氷の公爵と契約結婚したら、いつの間にか溺愛されていました 〜冷徹な夫が“絶対に手放さない”と言って離してくれません〜

しおしお

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第3章 崩れゆく仮面と芽生える想い

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 アイゼンベルク公爵家に嫁いでから半月余り。
 アドリアナは広大な邸内を把握しながら、公爵夫人として求められる基本的な所作と役割をこなしつつあった。もっとも、肝心のヴァレリウスは相変わらず執務室にこもる時間が長く、朝から晩まで政務や領地管理の書類と向き合い、必要最低限の言葉しか発しない。
 しかし、そんな彼もごくまれにアドリアナを呼び出し、仕事の手伝いをさせたり、要職者との会合に同席させたりと、“夫人を活用”しはじめているのだ。これを単なる“形”と見るか、それとも一歩前進と捉えるかで、アドリアナの気持ちは揺れ動いていた。

1. 書庫に積まれた過去と今

 その日は朝からひんやりとした空気が漂っていた。季節の変わり目で、朝晩は肌寒さを感じることが多くなったが、日中はまだ陽射しが暖かい。
 アドリアナは使用人たちと連携して、書庫の資料を整理するという仕事に取りかかっていた。以前、ヴァレリウスが「王宮関連の文書と領地の財務記録を区別し、整頓してほしい」と依頼してきたあの件だ。
 天井まで届く書棚の合間を縫いながら、山積みになった書類や古い書物を分類していくのは骨の折れる作業だった。王宮から回覧される政務報告や、アイゼンベルク領内の年ごとの収支記録、さらには領地で発生した細かな裁定書や議事録など……とにかく膨大な量に圧倒される。
 とはいえ、アドリアナには“これをきっかけに公爵家の責務を学べる”という意欲があった。何より、少しでも領地や政治について理解しておけば、将来的にヴァレリウスの役に立てるかもしれない——その思いが原動力になっていた。

「ええと……これが王命令の記録で、あちらが王都との契約書類……。同じ『アイゼンベルク領』絡みだけれど、年号が違うものは別の棚にまとめたほうがいいわよね……?」

 書類をめくりながら小声で確認していると、隣で控えていた侍女のひとりが頷く。

「はい、奥方さま。公爵様は“年度順に並べ直しておいてくれ”とおっしゃっていましたし、政治関連と財務関連を混ぜないように……とのことでした」

「わかったわ。じゃあ、この区域が一杯になりそうだから……もう少し奥の棚も使って整理しましょうか」

 書庫内には、作り付けの長いはしごがいくつもある。大きな書棚の上段まで届くように設置されているが、アドリアナはさすがに転落が怖いので、はしご作業は使用人たちに任せることにした。自分は中~下段を中心に整理し、必要に応じて指示を出す形を取っている。
 紙の埃が舞い、時折くしゃみが出そうになるものの、手を動かす作業は嫌いではなかった。むしろ集中できるので、雑念を振り払うのにちょうどいい。
 そんな作業を黙々とこなしていたところ、ふいにドアが開く音が聞こえた。振り返ると、漆黒の礼服姿でヴァレリウスが入ってくる。いつ見ても、その金色の瞳は鋭く、まるで人を寄せつけない氷のようだ。
 アドリアナは慌てて一礼する。

「公爵様……。お疲れのところ、書庫までいらっしゃるなんて珍しいですね。もし何か確認事項があれば、どうぞ」

「いや、進捗を見に来ただけだ。どうだ。上手く運んでいるのか?」

 ヴァレリウスの声には淡々とした響きがあるが、確かに“経過確認”をするだけでも、以前に比べれば積極的に関わってきているように思えた。アドリアナは、資料の山を指し示しながら答える。

「今のところ問題なく進んでいます。使用人の方々が協力してくださるおかげで、だいぶ仕分けが進みました。あと数日もあれば、ほとんど整理できると思います。……ただ、文書の中には古い慣習や王令が複雑に絡んだものもあって、判断がつきにくい箇所がいくつかあるんです。もしお時間をいただけるなら、公爵様に直接お伺いしたいのですが……」

 するとヴァレリウスは近くにあった机に手をついて書類の山を眺め、少し眉を寄せる。

「いいだろう。昼に執務室へ来い。残りの整理は、必要に応じて俺が指示する。……それと、無理をしないことだ。怪我などされては面倒だからな」

「か、怪我……ですか?」

「はしごがあるだろう。転落などしたら厄介だ。……お前、そういうところで余計な手間をかけさせるな」

 一見突き放したようにも聞こえるが、言われてみれば、彼なりの“気遣い”なのだろう——とアドリアナは察した。普段なら「余計な怪我などするな」とすら言わないかもしれない。
 彼が去ったあと、侍女たちがひそひそと囁き合う。

