【悪役令嬢】転ぶ令嬢と暗躍メイドの完璧なる逆襲劇

しおしお

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第29話 これからも、ずっと一緒に

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第29話 これからも、ずっと一緒に

 公爵邸の自室は、穏やかな朝陽に照らされていた。  
 クラリッサ・フォン・ローゼンベルクは窓辺の椅子に座り、紅茶を片手に外を眺めていた。  
 舞踏会の夜から数日が経ち、王都は新たな時代を迎えていた。  
 エドモンドの失脚、レオンハルトの次期国王就任、そしてクラリッサの名誉回復――すべてが、計画通り進んだ。  
 しかし、彼女の心は、静かな喜びと、ほんの少しの複雑な感情で満ちていた。

 扉がノックされ、ソフィアが入ってきた。  
 彼女はいつものメイド服ではなく、控えめなワンピースを着ていた。  
 トレイには新鮮な紅茶と、クラリッサの好きな焼き菓子が乗っている。

「お嬢様、おはようございます。  
 朝のお茶をお持ちしました」

 クラリッサは振り返り、優しく微笑んだ。

「おはよう、ソフィア。  
 ありがとう。  
 あなたも、今日はお休みでいいのよ」

 ソフィアはトレイをテーブルに置き、クラリッサの隣に座った。

「いえ……お嬢様のそばにいるのが、わたくしの仕事ですわ」

 二人は紅茶を注ぎ合い、静かにカップを傾けた。  
 窓の外では、庭園の花々が朝露に輝き、鳥のさえずりが聞こえる。  
 穏やかな朝だった。

 クラリッサはカップを置き、ソフィアの手をそっと握った。

「ソフィア……舞踏会の夜、あなたが少し寂しそうだったの、気づいていたわ」

 ソフィアは一瞬、目を伏せた。

「……お嬢様に、ご心配をおかけして、申し訳ありません」

 クラリッサは優しく首を振った。

「謝らないで。  
 あなたが寂しい気持ちになるのも、当然よ。  
 わたくしは……これからレオンハルト殿下との関係が進むかもしれない。  
 王妃になる可能性だって、ないわけじゃないわ」

 ソフィアは静かに頷いた。

「はい……わたくしも、そう思います。  
 殿下は、お嬢様に相応しい方ですわ」

 クラリッサはソフィアの手を強く握った。

「でも……あなたがいない未来なんて、考えられないわ。  
 メイドだろうと、友達だろうと……  
 わたくしにとって、あなたはかけがえのない人よ」

 ソフィアの瞳に、涙が浮かんだ。

「お嬢様……」

 クラリッサはソフィアを抱きしめた。

「これからも、ずっと一緒にいましょう。  
 王妃になっても、わたくしはあなたを離さないわ。  
 あなたは、わたくしの家族……わたくしの大切な人よ」

 ソフィアはクラリッサの背中に手を回し、静かに涙を流した。

「ありがとうございます……お嬢様。  
 わたくしも……ずっと、そばにいます」

 二人はしばらく抱き合い、互いの温もりを感じた。  
 紅茶の香りが、二人の絆を優しく包み込む。

 やがて、クラリッサはソフィアを離し、優しく頰を拭った。

「泣かないで。  
 わたくしは、泣き虫のあなたを見ると、胸が痛くなるわ」

 ソフィアはくすりと笑い、涙を拭った。

「お嬢様こそ……いつも、わたくしを甘やかしてくださいますわね」

 クラリッサはいたずらっぽく笑った。

「当然よ。  
 あなたは、わたくしの最高のメイド……最高の友達……最高のパートナーだもの」

 ソフィアは頰を赤らめ、静かに微笑んだ。

「お嬢様……わたくしも、お嬢様が大好きです」

 二人は顔を見合わせ、再び笑った。  
 それは、長い間抑えていた感情が解けた、純粋な笑いだった。

 クラリッサは窓の外を見た。  
 庭園では、花々が優しく揺れている。

「これからは、穏やかな日々が続くわね。  
 レオンハルト殿下からの手紙も、毎日届くようになるかもしれないけど……」

 ソフィアはくすりと笑った。

「お似合いですわ、お嬢様」

 クラリッサは頰を赤らめ、ソフィアを軽く叩いた。

「もう……からかわないで」

 二人は紅茶を飲みながら、未来の話を続けた。  
 王都での生活、庭園の散策、二人だけの時間……  
 すべてが、穏やかで幸せなものだった。

 クラリッサはソフィアの手を握り、静かに言った。

「ソフィア……これからも、ずっと一緒にいてね」

 ソフィアは優しく頷いた。

「はい、お嬢様。  
 ずっと、そばにいます」

 朝陽が二人の顔を照らし、紅茶の香りが優しく広がった。  
 失敗令嬢と忠実なメイドの物語は、静かに、しかし確実に、新たな章を迎えていた。

 これからも、二人は一緒に歩む。  
 どんな未来が待っていても、互いの手を離さずに。

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