かに微笑んだ。

「ソフィア……お疲れ様」

　ソフィアは優しく微笑み返した。

「お嬢様……これで、すべて終わりましたわ」

　二人は手を握り合い、静かに互いの温もりを感じた。

　失敗令嬢の物語は、クライマックスを迎えていた。
　――そして、新たな時代が始まろうとしていた。

しおりを挟む