「公爵様が、奥方さまを……あんなふうに“気にかけて”いらっしゃるなんて……ちょっと驚きですね」

「ええ。前のご夫人候補……いえ、コーデリア様にもそういう態度はあまり見せなかったのに」

 小声とはいえ聞こえるその噂に、アドリアナは複雑な気持ちになる。コーデリアがどうだったかはさておき、ヴァレリウスが少しずつ“妻を放置しない”方向にシフトしているのは感じられた。
 ただ、だからといって愛されているわけではない。それがかえってアドリアナの胸をもやつかせる。
 (あの方は、私に興味などない。それでも最小限の責務として、私を大事に扱わざるを得ないだけなのか……)
 けれど、そんな思考に捉われていても仕方がない。アドリアナは再び資料へと意識を向け、黙々と作業を再開した。

2. 手紙と執務室での打ち合わせ

 数時間後。
 アドリアナは昼食のために一度書庫を出て、自室へ戻って軽く身支度を整えた。机の上に何通かの手紙が届いていたので目を通すと、そのうち一通がローラン家の紋章入りだった。
 差出人は父親のローラン子爵。アドリアナは軽く息をつきながら封を切る。

「アドリアナ、元気にしているか? 公爵家での暮らしに不自由はないか。
我がローラン家は先日、王宮の財務局から新たな徴収額について通達を受けた。今後しばらくの間、わが子爵領のやりくりはさらに厳しくなるだろう。
そこでお前に頼みがある。公爵家の経済力や影響力を活かして、可能であればローラン家への“援助”を取り付けられないか……。
詳細は改めて手紙を送るが、まずは公爵夫人として“融資”の口利きができないか探ってみてほしい。
……お前の幸せを願いつつも、家のために力を尽くしてもらえると助かる」

 読み終えたアドリアナは、なんとも言えない気分で手紙を机に置く。
 ——やはり、父はローラン家の財政難を解決するために、アドリアナを公爵家へ嫁がせたという面が大きい。そこは理解していたが、具体的に「援助を取り付けろ」と言われると、もやもやとした苦い感情を禁じ得ない。
 ヴァレリウスにとってローラン子爵家は取るに足らない存在かもしれないが、下手な働きかけをすれば「金目当ての女」と思われるだろう。そんな形で彼の不興を買うのは避けたい——とはいえ、実家を見捨てるわけにもいかない。
 その板挟みで悩みつつ、アドリアナはひとまず父の手紙を引き出しにしまい、時間があればキアラや執事のサミュエルにも相談してみようと考えた。

 そして、ヴァレリウスが指定した時間が近づき、アドリアナは執務室へ向かう。
 扉の前でノックすると、「入れ」という短い返事。中へ足を踏み入れると、案の定ヴァレリウスは書類の束に囲まれていた。机の上には領地の地図や王宮からの通達書類が広げられ、その横に先ほど書庫で見たような公文書が数冊重なっている。
 アドリアナが礼をすると、彼は視線だけを動かして指先で隣の椅子を示す。

「座れ。……お前が迷っている箇所というのは、どのあたりだ?」

「はい、こちらです」

 アドリアナは自分のノートと資料を取り出し、机の上に広げた。そこには王都から出された勅令と、アイゼンベルク領が独自に発行している法的文書が並ぶ。
 一見、どちらも同じ“領内の法整備”に関する文書なのだが、年号や条項が部分的にずれており、どの時点の法令が有効なのか見分けるのが難しいのだ。さらに、領主の判断で一時的に改正された条文も存在する。
 アドリアナがその点を指摘すると、ヴァレリウスは短く息を吐き、あからさまに嫌そうな表情を浮かべる。

「この国の法律は王族と貴族院の合議で制定されるが、領主の裁量で細部を変更することが許される場合もある。特に災害時や緊急の経済対策などで一時的に税率や運用を変える措置だ。
……俺の祖父の代に、大規模な洪水があってな。そのとき王都と何度か取り決めを交わした結果、こうした“改訂版”が乱立することになった。それが整理されずに残っているんだ」

「なるほど……。だからこうして紛らわしくなっているわけですね。では、現在有効なのはどの条文なのでしょう?」

「原則は最新の改訂版だ。だが、一部の条文は未だに古い法令を参照している領主もいる。……俺の領地では、すでに新しい条文に移行済みだ。だから混乱を避けるために、古い書類は廃棄するか、“参考資料”として別棚に保管したい」

「わかりました。では私たちが“最新の改訂版に沿った書類”を優先して仕分けし、古いものは保管用として封をした箱にまとめておく、ということでよろしいでしょうか?」

「それで構わない。……どうせ誰も参照しない歴史的資料に過ぎん」

 こうして具体的な作業方針が定まり、二人はしばらく資料の山をめくりながら細かい分類を確認していく。
 アドリアナがメモを取りつつ項目を整理していると、ふいにヴァレリウスが彼女の手元を見やり、淡々と質問を投げかけた。

