『白い結婚から始まったはずなのに、冷徹公爵の溺愛が止まりません!』

しおしお

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第4話 静かな決意と、旅立ちの準備

第4話 静かな決意と、旅立ちの準備

婚約の話が正式にまとまった翌日、
フィオナは珍しく早起きをして、自室の小窓を開けた。

朝の風がカーテンを揺らし、柔らかな光が差し込む。

(公爵家に嫁ぐなんて、今でも不思議な気持ち)

胸の奥がほんの少しざわめく。
けれど、それは不安よりも期待に近いものだった。

レイヴンは誠実で、静かで、何より──
彼女の“自由な時間”を尊重すると言ってくれた。

その言葉が、フィオナの心を大きく支えていた。


---

午前のうちに、弟エルマーが部屋を訪れる。

「姉さん、入ってもいい?」

「もちろん。どうしたの?」

エルマーは、きちんとたたまれた布の包みを抱えていた。

「これ、姉さんに渡そうと思って……」

包みの中には、柔らかい生成りのエプロンドレス。
フィオナが菓子作りや庭仕事の時に身につけるのにちょうど良い。

「これは……エルマーが?」

「ああ。姉さん、向こうでも絶対に料理とかお菓子作るだろう?
俺が手伝える最後の機会だから、作っておきたかったんだ」

「まあ……」

胸の奥が温かくふくらむ。

「ありがとう。大切に使うわ」

照れくさそうに笑うエルマーに、フィオナも穏やかな笑みで応える。

「姉さんが幸せになれるといいな。無理してないといいなって思ってる」

「無理なんてしていないわ。むしろ……自由に過ごせる未来が来る気がしているの」

レイヴンが言ってくれた“好きに過ごせばいい”という言葉が脳裏に蘇る。

「公爵様は、静かな人だけど、とても礼儀正しくて……
私の望む暮らしを大切にしてくれそうなの」

「そうか。なら少し安心したよ」

エルマーは目を細め、自分のことのように嬉しそうだ。

それがまた、フィオナの背中をそっと押す。


---

その日の午後。
荷造りを進めながら、フィオナはふと手を止めた。

小さな木箱を開けると、中にはお気に入りのハーブティーの葉が並んでいる。

カモミール、レモンバーム、ミント……。

(この香りも、向こうに持っていこう)

静かな暮らしを築くための、ささやかな準備。
それをひとつひとつ箱に詰めていくたびに、
未来への不安が、少しずつ希望に変わっていく。

それでも、継母アリシアの絡むような視線は相変わらずだった。

「あなた、本当に公爵家に行くつもりなの?」

「ええ、行きますわ」

「後悔しても知らないわよ。あの家は厳格で冷たいわ。
あなたみたいな地味な娘に務まるはずがないのに」

嫌味のひとつやふたつ、もう気にする気にもならない。
それよりも、心はずっと明るい方向を向いている。

「ご心配なく。私は私の生活を大切にするだけですわ」

アリシアが眉をひそめたが、フィオナは軽く会釈して部屋を後にした。


---

夕方。
屋敷の中庭で、フィオナはひとり深呼吸をした。

(私はもう、誰かに縛られるために生きるつもりはない)

静かに、しかし確かな決意が胸に宿る。

明日には、公爵家へ向かう馬車が迎えに来る。
新しい生活が始まるのだ。

夜空に浮かぶ一番星を見上げながら、フィオナはそっと微笑んだ。

(静かで、穏やかで、自分らしく過ごせる毎日が……
きっと、あの方のもとにあるはず)

その願いはやがて、予想もしなかった形で叶うことになる。


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