【悪役令嬢】転ぶ令嬢と暗躍メイドの完璧なる逆襲劇

しおしお

文字の大きさ
30 / 30

第30話 未来のゆくえは紅茶の香りとともに(完)

しおりを挟む
第30話 未来のゆくえは紅茶の香りとともに(完)

 公爵邸の庭園は、春の柔らかな陽光に満ちていた。  
 花々が咲き乱れ、蝶が優雅に舞い、遠くで鳥のさえずりが聞こえる。  
 クラリッサ・フォン・ローゼンベルクは、庭の小さなテーブルに座り、紅茶を片手に穏やかな時間を過ごしていた。  
 追放から逆襲、そして勝利へ――すべてが終わった今、彼女の心は静かに満たされていた。

 ソフィアがトレイを持って近づいてきた。  
 彼女はいつものメイド服ではなく、軽やかなワンピースを着ており、手には新鮮な紅茶と焼き菓子が乗っている。

「お嬢様、春の紅茶をお持ちしました。  
 今日は特別に、蜂蜜を多めに入れております」

 クラリッサは微笑み、ソフィアを隣に座らせた。

「ありがとう、ソフィア。  
 あなたも一緒に飲んで」

 二人は紅茶を注ぎ合い、カップを傾けた。  
 蜂蜜の甘い香りが、優しく広がる。

 クラリッサはカップを置き、庭園を見渡した。

「レオンハルト殿下から、またお手紙が届いたわ。  
 『今度こそ、正式にお茶会を』だなんて……」

 ソフィアはくすりと笑った。

「それはおめでとうございますわ。  
 お嬢様に相応しい方です」

 クラリッサは少し頰を赤らめ、紅茶を一口飲んだ。

「でも……なんだか落ち着かないの。  
 ソフィアがいてくれるこの時間が、一番好きで……」

 ソフィアの手が、ぴたりと止まる。  
 彼女は静かにカップを置き、クラリッサの顔をじっと見つめた。

「……お嬢様」

 その声は、いつもより少し低く、柔らかかった。

「わたくしは、ずっとお嬢様のそばにいます。  
 メイドとして、姉妹として、――どんな形であれ」

 クラリッサの瞳が揺れる。

「ソフィア……」

 二人は自然と手を重ね、互いの指を絡めた。  
 庭園の花々が風に揺れる中、静かな約束が交わされる。

 ――これからも、ずっと一緒に。

 クラリッサはソフィアの手を強く握り、静かに言った。

「あなたがいなければ、わたくしはここまで来られなかったわ。  
 ポンコツ令嬢の仮面を被り、失敗を演じ、すべてを計画通り進めた……  
 でも、一番支えてくれたのは、あなたよ」

 ソフィアは目を細め、優しく微笑んだ。

「お嬢様……わたくしも、お嬢様と一緒にいられて幸せです。  
 あの追放の日から、今日まで……すべてが、夢のようでした」

 クラリッサはくすりと笑った。

「夢じゃなくて、現実よ。  
 そして、これからも続くわ」

 二人は紅茶を飲みながら、未来の話を続けた。  
 レオンハルトとの関係、王都での生活、庭園の散策、二人だけの時間……  
 すべてが、穏やかで幸せなものだった。

 クラリッサは窓の外を見た。  
 遠くに王宮の塔が見える。

「レオンハルト殿下は、きっと素晴らしい国王になるわ。  
 でも、わたくしは……王妃になるより、自由に生きていたいかも」

 ソフィアは静かに頷いた。

「お嬢様の望むように。  
 わたくしは、どんな形でも、そばにいます」

 クラリッサはソフィアの手を離さず、静かに言った。

「約束よ。  
 これからも、ずっと一緒に」

 ソフィアは優しく頷き、涙を浮かべた。

「はい、お嬢様。  
 ずっと、ずっと……」

 紅茶の香りが、二人の未来を優しく包み込んだ。  
 庭園の風が、花びらを舞い上げ、春の訪れを告げる。

 ポンコツ令嬢の物語は、ここで一つの終わりを迎えた。  
 しかし、それは新たな始まりでもあった。  
 クラリッサとソフィアは、手を繋いだまま、未来へ歩み出す。

 失敗も、逆襲も、すべてが、紅茶の香りとともに、優しく溶けていく。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること

夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。 そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。  女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。  誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。  ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。  けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。  けれど、女神は告げた。  女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。  ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。  リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。  そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

処理中です...