「……お前、文字の読み書きはしっかりしているな。ローラン家では、それなりに教育を受けてきたのか?」

「え? あ、はい。父はああ見えて、勉学には理解があったんです。私に宮廷の作法を習わせてくれたり、家庭教師を呼んで歴史や文学も教わりました。もっとも、貴族のご令嬢としては普通だと思いますが……」

 すると、ヴァレリウスはごくわずかに目を細め、アドリアナの字を見つめる。

「普通、か……。お前の字は読みやすい。整然としているが、硬さはない。……まあ、悪くない書き方だ」

 それが彼なりの褒め言葉なのだと気づいて、アドリアナは少し頬を染める。彼はほとんどの場合、無関心か冷淡な言葉しか発しないが、こうして素直に“悪くない”と言われるだけで妙に胸が弾む自分が不思議だった。
 だが、そのまま会話を弾ませるほど、ヴァレリウスは饒舌な男ではない。結局、「では仕事に戻れ」という一言で、打ち合わせは終了した。
 アドリアナは席を立ち、ドアに手をかける……が、その前にほんの少しだけ迷い、振り返る。

「あの……公爵様。少し、お伺いしてもよろしいでしょうか」

「なんだ」

 ヴァレリウスが怪訝そうに顔を上げる。アドリアナは意を決して言葉をつなぐ。

「もし、私の実家のローラン子爵家が……経済的に困窮したとき、公爵様にご相談したら、ご迷惑でしょうか」

 彼の金色の瞳が、一瞬だけ険しく光る。やはり、嫌な顔をされるのではないかと思い、アドリアナの胸はぎゅっと締め付けられる。
 それでも、父からの手紙を読んで以来、“いつかはこうしてお願いをしなければならない”と覚悟はしていた。今すぐどうこうではなくても、事前に聞いておきたかったのだ。
 ヴァレリウスは短く鼻を鳴らし、すぐに淡々と答える。

「お前の実家がどうなろうと、俺が気にかける筋合いはない。……が、もし王宮の財務局から何かしらの圧力を受けているなら、報告くらいはしてもいい。金の無心なら、状況次第だ」

「状況……次第、ですか」

「無計画に貴族が金を欲しがるなど論外だが、領民の生活を守るために急場をしのぐ必要があるというのなら、わざわざ国全体の秩序を崩すわけにもいかんからな。……まぁ、よほどの緊急性があればだが」

 それはとりあえず“門前払い”ではない、ということ。あるいは“きちんと理由を示せば、援助を検討する余地がある”と解釈できる。
 その含みを感じ取って、アドリアナはほっと胸をなで下ろす。なるほど、単なる情けや私情で動くつもりはないようだが、条件次第では受け入れる余地もあるということだ。

「……わかりました。ありがとうございます。いずれにしても、もし本当に必要になったら改めてご相談させていただきます」

「勝手にしろ」

 素っ気ないが、まったく拒絶されるよりはずっといい。アドリアナは軽く頭を下げ、執務室を出た。
 ドアを閉めて廊下へ出ると、何とも言えない解放感が広がる。あの冷ややかな公爵との会話にしては、今日はかなり“前向きな結果”を得られたように感じた。
 (何だか……最近、少しだけ公爵様が変わってきた気がする。本当は私の思い過ごしかもしれないけど……)
 淡い期待が胸の奥に芽生える。それがやがてどうなるのかはわからない。けれど、愛などまったくなかったはずのこの結婚に、小さな“灯”がともり始めているような気がした。

3. コーデリアと噂

 しかし、そんなアドリアナの気持ちを踏みにじるような出来事が、そう遠くないうちに起こる。
 その数日後、公爵家に“招かれざる客人”が再び現れた。言わずもがな、コーデリア・フォン・フライベルクだ。
 この日は午後から曇り空で、時折小雨が降る嫌な天気だった。アドリアナは書庫での整理を終え、ささやかな休憩を取ろうとサロンで紅茶を淹れてもらっていたところ、執事長のサミュエルが申し訳なさそうに告げる。

「奥方さま、コーデリア様が正門にいらっしゃいまして……“公爵様に用があるので通してほしい”と仰っています。公爵様は今、王宮へ出向いているため、お会いできない旨をお伝えしたのですが……なかなかお引き取りいただけず……」

