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第6話 女帝宣言と、堂々たる八つ当たりの美学
しおりを挟む難民キャンプの稼働が始まり、公営住宅の建設も着々と進んでいた。
だが、それと同時に城下町では怒涛の噂が渦巻いていた。
「ヴァイオレット様がスラムを破壊したらしい」
「住民が泣いていたぞ……」
「ひ、ひどすぎる。婚約破棄の腹いせか……?」
ありとあらゆる悪評が私の元に届いていたが――。
(それがどうしたというの?)
今日は天気も良い。
いい香りの紅茶も入っている。
つまり、“不快に思う理由が何一つない”のである。
◆側近、再び過労死寸前
「お嬢様……っ!!
噂が!噂が止まりません!!」
側近アルフレッドが、またしても震えながら書類を抱えて走って来た。
「住民からも“急すぎる”という不満が……
貴族たちは“前代未聞の暴走”と騒ぎ立て……
王都の新聞では“暴虐令嬢”と大見出しが……!」
「まあ。よろしいではありませんの」
「よろしくありませんッ!!」
アルフレッドの怒声でティーカップが震えた。
「なぜそんなに落ち着いていられるのですか!?」
「だって、落ち着く理由しかありませんもの」
「ありませんッ!!」
◆ヴァイオレット、八つ当たりを高らかに肯定する
「では質問です、アルフレッド。
私がスラムを壊した理由は何か、あなたは分かります?」
「そ、それは……治安の悪化と衛生問題を解決するためで……?」
「違いますわ」
「えっ?」
「私の領地に、あんな汚物のような街があるのが、
急に許せなくなったのです」
――空気が固まった。
「……お嬢様、それを人前で言っては……!」
「言いますわよ?事実ですもの。
ええ、立派な 八つ当たりですわ」
私は堂々と断言した。
アルフレッドはその場で崩れ落ちた。
「八……っ、八つ当たり……だと……
自分で言う貴族がどこに……!」
「ここにおりますわ」
「…………」
(アルフレッドが壊れたわね。まあいつものことですわ)
◆民衆の抗議?貴族の批判?知らないわ
「ですが、お嬢様!住民の中には“話を聞いてほしい”という者も……!」
「あら。それは“事前に申請”したのかしら?」
「し、申請は……ありません……」
「なら、聞く必要はありませんわ」
アルフレッドは額を押さえ、今にも倒れそうだ。
◆女帝宣言、ついに発動
「皆、勘違いしているみたいだからはっきり言いますわ」
私は椅子から立ち上がり、窓の外のキャンプと工事現場を見下ろした。
「私は、自分が不快なものは壊します。
そして――壊した以上、より良いものを作ります」
その声は、柔らかく、それでいて王命のように重かった。
「誰が何を非難しようと関係ありません。
“正しい結果”を出す者の決断に、批判する資格などありませんわ」
背後で側近たちが心の中で叫んでいるのが分かる。
(……ま、まさか……)
(ヴァイオレット様……自分を……女帝と……!?)
そして私は、堂々と宣言した。
「――この領地における判断は、すべて私が行います。
異論があるなら、結果を出してから言いなさい。
それができないなら……黙って従いなさい」
側近たちの膝が一斉に落ちた。
「お嬢様……まさに……女帝……」
「ええ、自覚はございますわ」
◆そして誤解は加速する
その日のうちに噂が広がった。
「ヴァイオレット様、自らを女帝と名乗る!」
「暴虐令嬢、ついに領主権限の掌握へ……!」
「改革の鬼!いや災厄の姫君では!?」
しかし私は気にしていない。
(どうでもいい噂に振り回されるなんて、愚か者のすることですわ)
私が今すべきことはただ一つ。
――公営住宅を、最速で完成させること。
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