3 / 41
第3話 冷徹公爵の提示した“白い結婚”
第3話 冷徹公爵の提示した“白い結婚”
応接室に案内され、フィオナとレイヴンは向かい合って座った。
重厚な家具が並ぶ部屋なのに、沈黙は静かでやさしい。
最初に口を開いたのはレイヴンだった。
「先に、私の考えを伝えたい」
彼の声は冷たいわけでも、威圧的でもない。
ただ、誠実に事実だけを述べる声音だった。
「私は、愛情というものに縁がない。幼い頃から政略と義務の中で育ってきたせいだろう。
誰かに心を寄せるという感覚が、分からない」
フィオナは思わず瞬きをした。
公爵としての名声は聞いていたが、こんな個人的な話まで聞けるとは思わなかった。
レイヴンは続ける。
「だからこそ、政略結婚を望む者や、愛を求める者とは結ばれたくない。
私にそれを返すことができないからだ」
淡々とした告白。
けれど、それが彼の真実なのだとフィオナには分かった。
(この方は……誠実な人なのかもしれない)
「その上で、あなたに提案がある」
レイヴンの瞳が静かに向けられる。
冬の湖のような碧色なのに、なぜか冷たくはなかった。
「互いに干渉しない。愛情を求めない。
それでも必要な場面では、夫婦として並び立つ。
そういう──白い結婚がしたい」
フィオナの胸がすっと軽くなった。
まさに、彼女が密かに求めていた形そのものだ。
庭で紅茶を淹れ、読書をしながら過ごす静かな日々。
誰かに心を捧げることを求められない関係。
(こんな結婚が、ありえるの……?)
フィオナはそっと息を整えた。
「……私も、心を縛られない結婚を望んでいました。
静かに、自分の好きな時間を大切にして生きたいと」
その言葉に、レイヴンのまつげがわずかに揺れた。
驚いたのか、それとも……安堵したのか。
「そうか。あなたも同じ考えなら、何よりだ」
フィオナは微笑む。
「はい。あなたの条件に同意いたします。
お互いに無理をせず、穏やかに暮らせるのなら……私にとって理想です」
レイヴンは静かに頷いた。
その仕草ひとつに、丁寧な人柄がにじむ。
「では、正式に婚約を結ぼう。
あなたの生活は、最大限尊重する。
好きなことをしていいし、制限もしない。
ただひとつ──」
彼はゆっくりと言葉を区切った。
「困った時は、必ず私を呼んでほしい」
(……なんて、優しいのだろう)
胸の奥がじんわり温かくなる。
「はい。その時は、公爵様を頼らせていただきますわ」
レイヴンの表情は相変わらず無表情に近い。
けれど、その目の奥が少し柔らかくなったように見える。
「ありがとう。では、結婚の準備は私の側で整える。
あなたは……好きに過ごしていい」
「好きに……?」
「読書でも、菓子作りでも。
あなたの時間を奪うような真似はしない」
フィオナはうっかり口元をほころばせた。
「……そんなふうに言っていただけるなんて、思いませんでした」
「契約だからな。互いが心地よくあるための」
そう言いながらも、レイヴンは彼女を観察するように視線を向ける。
その視線が妙に丁寧で、フィオナは首を小さくかしげた。
(……この方、本当に冷徹なだけではない気がするわ)
ともあれ、こうして──
フィオナとレイヴンの“白い婚約”は正式に成立した。
しかし、この時の二人はまだ知らない。
白いはずの結婚が、どれほど濃く甘いものへ変わっていくのかを──。
応接室に案内され、フィオナとレイヴンは向かい合って座った。
重厚な家具が並ぶ部屋なのに、沈黙は静かでやさしい。
最初に口を開いたのはレイヴンだった。
「先に、私の考えを伝えたい」
彼の声は冷たいわけでも、威圧的でもない。
ただ、誠実に事実だけを述べる声音だった。
「私は、愛情というものに縁がない。幼い頃から政略と義務の中で育ってきたせいだろう。
誰かに心を寄せるという感覚が、分からない」
フィオナは思わず瞬きをした。
公爵としての名声は聞いていたが、こんな個人的な話まで聞けるとは思わなかった。
レイヴンは続ける。
「だからこそ、政略結婚を望む者や、愛を求める者とは結ばれたくない。
私にそれを返すことができないからだ」
淡々とした告白。
けれど、それが彼の真実なのだとフィオナには分かった。
(この方は……誠実な人なのかもしれない)
「その上で、あなたに提案がある」
レイヴンの瞳が静かに向けられる。
冬の湖のような碧色なのに、なぜか冷たくはなかった。
「互いに干渉しない。愛情を求めない。
それでも必要な場面では、夫婦として並び立つ。
そういう──白い結婚がしたい」
フィオナの胸がすっと軽くなった。
まさに、彼女が密かに求めていた形そのものだ。
庭で紅茶を淹れ、読書をしながら過ごす静かな日々。
誰かに心を捧げることを求められない関係。
(こんな結婚が、ありえるの……?)