「そうですか……。王宮ですものね、すぐには戻られないでしょうし……」

「はい。そこで、もし奥方さまがお差し支えなければ、コーデリア様を屋敷に通し、一時的にお待ちいただく形を取るしかなさそうです。いかがいたしましょうか」

 あからさまに帰っていただくわけにもいかない相手だ。フライベルク伯爵家は旧来からアイゼンベルク公爵家と縁が深く、コーデリア自身も幼馴染として長年この屋敷に出入りしている。
 アドリアナは内心でため息をつきつつ、使用人に無下な対応をさせるのも気が引けたので、ひとまず屋敷へ通してもらうよう指示した。
 そして応接室で待っていると、案の定、コーデリアは華麗なドレス姿で姿を現す。今日は深い緑のベルベット生地にゴールドの刺繍が施された一着をまとい、高々と結い上げた金髪には飾り羽根まで差していて、まるで舞踏会へ行くかのような装いだ。
 その洗練された美貌とファッションセンスに、アドリアナは正直“見とれる”ほどの感心も覚えるが、コーデリアの性格を思い出すと即座に緊張感が増す。

「ごきげんよう、コーデリア様。今日はあいにく公爵様は外出中なのですが……私でよろしければ、お話を伺いますわ」

 言葉だけは丁寧に。しかし、内心では“できるだけ早く帰ってほしい”と思っている。コーデリアはそんなアドリアナの本心をお見通しなのか、嫌味なほど上機嫌に笑う。

「ええ、知っているわ。ヴァレリウスが王宮に行っていることくらい。だからこそ、あなたと少し話がしたくて来たの。……まさか追い返すようなことはしないわよね?」

「もちろん、そんなことはいたしません。どうぞお掛けください」

 アドリアナが促すと、コーデリアは応接室のソファへ優雅に腰を下ろす。出された紅茶に手をつけるでもなく、部屋の内装をぐるりと見回し、それからニヤリと微笑んだ。

「ずいぶん落ち着いた部屋よね。前に私が来たときは、もっと装飾が豪華だった気がするけれど……あなたの好みで替えたのかしら?」

 それは多分、ヴァレリウスが無駄な派手さを嫌って一部を改装させたのだろう。アドリアナ自身は詳しくは知らないが、この応接室は比較的シンプルな調度品に統一されている。
 いちいち答えるのも煩わしく、アドリアナはやんわりと肯定にとどめる。

「ええ、先日公爵様が“落ち着いた雰囲気の部屋がいい”と仰ったので、使用人の皆さんが手を加えてくださったんです。私の好みというより、公爵様のご意向ですね」

「へぇ……。あのヴァレリウスが“落ち着いた雰囲気”を望む、ね。あの人には似合っているかもしれないわね」

 そこでコーデリアは唐突に身を乗り出し、アドリアナの表情を覗き込む。

「ところで、あなたが公爵夫人になってどれくらい経ったのかしら? 二週間? 三週間? まぁ、いずれにせよ新婚と言ってもいい時期よね。……なのに、あなた方が『真の夫婦』らしく過ごしている話を、私はまったく聞いていないけど?」

「……っ」

 やはり来たか、というべき嫌味。
 実際、ヴァレリウスとアドリアナの夫婦仲は、まだ“仮面夫婦”に近い。寝室は別々で、同じ時間を過ごすのは仕事か公式行事のときだけ。周囲が思い描く新婚生活とは程遠いだろう。

「私の耳にも、あなたたちが“夜会でも見かけない”“夫婦で出かける様子もない”って噂がチラホラ入ってくるわ。ヴァレリウスの方も、“あの人は一体どうして結婚したんだろう”って、貴族たちが不思議がっているみたい」

 コーデリアは楽しそうに話を続ける。その目的が相手を追い詰めるためだとわかっていても、アドリアナは笑ってスルーするしかない。けれど、その言葉には核心を突いたものがある。
 ヴァレリウスがなぜ結婚を受け入れたのか、アドリアナ自身もまだ知らないのだ。

「……私たちは、私たちなりの距離感で暮らしているだけです。コーデリア様の目にどう映るかは存じませんが、私は公爵様のご迷惑にならないよう務めているつもりですし、公爵様も私をそれなりに尊重してくださいます」

 言い返すつもりはないが、最低限の自尊心は示したいアドリアナ。だが、コーデリアは鼻で笑う。

「へぇ、そう。まぁ、強がりでも言わないとやっていられないわよね。けれど、あなたは知らないでしょう? あの人は昔、どれだけ情熱的だったか。私が退屈しているときはいつも一緒に狩りに行ったり、馬を駆って森を散策したり……彼なりに“楽しませよう”としてくれたのよ。冷たい氷のような外見の下に、熱い何かを秘めている人だって、私はよく知っているわ」

「……っ」

 それが真実だとしても、アドリアナにはそれを否定する材料がない。ヴァレリウスの過去など知らないし、コーデリアがかつて近しい存在だったことは間違いない。
 コーデリアは、アドリアナの悔しそうな顔を見て満足したのか、さらに畳みかける。

「なのに、あなたはそれを引き出すことができない。つまり、ヴァレリウスを“心から惹きつける力”がないのよ。形だけの夫婦で満足しているなんて、可哀想に。……それにもし、あなたが公爵夫人の地位をしっかり確立できないようなら、フライベルク家としては“次の手”を考えてもいいのかもしれないわね」

