傍若無人の悪役令嬢 ―幸せになりたいなら黙って私に従いなさい―

しおしお

文字の大きさ
6 / 32

第6話 女帝宣言と、堂々たる八つ当たりの美学

しおりを挟む

 難民キャンプの稼働が始まり、公営住宅の建設も着々と進んでいた。
 だが、それと同時に城下町では怒涛の噂が渦巻いていた。

「ヴァイオレット様がスラムを破壊したらしい」
「住民が泣いていたぞ……」
「ひ、ひどすぎる。婚約破棄の腹いせか……?」

 ありとあらゆる悪評が私の元に届いていたが――。

(それがどうしたというの?)

 今日は天気も良い。
 いい香りの紅茶も入っている。
 つまり、“不快に思う理由が何一つない”のである。

 

◆側近、再び過労死寸前

「お嬢様……っ!!
 噂が!噂が止まりません!!」

 側近アルフレッドが、またしても震えながら書類を抱えて走って来た。

「住民からも“急すぎる”という不満が……
 貴族たちは“前代未聞の暴走”と騒ぎ立て……
 王都の新聞では“暴虐令嬢”と大見出しが……!」

「まあ。よろしいではありませんの」

「よろしくありませんッ!!」

 アルフレッドの怒声でティーカップが震えた。

「なぜそんなに落ち着いていられるのですか!?」

「だって、落ち着く理由しかありませんもの」

「ありませんッ!!」

 

◆ヴァイオレット、八つ当たりを高らかに肯定する

「では質問です、アルフレッド。
 私がスラムを壊した理由は何か、あなたは分かります?」

「そ、それは……治安の悪化と衛生問題を解決するためで……?」

「違いますわ」

「えっ?」

「私の領地に、あんな汚物のような街があるのが、
 急に許せなくなったのです」

 ――空気が固まった。

「……お嬢様、それを人前で言っては……!」

「言いますわよ?事実ですもの。
 ええ、立派な 八つ当たりですわ」

 私は堂々と断言した。

 アルフレッドはその場で崩れ落ちた。

「八……っ、八つ当たり……だと……
 自分で言う貴族がどこに……!」

「ここにおりますわ」

「…………」

(アルフレッドが壊れたわね。まあいつものことですわ)

 

◆民衆の抗議?貴族の批判?知らないわ

「ですが、お嬢様!住民の中には“話を聞いてほしい”という者も……!」

「あら。それは“事前に申請”したのかしら?」

「し、申請は……ありません……」

「なら、聞く必要はありませんわ」

 アルフレッドは額を押さえ、今にも倒れそうだ。

 

◆女帝宣言、ついに発動

「皆、勘違いしているみたいだからはっきり言いますわ」

 私は椅子から立ち上がり、窓の外のキャンプと工事現場を見下ろした。

「私は、自分が不快なものは壊します。
 そして――壊した以上、より良いものを作ります」

 その声は、柔らかく、それでいて王命のように重かった。

「誰が何を非難しようと関係ありません。
 “正しい結果”を出す者の決断に、批判する資格などありませんわ」

 背後で側近たちが心の中で叫んでいるのが分かる。

(……ま、まさか……)
(ヴァイオレット様……自分を……女帝と……!?)

 そして私は、堂々と宣言した。

「――この領地における判断は、すべて私が行います。
 異論があるなら、結果を出してから言いなさい。
 それができないなら……黙って従いなさい」

 側近たちの膝が一斉に落ちた。

「お嬢様……まさに……女帝……」

「ええ、自覚はございますわ」

 

◆そして誤解は加速する

 その日のうちに噂が広がった。

「ヴァイオレット様、自らを女帝と名乗る!」
「暴虐令嬢、ついに領主権限の掌握へ……!」
「改革の鬼!いや災厄の姫君では!?」

 しかし私は気にしていない。

(どうでもいい噂に振り回されるなんて、愚か者のすることですわ)

 私が今すべきことはただ一つ。

――公営住宅を、最速で完成させること。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

王太子妃に興味はないのに

藤田菜
ファンタジー
眉目秀麗で芸術的才能もある第一王子に比べ、内気で冴えない第二王子に嫁いだアイリス。周囲にはその立場を憐れまれ、第一王子妃には冷たく当たられる。しかし誰に何と言われようとも、アイリスには関係ない。アイリスのすべきことはただ一つ、第二王子を支えることだけ。 その結果誰もが羨む王太子妃という立場になろうとも、彼女は何も変わらない。王太子妃に興味はないのだ。アイリスが興味があるものは、ただ一つだけ。

婚約破棄?ああ、どうぞお構いなく。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢アミュレットは、その完璧な美貌とは裏腹に、何事にも感情を揺らさず「はぁ、左様ですか」で済ませてしまう『塩対応』の令嬢。 ある夜会で、婚約者であるエリアス王子から一方的に婚約破棄を突きつけられるも、彼女は全く動じず、むしろ「面倒な義務からの解放」と清々していた。

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

私のための戦いから戻ってきた騎士様なら、愛人を持ってもいいとでも?

睡蓮
恋愛
全7話完結になります!

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

処理中です...