フィオナはそっと息を整えた。
「……私も、心を縛られない結婚を望んでいました。
静かに、自分の好きな時間を大切にして生きたいと」
その言葉に、レイヴンのまつげがわずかに揺れた。
驚いたのか、それとも……安堵したのか。
「そうか。あなたも同じ考えなら、何よりだ」
フィオナは微笑む。
「はい。あなたの条件に同意いたします。
お互いに無理をせず、穏やかに暮らせるのなら……私にとって理想です」
レイヴンは静かに頷いた。
その仕草ひとつに、丁寧な人柄がにじむ。
「では、正式に婚約を結ぼう。
あなたの生活は、最大限尊重する。
好きなことをしていいし、制限もしない。
ただひとつ──」
彼はゆっくりと言葉を区切った。
「困った時は、必ず私を呼んでほしい」
(……なんて、優しいのだろう)
胸の奥がじんわり温かくなる。
「はい。その時は、公爵様を頼らせていただきますわ」
レイヴンの表情は相変わらず無表情に近い。
けれど、その目の奥が少し柔らかくなったように見える。
「ありがとう。では、結婚の準備は私の側で整える。
あなたは……好きに過ごしていい」
「好きに……?」
「読書でも、菓子作りでも。
あなたの時間を奪うような真似はしない」
フィオナはうっかり口元をほころばせた。
「……そんなふうに言っていただけるなんて、思いませんでした」
「契約だからな。互いが心地よくあるための」
そう言いながらも、レイヴンは彼女を観察するように視線を向ける。
その視線が妙に丁寧で、フィオナは首を小さくかしげた。
(……この方、本当に冷徹なだけではない気がするわ)
ともあれ、こうして──
フィオナとレイヴンの“白い婚約”は正式に成立した。
しかし、この時の二人はまだ知らない。
白いはずの結婚が、どれほど濃く甘いものへ変わっていくのかを──。
あなたにおすすめの小説
酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~
ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、
夜会当日──
婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、
迎えに来ることはなかった。
そして王宮で彼女が目にしたのは、
婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。
領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、
感情に流されることもなく、
淡々と婚約破棄の算段を立て始める。
目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、
頭の中で、今後の算段を考えていると
別の修羅場が始まって──!?
その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、
エヴァンジェリンの評価と人生は、
思いもよらぬ方向へ転がり始める──
2月11日 第一章完結
2月15日 第二章スタート予定
【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
政略結婚のはずが、完璧公爵の溺愛が子リス系令嬢を解き放ちました
宮野夏樹
恋愛
「冷徹」と噂されるヴァレリオ公爵ジュリアンと、淑女らしからぬ「男前」な本性を隠すリシェル伯爵令嬢。
政略結婚で結ばれた二人は、すれ違うばかりの初夜を過ごし、互いの距離は開く一方だった。
だが、ある秘密の趣味が露見したことで、完璧な公爵の仮面が剥がれ落ち、リシェルへの底なしの溺愛が止まらなくなる! 完璧主義の公爵が、リシェルを「可愛いもの」と認識した瞬間から、公爵邸は甘く蕩けるような空気に包まれる。
一方、執拗な嫌がらせを繰り返す邪魔な存在、シャルロッテの出現。
しかし、ジュリアンは「俺の可愛い妻を傷つける者は、決して許さない」と、その絶対的な愛と庇護で全てを排除。
そして、リシェルの長年のコンプレックスだった「男前」な本性も、ジュリアンの愛によって全て肯定され、真の幸福を掴む。
完璧公爵の強すぎる愛で、政略結婚から始まる「愛され新婚生活」は、予想もしない甘さで満たされていく——。
※以前投稿したものの修正版です。
読みやすさを重視しています。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。