「次の手……?」

「ふふ、勘のいい人ならわかるでしょうけど、まぁあなたには難しいかも。とにかく、アイゼンベルク家との縁が深いのは私たちフライベルク家なの。あなたのような子爵令嬢が突然割り込んできても、正直困るのよ」

 そこまで言うと、コーデリアはソファから立ち上がり、飾り羽根をふわりと揺らして踵を返す。

「公爵が戻るのは夜遅くかしら? 今日はもう待たずに帰るわ。少しあなたと話しただけで、気が済んだから。……また近いうちに会いましょうね、アドリアナ・アイゼンベルク」

 最後はあからさまな嘲笑を浮かべ、コーデリアは颯爽と部屋を出ていく。
 その傲慢さに腹立たしさがこみ上げるのを感じながらも、アドリアナは呆然と見送るしかなかった。

4. 疑念と孤独

「……ああ、なんて人なの……」

 応接室を出たあと、アドリアナは思わず廊下でつぶやく。悔しさ、悲しさ、そして言いようのない不安が胸を締め付ける。
 コーデリアがヴァレリウスと“かつて親密だった”のは、どうやら本当のことなのだろう。彼がどんな顔で笑い、どんな風に相手を楽しませたのか、想像すらできない。
 ただ、今のアドリアナにはその笑顔は向けられていない。せいぜい事務的な会話と、わずかな気遣い——あの“はしごから落ちるな”といった程度の言葉。そこに愛情は微塵も感じられず、絶対的な壁が存在するだけだ。
 そんな“事実”を思い知らされるにつれ、自分がどれほど空しい立場にあるのかを痛感する。公爵夫人とは名ばかりで、彼の心は遠い。
 (……馬鹿みたい。私、何を期待していたのかしら。政略結婚だって、わかっていたのに)

 そうは思っても、コーデリアの言葉の棘がズキズキと胸に刺さって痛む。アドリアナはやり場のない感情を抱えたまま、足早に部屋へ戻った。
 さらに追い打ちをかけるように、先日届いたローラン家からの手紙が脳裏をよぎる。
 自分の実家は窮地にある。援助を得るには、ヴァレリウスとの関係をもう少し円滑にしなくてはならない。だが、自分はコーデリアのように“公爵の心を掴む”自信などない。
 それどころか、新婚生活と呼べない冷えきった状態で、果たして公爵家の経済支援を引き出せるのだろうか。彼の“責任感”だけを当てにするしかないのかもしれない。
 (私……本当に、公爵様にとって必要とされてるの? それとも、ただの名目上の妻? コーデリア様は言ってたわ。“次の手を考える”……もし本当にフライベルク家が何か仕掛けてきたら、私はどうすればいいの?)
 考えれば考えるほど出口が見えなくなり、アドリアナは胸の苦しさに耐えられなくなる。いつもならキアラや侍女を呼んで相談するところだが、今日はどうにも人と話す気になれなかった。
 部屋の奥にある窓辺の椅子に腰掛け、庭をぼんやりと眺める。低い雲が空を覆い、雨粒がガラスを打つ音がかすかに聞こえる。
 遠くで公爵邸の時計が鐘を鳴らす頃、アドリアナは一度深呼吸をし、心を鎮めようと試みた。胸の奥に沈殿する重い感情を押し込めるように、そっと目を閉じる。
 (私は、公爵夫人……。この状況を打開するのは自分しかいない。コーデリア様に振り回されてばかりじゃだめ。いつか……いつかきっと、彼に誇れるような仕事をしてみせるんだから)

 自分に言い聞かせるように、そう思った。

5. 風向きが変わるとき

 それから数日後。
 アドリアナの地道な整理作業のおかげで、書庫の資料は大部分が分類を終え、かなり見通しがよくなった。公爵家の使用人や、ヴァレリウス本人からも「予想より早い」と評価され、アドリアナは少しだけ自信を取り戻す。
 しかし、コーデリアの言葉に胸を乱されたままの日々であることに変わりはない。夜になってもヴァレリウスが自室に来ることはなく、冷たい距離は保たれたまま。
 そんなある日の昼下がり、アドリアナはサロンで簡単な昼食を摂っていた。スープとパンを少し口に運んでいると、慌ただしい足音を立ててキアラが駆け込んでくる。

「奥方さま、大変です! 公爵様が今お戻りになったのですが、どうやらとてもご機嫌が悪いご様子で……執務室のドアが激しく閉まる音が聞こえて……!」

「え? 公爵様が……?」

 ヴァレリウスは王宮での政務や貴族院の会合に出かけることが多いが、帰宅してすぐに苛立ちをあらわにするなど滅多にない。いつもは“無表情に黙って執務室へ入る”だけなのに、一体何があったのか。
 アドリアナは箸を置き、急いでサロンを出た。執務室に行くと、ドアの前にはサミュエルが立っており、明らかに困り顔をしている。

