『白い結婚から始まったはずなのに、冷徹公爵の溺愛が止まりません!』

しおしお

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第11話 王都に流れる“後悔”の噂

第11話 王都に流れる“後悔”の噂

王都では、ある噂が静かに広がりはじめていた。

──侯爵家オスカー・レイフィール。
かつてフィオナの婚約者だった男。

その彼が今になって、酒場でこう漏らしていたという。

「フィオナを手放すんじゃなかった……
あんなに従順で、あんなに俺を慕っていたのに……」

「胸がどうとか言って浮気したくせに、後悔してるらしいぜ」

「しかも、公爵家に嫁いだって聞いて慌ててるらしいぞ」

そんな声が王都の夜風に乗り、
やがて貴族街へ、そして公爵家へと届くのに時間はかからなかった。


---

その日の午後。
フィオナは庭のテラスで紅茶を飲んでいた。

陽光がやわらかく降りそそぎ、
バラの香りがふわりと風に乗って流れてくる。

(ここで過ごす時間、本当に好き)

レイヴンとの生活にも少しずつ慣れ、
心の中の緊張も和らいできた頃だった。

そこへリリィが駆け込んできた。

「フィ、フィオナ様! たいへんです……!」

「どうしたの? そんなに慌てて」

「前婚約者の……その……オスカー様が……」

フィオナの手が、持っていたカップの縁の上で止まった。

「……何か、あったの?」

「王都で“フィオナ様を取り戻したい”と漏らしているそうです!」

「──!」

心臓が一度、どくんと跳ねる。

フィオナは思わず俯く。

(そんな……どうして今さら……)

嫌な記憶が胸の奥からせり上がってくる。
侮辱された日、継母に責められた日、
どれだけ惨めだったか。

「私……戻る気なんてありませんのに……」

手がわずかに震えたその時──

影が差した。

「戻る必要はない」

レイヴンがいつの間にか立っていた。

「公爵様……」

レイヴンの瞳は深い湖のように静かで、しかし冷たく光っていた。

「その男がどう言おうと、もうおまえに関わる権利はない」

「……でも、噂が広がって……迷惑になるのでは」

「迷惑ではない。ただ、不快だ」

はっきりと言い切られ、フィオナは目を瞬いた。

レイヴンは続ける。

「必要のない者は、近づけない。
まして、おまえを傷つけた者など、屋敷の敷居さえ跨がせない」

その声は淡々としているのに、底に鋼のような決意が宿っていた。

リリィが震えながら呟く。

「み、見ました? あの表情……
“氷の公爵”がこんな怒っているなんて……!」

怒っている。
表にはほとんど出ていないのに、分かる。

レイヴンの静かな怒りは、むしろ恐ろしいほどだった。

しかしフィオナは、
その怒りが“自分を守るため”だと理解した瞬間──胸がじんわり温かくなった。

「……ありがとうございます、公爵様」

レイヴンは視線を逸らし、わずかに咳払いする。

「礼はいらない。私は……当然のことをしただけだ」

その横顔は、いつもより少しだけ柔らかかった。


---

その頃、王都ではさらに新たな噂が流れ始めていた。

「オスカー、焦ってるらしいぞ」
「公爵家が警戒し始めてるらしい」
「戻ろうとしても、今さらどうにもならないのに……馬鹿だな」

後悔は、もう遅い──。

そしてその噂は、
彼自身をも巻き込む波となっていくのだった。


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