傍若無人の悪役令嬢 ―幸せになりたいなら黙って私に従いなさい―

しおしお

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第29話 隣国視察団、悪役令嬢領に震撼す

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ヴァイオレット領――早朝。

街道を走る豪華馬車が数十台。
旗印は隣国アステリオ王国。

先頭の馬車から、立派な衣服に身を包んだ使節団長が姿を見せた。

「本日は、貴国の革命的な領地改革を視察すべく参りました!」

後ろには官僚、技術者、軍関係者まで勢揃い。

エマが眉を上げる。
「……隣国、本気すぎません?」

ミーナは感動で震えている。
「ついに!ついに!お嬢様の改革が世界に……!」

セドリックは面倒くさそうに肩をすくめる。
「まぁ、驚くだろうな。あの惨状だったスラムがコレだからな。」

一方、当のヴァイオレットは――

「あら、勝手に見学するのならご自由に。
私は忙しいので、案内はそちらの方々に任せますわ。」

と、素で興味がなかった。

視察団長は深く礼をする。

「ぜひとも“改革の女帝”御自らのご説明を……!」

「お断りしますわ。」

即答。

視察団長「!?!?!?」


---

◆視察団、圧倒される

渋々ながらミーナとエマが案内することになり、
視察団は最初に公営住宅区へ向かった。

見えるのは整然と並ぶ住居、衛生設備、共同浴場、保育所。

視察団の官僚が呟く。

「……これほど近代化された住宅街が、
わずか数ヶ月で……?」

軍人「住民の武装衝突は?抵抗の暴動は?」

エマ「ありません。強制退去は合理的に行いましたので。」

学者「合理的……?どのように……?」

ミーナが胸を張る。

「番号札を配り、手順通りに動いてもらいました。
その代わり居住権は完全保証しました。」

「に、二段階受け入れ制度……!?」
「これ……むしろ我が国の方が遅れているのでは……」

視察団がざわつく。


---

◆道路整備区でさらに衝撃

舗装された黒石の道路を馬車で滑るように進む。

視察団長「こ、こんなに揺れない馬車は初めてだ……!」

商人「道路が良くなって物流が飛躍的に伸びたんです!」

職人「建設も同時進行で効率化できるんですよ!」

ミーナ「はい!上下水道と道路を“全部まとめて”やりました!」

視察団員
「ま、ま、まとめて!?
そんな危険な非同期施工を――!」

エマ
「ええ、お嬢様の命令でしたから。」

視察団
「(命令!?ぎゃあああ!)」


---

◆治安改善区で完全に震える

新設された監察局の牢屋、“治安センター”を視察する。

囚人たちが規則正しく作業し、
役人たちは冷静に業務をこなしていた。

軍人
「……犯罪者の反乱はどう抑えている?」

エマ
「抑えていません。
“必ず捕まる”という仕組みを徹底しただけです。」

「ひっ……!?」

ミーナ
「ちなみに、牢屋は足りなくなったので二日で増築しました!」

視察団全員
「二日!?!?」


---

◆視察団、震えながら結論を出す

視察団長は震える声で言う。

「これほど短期間で、
人口・物流・治安・衛生……
すべてを同時に改善した領地があるなど……」

そして呟いた。

「――もはや伝説。いや……神話では?」

後ろの官僚が涙ぐむ。

「改革の女帝……どうか我が国にも教えを……!」

その瞬間。

視察団の後ろの方で、
ヴァイオレットが退屈そうに現れる。

「教えて差し上げますわよ?」

視察団長「お、おおお!ぜひ――!」

「まず、スラムを壊しなさい。」

視察団全員
「即答!?!?」
「いきなりそこから!?」
「いや正しいけど!!」

セドリックが遠くで苦笑する。

「……国が変わるな。全部、こいつのせいで。」

ヴァイオレットは、涼しい顔で言った。

「当たり前ですわ。
合理的な判断ほど、世界を動かす力を持っていますの。」

視察団は土下座しそうな勢いで礼を述べた。

こうして――
隣国の歴史もまた、
悪役令嬢の手で狂わされ始めたのである。


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