「奥方さま……。公爵様は今、よほど腹立たしいことがあったのか、部屋に鍵をかけて誰も通すなと言われています。私が声をかけても返事がなく……」

「そんな……。でも、放っておくわけにはいきませんよね。何があったか確かめる必要がありますし……」

「おっしゃるとおりです。ですが、あのお方がああいう態度を取られるのはきわめて珍しい。何か……大きな問題が持ち上がったのかもしれません。下手に刺激すると危ういところもありますから、慎重に……」

 サミュエルが言葉を選ぶようにしているのがわかる。要するに、“氷の公爵”が珍しく激高している状態で、下手に扉を開けて介入しようものなら逆効果かもしれないというわけだ。
 しかし、アドリアナは迷った末、思い切ってドアをノックした。

「……公爵様。私です、アドリアナです。失礼を承知で申し上げますが、お話を聞かせていただけませんか。今の公爵様のお心境が気になるのです」

 返事はない。
 アドリアナは一瞬、諦めようかと思うが、ここで逃げてしまえば何も変わらない。そう思ってもう一度、少し強めにノックする。

「公爵様……。もしご迷惑でなければ、お茶でもお持ちしましょうか。何か熱いお飲み物を召し上がって、少しだけお休みになられては……?」

 と、そのとき、ドアの向こうで低い声が響いた。

「……いらん。放っておけ」

 やっと返事があった。アドリアナはほっとすると同時に、更に声をかける。

「ですが、公爵様がお困りなら、私がお手伝いできることがあるかもしれません。資料をまとめることでも、伝達役を引き受けることでも……。私、公爵様の力になりたいのです」

 一瞬、沈黙が訪れる。周りの使用人たちも息を呑んで見守っているのがわかる。
 すると、がちゃりと扉の鍵が外れる音がし、ドアがわずかに開いた。そこから金色の瞳が覗く。いつにも増して冷ややかで、けれどどこか鋭い怒気が混ざっていた。

「……お前一人なら入ってもいい。だが使用人は下がれ。余計なことを聞くな」

「わ、わかりました」

 サミュエルやキアラは戸惑いながらも、アドリアナに視線で「気をつけてください」と言い残すようにし、静かに下がっていく。
 やがてアドリアナが一人で執務室に入ると、ヴァレリウスはすぐにドアを閉め、鍵をかける。部屋の中に立ち込める空気は重く、壁際には乱雑に置かれた書類が散乱していた。

「公爵様……。よほどのことがあったようにお見受けしますが、何が……?」

 彼は机の前に立ち、拳を固く握りしめたまま吐き捨てる。

「……馬鹿馬鹿しい噂を聞いたんだ。王宮で。俺と“ある貴族の娘”が近く再婚するのではないか、などという根も葉もない憶測が飛び交っている。……しかも、その娘の家が王宮の有力者と手を組み、俺の政治的立場を揺さぶろうとしているとか、ふざけた話だ」

「再婚……? ちょっと待ってください、私たちはまだ結婚したばかりですし、そもそも公爵様に別の婚約者がいるなんて……」

 そこで脳裏をよぎるのは、コーデリア・フォン・フライベルクの顔。まさかとは思いたいが、彼女が再婚相手の噂の当事者という可能性は否定できない。

「それで、具体的にはどのような噂が……?」

 アドリアナが恐る恐る問うと、ヴァレリウスは唇を噛んで、机に散らばった紙の束をどさりと叩くように投げる。

「フライベルク伯爵家が、俺に“ローラン家の娘と離縁させ、コーデリアと改めて正式に婚姻を結ばせる”と、王宮の一部と画策している——そんな噂だ。俺は断じて聞き捨てならん」

「やはり、コーデリア様……」

 思わず口を抑える。まさか彼女が本当にそこまで露骨な手段を取ろうとしているのか。それともフライベルク家の思惑が、彼女の知らないところで動いているのか。
 ヴァレリウスは続ける。

「当然、そんな計画は無意味だ。俺がそんなことを認めるはずがない……が、問題は王宮内でも“あながちそれが事実かもしれない”と噂され始めていることだ。アイゼンベルク家を貶めようと考える奴らは少なくない。特にこの時期、俺が領地に戻る前に一波乱起こしてやろうという腹積もりだろう」

「……では公爵様は、その一波乱を食い止めようとなさっているのですね?」

 彼は苛立った様子で髪をかき上げ、金色の瞳に凍えるような光を宿して言い放つ。

「当たり前だ。俺は“お前”を正妻に迎えたのだ。たとえ政略結婚であろうと、簡単に覆してたまるか。……それに、フライベルク家の差し金がどれほどのものか知らんが、コーデリアの名前を使って好き勝手に喧伝されるのは不愉快だ。あいつ自身がどこまで関与しているかはわからんがな」

 そこまで言うと、彼はうっすらとこちらを見遣り、眉をひそめる。

「お前には関係ない話だ。気にするな」

「で、でも……私が“正妻”だというなら、黙っていたら余計に誤解を招くのでは? 私は公爵様の立場を守りたい。私にも何かできることはないのでしょうか」

「……お前が……?」

 ヴァレリウスは戸惑ったように目を瞬かせる。一瞬、その瞳から怒気がやや薄れたようにも見える。
 アドリアナは深く息をついてから、意を決して続けた。

「私はこのままだと、コーデリア様やフライベルク伯爵家に押し切られかねないと思うんです。少し前にも彼女はここへ来て、私に“あんたは形だけの妻”だの、“公爵は熱い情熱を秘めているが、あなたには引き出せない”だの、散々なことを言ってきました」

「……そうか、あいつの性格なら言いそうだな」

 ヴァレリウスは苦々しく呟き、机の上の書類を乱雑にかき集める。どうやらフライベルク家が何らかの工作をしているのは確実なようだ。
 しかし、王宮の“再婚説”がどう発展するかによっては、アイゼンベルク家の権威や政治的立場にも関わる大問題になる。
 アドリアナは決心したように口を開く。

「公爵様……私を、コーデリア様との対面の場に同席させてください。フライベルク家がどんな意図を持っているのか、直接ぶつけて確かめたいのです。私が黙っているだけでは、まるで“いつでも離縁されても文句は言えない妻”のようで……悔しくてたまりません」

「馬鹿を言うな、お前が前に出る必要はない。これはアイゼンベルク家とフライベルク家の政治的駆け引きだ。コーデリアは幼馴染とはいえ、伯爵家の令嬢。下手に感情的になれば相手の思う壺だぞ」

「わかっています。だからこそ、私が顔を出すことで“公爵夫人”としての正統性を示したいんです。愛があろうとなかろうと、私はもう公爵様の妻ですから」

 一気にまくし立ててしまった。ヴァレリウスはそれを黙って聞いていたが、やがて首を振るように目を伏せる。

「……何を勘違いしている。俺は別に愛など求めていない。お前が関わる必要もない」

「関わる必要が……あるんです、私には。これ以上コーデリア様に好き勝手させないためにも、私自身がしっかり意思を示さないと。公爵様の立場を崩さないためにも、ここで黙っているわけにはいきません」

 アドリアナの強い口調に、ヴァレリウスは驚いたような顔をする。普段おとなしい彼女が、ここまで強く意見を言うのは初めてかもしれない。
 しばしの沈黙が流れたあと、彼は深い溜息をついて言った。

「……わかった。だが勝手な行動はするなよ。言葉を出す際は、必ず俺の目を見ろ。相手に揚げ足を取られるような余計な話は一切無用だ」

「は、はい!」

 思わず安堵で胸が震える。こうして自分に役割を与えてくれただけでも、少しは公爵の“妻”として認めてもらえたような気がした。
 ヴァレリウスは彼女の表情を横目で見やり、再び書類へ目を落とす。

「……王宮で公式の場を設けるか、もしくはフライベルク家がこちらへ出向くか……いずれにせよ、近々なんらかの交渉の場を設定しよう。俺も、連中がどういう腹づもりかを確かめなければならん。……お前にできるのは、その時、俺の隣に堂々と立っていることだ。いいな」

「かしこまりました。公爵様に恥をかかせるようなことは致しません」

 ヴァレリウスはそれ以上何も言わず、手の中にある書類を握りしめる。その横顔には、まだ怒りの余韻がくすぶっているようにも見えるが、先ほどまでの険悪さはやや和らいだようだ。
 こうして二人は“共闘”という形でフライベルク家の動向を探ることになる。アイゼンベルク家を守るため、そしてアドリアナ自身が“名ばかりの妻”から脱却するために。

6. 静かな夜と、わずかな距離

 その夜、アドリアナは自室で湯浴みを済ませ、ベッドに腰掛けていた。
 ヴァレリウスとのやり取りを思い返し、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。彼は相変わらず冷たい態度を崩さなかったが、“お前に関係ない”と一蹴せず、最終的には一緒に対処することを容認してくれた。
 それは決して“優しさ”や“愛”ではないかもしれない。けれど、ほんの少しだけ前進したように感じられる——いや、そう思いたかった。

「やっぱり私は、公爵様に認められたいんだわ……」

 アドリアナは自嘲気味に笑う。政略結婚だと割り切っていたはずなのに、いつの間にか彼の態度に一喜一憂する自分がいる。
 思い切ってベッドに横になると、ほんのりとした疲労感が心地よく襲ってきた。書庫整理や気苦労続きで身体も疲れているのだろう。

(今は……余計なことを考えず、明日に備えて休みましょう。いつフライベルク家との交渉が始まるかわからないし……)

 そう思い、瞼を閉じかけたとき、ノックの音がした。こんな夜更けに誰だろう。キアラや侍女なら遠慮がちに来るだろうし……。
 不思議に思いながら、ベッドを降りてドアを開けると、そこにはヴァレリウスが立っていた。
 ——思わず息を呑む。彼が自らアドリアナの部屋を訪れるなんて、結婚以来初めてだ。

「公爵様……? どうされたのですか、こんな夜更けに……」

「……少し様子を見に来ただけだ。お前が休んでいるなら失礼する」

 ヴァレリウスはそう言って踵を返しかけるが、アドリアナは慌てて声をかける。

「ま、待ってください! せっかくいらしたのなら、何かお話でも……」

 言葉の続きを迷う。会話をしたいという自分の正直な気持ちと、彼が迷惑がっているかもしれないという遠慮とがぶつかり合う。
 ヴァレリウスはほんの少し眉をひそめるが、しばし逡巡した末、低い声で答える。

「……お前がさっき、昼間に俺を気遣ってくれたこともあってな。一応礼を言っておこうと思っただけだ。……それだけだ」

「お礼、ですか?」

「俺の怒りに巻き込まれて使用人が困惑したり、屋敷が混乱に陥ったりすれば厄介だからな。お前が声をかけてくれて助かった……と言えばいいのか。まぁ、そういうことだ」

 ぶっきらぼうで素直ではない。しかし、彼なりに“ありがとう”と伝えに来たのだと理解する。愛のない政略結婚ではあっても、こうして言葉をかけてくれるのは初めてだった。
 胸がじんわりと温かくなり、アドリアナは小さく微笑む。

「私で役に立てたなら何よりです。……公爵様こそ、あまり無理をなさらないでくださいね。今は緊迫した状況かもしれませんが、きちんと休まないと体を壊してしまいます」

「余計なお世話だ」

 ヴァレリウスはそっけなく返すが、その瞳には以前ほどの鋭い冷たさは感じられない。
 アドリアナは思い切って、ドアを少し開いて部屋の中を示しながら言ってみる。

「もしよろしければ、少しお茶を……。夜遅いのでハーブティーしかありませんが、気持ちを落ち着けるにはちょうどいいかと」

「……いや、遠慮しておく。俺はこれからまだ調べ物がある。そう何度も王宮まで行き来する暇はないからな。気にかけてくれるのはありがたいが……あまり踏み込んでくるな。自分の身を守るのも忘れるなよ」

 それだけ言い残して、ヴァレリウスは廊下を戻っていく。アドリアナは、もう一度何か呼び止める言葉を探したが、結局何も出てこず、その背中を見送るしかなかった。
 扉を閉めると、胸にこみ上げる感情をじっと抑え込みながら、窓辺に寄る。
 ——あの氷の仮面が、少しずつ崩れ始めているのを感じる。でも、それと同時に彼が言った「自分の身を守れ」という言葉がひっかかる。
 まるで、この先もっと大きな嵐が来ることを警告されているかのようだ。
 アドリアナは夜風を受けながら、ぼんやりと闇の庭を見下ろす。心は揺れたままだが、微かな希望の光も感じていた。公爵が、ほんの少しでも自分に心を開こうとしてくれたのなら、まだ諦めるには早いはずだ。
 (コーデリア様に何を言われても、私はもう逃げない。ここに私がいる意味を、ちゃんと証明してみせる)
 そう胸の中で誓いながら、アドリアナは静かに瞼を閉じた。

 ——そして夜は深まる。
 果たして、フライベルク家との衝突はどのような形で表面化し、ローラン家や王宮を巻き込んだ一大騒動に発展するのか。やがて訪れる“決戦”のとき、二人の距離はどう変化するのか。
 アドリアナもヴァレリウスも、まだその全貌を知らない。
 だが、確かに何かが動き始めている。冷徹と呼ばれる公爵と、政略結婚によって迎えられた名ばかりの夫人が、もはや“形”だけでは済まない絆を育んでいく、その予感が夜の空気に漂っていた。

あとがき/次章予告

以上が第3章となります。

前半ではアドリアナが公爵家の書庫整理を通じて、政務に関わり始める様子が描かれ、ローラン家の財政難やコーデリアの挑発による心の揺れも深まっていきました。

中盤では「フライベルク家が裏で王宮と結託し、アドリアナとの離縁を企んでいる」という噂が公爵の耳に入り、彼が激しく怒る場面を通じて、アドリアナとヴァレリウスが“共闘”する形が示唆されました。

終盤では、少しずつヴァレリウスの態度に変化が見え始め、アドリアナに対してかすかな気遣い(そして謎めいた警告)を投げかけるなど、“氷の仮面”にわずかな亀裂が入りはじめたことが示されています。
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